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17-4.夢2二人羽織
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「満足ですか」
反省しなさいと、ジト目で見てあげる。
「そ、そんな目で見るなよ。俺にも罪悪感はあるんだ。それでも止められないだけで」
目的が達成されて、すっかり落ち着いちゃっている彼を恨みがましい目で、なおもじーーっと見る。
「やめてくれって。悪かったよ」
私の妄想を見るのが、彼の性癖になっている気がする。
「ほんと、困るなぁ。私の妄想にハマりすぎだよ」
バツの悪そうな顔をする彼に、手を差し出した。
なんだろうというような顔をしながら、そっと握り返される。
そんな関係になれたことが嬉しい。
「じゃ、残りの時間は夢デートだね」
にっこりと笑いかけると、ホッとした様子で彼も笑った。
見ちゃいけないものを見た自覚は、あるらしい。
「何にでも、付きあうよ」
何だか、立場が逆転している気がする。
夢の中での関係は、最初はどうだったか。
お願いだから抱いてと、私が押せ押せだった気がする。
今は、妄想を見せて見せてと彼が押せ押せだから、逆転したように感じるんだろうか。
手を前方にかざして、空を夜の闇に変え、オーロラを出現させた。ガラス張りだった教室は、一面のラベンダー畑に姿を変える。
「すごいな。まるで魔法使いだ」
感嘆の声をあげる斉藤くんに、ふふんと得意そうに鼻を鳴らした。
「だよね、私もそう思った。我ながらすごいなって」
ただの、夢だけど。
「斉藤くんが、虹色のラムネを食べて夢の中で色々したいって言ってたから。せっかくだし、私も夢でしか見れない風景を見たいなって思って」
オーロラが鮮やかに光を放ちながら、姿を変える。
「確かに、夢でしか見れないな。神秘的だ」
「せっかくだし、神でも降臨させる?」
「それはいい」
調子に乗って提案するも、断られる。私も、2人きりのこの空間には、たとえ神であっても誰にもいてほしくない。
そういう意味で断ってくれたんだといいな。
手をつないで空を見上げながら、ラベンダー畑をゆっくりと歩く。
夢だから踏み潰す心配もないし、虫もいない。最高だ。
「今まではさ、女の子と付きあうとか、楽しいよりも面倒だろうと思ってたんだ」
空を見上げたままで、斉藤くんがボソッと呟くように言った。
「そうなんだ。確かに女性って私を含めて面倒な部分はあると思うよ」
相手の言葉や態度で一喜一憂するし、こうしてほしい、ああしてほしい、みたいな欲望は尽きない。自分でも、自分が面倒くさいと思うことはよくある。
「女性が、というよりさ。お互いの愛情の需要と供給は一致しないのが普通だろ? 連絡を取りあう量、会う回数、記念日を祝う熱量だったり、欲しい言葉だったりさ。違う人間同士なんだから、違うのが当然だ」
そんな小難しいことを恋愛に対して考えていたんだ。
私は、ただ好き好きーってだけだったんだけど。
「自分が望むものと、与えられるものが釣り合っていなければ、不満がたまるに決まっている。上手くいかないのが、当然。ただの面倒ごとだって、思ってた」
そういえば、前に両親が不仲だって言ってたな。
嫌と言うほど、そんな様子を見てきたのかもしれない。
「そっか。でも過去形なの? 今は違う?」
私に対して、自惚れでなければ、もうかなり好意的だと思う。聞く必要のない質問だと思いながらも、安心したくて聞いてしまった。
「上手くいかないのが当然、ではないのかなって。不満ゼロはさすがに無理だろうけどさ。上手くいくほうに賭けたくなる気持ちは理解できる。今はね」
ずっと上を見ていた瞳が、いきなりこちらを見たのでドキリとする。
「大丈夫だと思うよ? だって私、斉藤くんのこと大好きだもん」
「理由になってないな」
「大丈夫、大丈夫!」
自分のことだけ考えるんじゃなくて、相手のこともちゃんと思いやりだったり気遣いだったりをできる関係なら大丈夫だと思う。
でも、それを言葉にするのは、ちょっとはばかられた。
言ってしまうと、優しくしてよとお願いしているみたいだしね。
「でも、いい関係を続けるためにも、斉藤くんに不満があるなら、聞いておきたいなー。何かある?」
軽い感じで聞く。
いや、と否定するような素振りの後に、突然目が泳ぎ始めた。
これは、アレか。
やっぱりアレなのか。
「毎回、妄想見せてとか言う気?」
「うっ」
「もー、そればっかり!」
需要と供給のバランス、か。
供給、したくないんだけどなー。
「私の精神が擦り減るんだけど! 擦り減った部分の穴埋めは、何をしてくれるんだろー?」
ううう、と頭を抱えてしまった。
これ以上言うと、恋愛はやっぱり面倒事だという結論に至ってしまうかもしれない。
「冗談だよ、冗談。私は斉藤くんが大大大大大好きなんだから、困らせたいなんて思ってないよ」
「……桜ちゃんって、結構いじわるだよね」
「なんでそーなるの」
失礼な。そこは猛抗議をさせてもらおうと思うも、なぜか斉藤くんの顔が赤い。
「なんか、顔赤いよ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。もう、俺ちょっとおかしいんだよ」
「え、どういう意味?」
「責任、とってくれよな」
女の子みたいなことを言いながら、突然彼の身体が薄くなり始めた。
「えっ、ちょっちょ、えー、ここで消えるの?」
「じゃーな!」
軽く手をあげて、斉藤くんの姿があっさりと跡形もなく消えた。
