上 下
24 / 52

15.図書館

しおりを挟む
 どういう意味なのかな。
 好きだからってこと?
 好きかもしれないからってこと?
 それとも男性にはしないけど、女性にはってこと?

 顔が熱くなりすぎて、目も合わせられない。
 こんな顔、見られたくない。

 火照りが収まるのを、風景を眺めながらしばらく待った。
 降りるべき駅名がアナウンスされたところで、冷静な顔を装ってお返しする。

「私も、だよ。テストまで2週間と迫っているタイミングで人と会うなんて、誰にでもってわけじゃない」

 一瞬の間があった後に、彼はぷっと吹き出すと、私の腕をポンポンと触った。

「そうだな。築山さんの知られざる勉強法をチェックする大チャンスだよな、今日は。楽しみだよ」
「えー、見物料取っちゃおうかなー」
「ジュース1本な」

 指を1本立てて、彼が人懐っこそうに笑う。

「冗談だよ。そんな見るほどの価値はないって」
「知りたい奴、けっこういると思うよ」
「それは幻滅されるね」
「幻滅される勉強法ってどんななの。逆に楽しみだけど」

 少し盛り上がったところで駅に到着した。
 人がまばらに散っていく。私たちも図書館に向かって歩き出した。

 斉藤くんに触れられた腕に、つい目がいってしまう。
 私からも、触りたい。
 でも、どうしたらそんな流れになるのか、分からない。

 背の高いビルはないけれど、建物だけは続いていく。田舎とも都会ともいえない中途半端な道を歩きながら、本当にさっき、会話をしていたんだろうかと思うような沈黙の中、信号機の押しボタンを押した。図書館はもう目の前だ。

「今日はどの科目の勉強するの?」

 目的地はすぐそこだ。すぐに終わりそうな話題をふった。

「社会。暗記系を先に終わらせようと思って」
「今からだと、一部忘れちゃわない?」
「そこを気にしたら、勉強なんてできないよ。ますます、築山さんの勉強法が気になるな」
「たいしたことないって」

 話しながら玄関へと向かい、中に入る。
 彼が指差す方向へついて行きながら、昼まではもうおしゃべりできないことを残念に思った。

 デートしたいなぁ。
 いっぱいしゃべりたい。

 階段を上がり、彼が開けてくれた扉の中を見ると、たくさんの机と椅子が窓の方角へ向かって並んでいた。

 ここが自習室かぁ。
 勉強するための場所って感じ。

 ここでいいかと彼が指差す席を見ながら、うんと頷く。

 私たちは目配せをしながら、お互い無言で席に座った。
 先ほど言っていた通り彼は社会の勉強をするようで、教科書と資料集を取り出している。

 休日に、彼と一緒にいる。
 そのことにもう少し浸りたかったけれど、仕方ない。浮かれて点数は落としたくないし、勉強モードに入ろう。

 私も、英語の教科書とテスト用に作成したノート、それから落書き帳を取り出し、隣に彼がいることをできるだけ意識しないようにしながら、集中し始めた。

   *

「なるほどね」

 図書館を出るなり、彼が呟いた。

「なるほどって、何が?」

 お昼になってしまった。
 どうしたらいいんだろう。
 何かを食べて、午後も一緒に勉強?
 それとも、もう帰るつもりなのかな。

「築山さんの英語の点数が、高い理由。なるほどねーって思ってさ」
「あぁ。あれね」

 テスト用に、教科書や演習の日本語訳だけを事前に書いておいたノートを見ながら、ひたすら英文を不要紙に書く勉強法だ。教科書は答え合わせのために持ってきた。

「テスト範囲を丸暗記すれば、点数取れるでしょっていう、ただの荒技だよ」
「なるほど」
「1週間前までには何も見なくてもテスト範囲のページは全て書けるようにまでもっていくけど、テストが終わると全部忘れちゃうの」
「それは器用だね」
「器用! 上手い言い方するね。その表現、もらお」

 にこにこと笑いあう。
 図書館に来た時よりも、距離が近い気がする。
 こんなに近くで斉藤くんの顔を見れるなんて、まるで夢の中みたい。

 ……夢の話は、今日はしなくていいかな。むしろ、仲良くなったという結果だけが残れば、それが1番だ。

「そこの店で、俺は何か頼もうと思ってるけど、一緒に食べる?」

 どこに向かっているのか分からないまま斉藤くんについて歩いていたら、小窓から持ち帰り用のお好み焼きや焼きそば、たこ焼きやアイスクリームを売っている店が目の前に見えた。

「うん、そうするー」

 お金、持ってきておいて良かった。

「何がいい?」
「たこ焼き! 普段食べられないし」
「たこ焼き器がないと、無理だよなー。俺もそうしよ」

 彼は「たこ焼き2つ」と言って財布を出したので、私も慌てて鞄を開けると「いい、いい」と静止され、千円札を彼が出した。

「え、で、でも……」
「昼食べるって、言ってなかったし。いいよ」
「あ、ありがとう」

 お店のおばちゃんが「はーい」と言いながら、生暖かい目でこちらを見ている気がする。

 こそばゆい。
 なんて、こそばゆいやり取りなんだろう。
 ただ片想いしているだけじゃ味わえない、こそばゆさだ……!

 ぽやぽやと幸せに浸りながら、あつあつのたこ焼きが出来上がるのを待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...