「責任ってなに……」
今の言葉の意味を考える間もなく、私もそこから消えた。
反省しなさいと、ジト目で見てあげる。
「そ、そんな目で見るなよ。俺にも罪悪感はあるんだ。それでも止められないだけで」
目的が達成されて、すっかり落ち着いちゃっている彼を恨みがましい目で、なおもじーーっと見る。
「やめてくれって。悪かったよ」
私の妄想を見るのが、彼の性癖になっている気がする。
「ほんと、困るなぁ。私の妄想にハマりすぎだよ」
バツの悪そうな顔をする彼に、手を差し出した。
なんだろうというような顔をしながら、そっと握り返される。
そんな関係になれたことが嬉しい。
「じゃ、残りの時間は夢デートだね」
にっこりと笑いかけると、ホッとした様子で彼も笑った。
見ちゃいけないものを見た自覚は、あるらしい。
「何にでも、付きあうよ」
何だか、立場が逆転している気がする。
夢の中での関係は、最初はどうだったか。
お願いだから抱いてと、私が押せ押せだった気がする。
今は、妄想を見せて見せてと彼が押せ押せだから、逆転したように感じるんだろうか。
手を前方にかざして、空を夜の闇に変え、オーロラを出現させた。ガラス張りだった教室は、一面のラベンダー畑に姿を変える。
「すごいな。まるで魔法使いだ」
感嘆の声をあげる斉藤くんに、ふふんと得意そうに鼻を鳴らした。
「だよね、私もそう思った。我ながらすごいなって」
ただの、夢だけど。
「斉藤くんが、虹色のラムネを食べて夢の中で色々したいって言ってたから。せっかくだし、私も夢でしか見れない風景を見たいなって思って」
オーロラが鮮やかに光を放ちながら、姿を変える。
「確かに、夢でしか見れないな。神秘的だ」
「せっかくだし、神でも降臨させる?」
「それはいい」
調子に乗って提案するも、断られる。私も、2人きりのこの空間には、たとえ神であっても誰にもいてほしくない。
そういう意味で断ってくれたんだといいな。
手をつないで空を見上げながら、ラベンダー畑をゆっくりと歩く。
夢だから踏み潰す心配もないし、虫もいない。最高だ。
「今まではさ、女の子と付きあうとか、楽しいよりも面倒だろうと思ってたんだ」
空を見上げたままで、斉藤くんがボソッと呟くように言った。
「そうなんだ。確かに女性って私を含めて面倒な部分はあると思うよ」
相手の言葉や態度で一喜一憂するし、こうしてほしい、ああしてほしい、みたいな欲望は尽きない。自分でも、自分が面倒くさいと思うことはよくある。
「女性が、というよりさ。お互いの愛情の需要と供給は一致しないのが普通だろ? 連絡を取りあう量、会う回数、記念日を祝う熱量だったり、欲しい言葉だったりさ。違う人間同士なんだから、違うのが当然だ」
そんな小難しいことを恋愛に対して考えていたんだ。
私は、ただ好き好きーってだけだったんだけど。
「自分が望むものと、与えられるものが釣り合っていなければ、不満がたまるに決まっている。上手くいかないのが、当然。ただの面倒ごとだって、思ってた」
そういえば、前に両親が不仲だって言ってたな。
嫌と言うほど、そんな様子を見てきたのかもしれない。
「そっか。でも過去形なの? 今は違う?」
私に対して、自惚れでなければ、もうかなり好意的だと思う。聞く必要のない質問だと思いながらも、安心したくて聞いてしまった。
「上手くいかないのが当然、ではないのかなって。不満ゼロはさすがに無理だろうけどさ。上手くいくほうに賭けたくなる気持ちは理解できる。今はね」
ずっと上を見ていた瞳が、いきなりこちらを見たのでドキリとする。
「大丈夫だと思うよ? だって私、斉藤くんのこと大好きだもん」
「理由になってないな」
「大丈夫、大丈夫!」
自分のことだけ考えるんじゃなくて、相手のこともちゃんと思いやりだったり気遣いだったりをできる関係なら大丈夫だと思う。
でも、それを言葉にするのは、ちょっとはばかられた。
言ってしまうと、優しくしてよとお願いしているみたいだしね。
「でも、いい関係を続けるためにも、斉藤くんに不満があるなら、聞いておきたいなー。何かある?」
軽い感じで聞く。
いや、と否定するような素振りの後に、突然目が泳ぎ始めた。
これは、アレか。
やっぱりアレなのか。
「毎回、妄想見せてとか言う気?」
「うっ」
「もー、そればっかり!」
需要と供給のバランス、か。
供給、したくないんだけどなー。
「私の精神が擦り減るんだけど! 擦り減った部分の穴埋めは、何をしてくれるんだろー?」
ううう、と頭を抱えてしまった。
これ以上言うと、恋愛はやっぱり面倒事だという結論に至ってしまうかもしれない。
「冗談だよ、冗談。私は斉藤くんが大大大大大好きなんだから、困らせたいなんて思ってないよ」
「……桜ちゃんって、結構いじわるだよね」
「なんでそーなるの」
失礼な。そこは猛抗議をさせてもらおうと思うも、なぜか斉藤くんの顔が赤い。
「なんか、顔赤いよ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。もう、俺ちょっとおかしいんだよ」
「え、どういう意味?」
「責任、とってくれよな」
女の子みたいなことを言いながら、突然彼の身体が薄くなり始めた。
「えっ、ちょっちょ、えー、ここで消えるの?」
「じゃーな!」
軽く手をあげて、斉藤くんの姿があっさりと跡形もなく消えた。
「責任ってなに……」
今の言葉の意味を考える間もなく、私もそこから消えた。
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