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12 麻衣の暴走

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 好きな人がバレてしまった気恥ずかしさを抑えながら、立ち去る斉藤くんの背中を見つめた時、麻衣が突然大きな声を出した。

「斉藤く~ん!」

 うぉぉぉぉぉおおおおおおい!!!

 麻衣の張り上げた声が彼へと届き、振り向いた。

 何!?
 何話しかけてくれちゃってるの!?
 空気読もう???

 麻衣の、麻衣のアホォぉぉぉ!

 声にもならない悲鳴を心の中であげているのを知ってか知らずか、ぴょんこぴょんこ飛び跳ねるように斉藤くんの真横に進んで、こう言った。

「私、クラスメイトの貝塚麻衣だけど、分かる? しゃべったことないけど」
「まぁ、一応」
「隣のクラスに彼氏がいるの。真鍋透って男の子」
「はぁ。それが何?」

 斉藤くんの返事は、にべもない。でも、気持ちは分かる。私も同じことを思った。

「だから、桜も一緒でダブルデートしよ?」
「は?」
「はぁああぁ?」

 斉藤くんと私の声が、被った。
 最後のが私だ。
 一体、何を馬鹿なことを言い出してるの!?

「意味が分からない。理由は?」
「朝、何となく2人が仲良さそうだなーって思ったから」
「それ、理由になってないだろ」

 そう言って、呆れた顔で斉藤くんが私を見た。私の差し金かどうか気になっているのかもしれない。
 何てことしてくれるの、麻衣!

「わ、私、何も、頼んだりとかは、してないよっ」

 両手を左右に振って、否定する。
 斉藤くんは一つため息をつくと、麻衣に向き直った。

「築山さんに任せる」
「それは、桜が一緒に行きたいなら、行くってこと?」

 キラキラした瞳で彼を見ているけど、私が彼に気があると言ってるようなものでしょ。
 勘弁してー。

「築山さんに、任せる」

 斉藤くんは、もう一度同じ言葉を今度は私の方を向いて言った。

「俺の連絡先は、知ってるだろ?」
「う、うん」
「何かあったら、築山さんから連絡して。じゃ」

 そう言ってきびすを返し、立ち去って行った。さすがに、麻衣もこれ以上は食い下がらないようだ。
 姿が遠くなってから、麻衣へと憤慨する。

「麻衣ーっ、何てことするの! あたたかく見守ってくれるだろうと思って言ったのにーっ」
「ご、ごめんごめん。でも、お願いすればダブルデートできそうじゃんっ。計画しよ、計画ー」
「反省が足りない!」

 頬を膨らませて怒るも、全く効いていないようだ。

「ダブルデートか、いいな。私達もこっそりついて行くか、楓」
「そうね。沙月とデートも悪くないし」

 2人まで、乗り気になっている……。

「全然こっそりする気ないでしょ」

 そう突っ込んでも、「どこがいいかな」なんて話し合っている。
 当の私が置いてけぼりなんですが。

「トリプルデートかぁ、嬉しいな。桜はどこに行きたい?」

 麻衣が顔を綻ばせて言うので、私はちょっとばかり意地悪な顔でこう返した。

「中間テストが終わってから、考えます!」
「えぇーーーーー!!!」

 3人のえーが、ハモっている。

「2週間は、勉強に専念します!」
「そんなぁ、桜ぁ」
「ほら、愛しの透くんを待たせてるんでしょ? 麻衣」
「うぅぅぅぅ~」

 端に寄っていた私たちは、また坂を下り始めた。
 高校の近所に住んでいる麻衣と彼氏の真鍋くんは、坂の下でいつも待ち合わせて一緒に帰っている。
 きっと今日も坂を下り終えれば、すぐ右手の曲がり角に、彼が待っているんだろう。

「いいな」

 沙月がポツリと言う。

「いいわよね」

 楓も、うんうんと頷いた。

「えっへへ。じゃぁまた明日ね。場所は桜、考えといてねー!」

 にこにこ笑って、麻衣だけが右に曲がった。
 背の高い真鍋くんが、麻衣の頭に手を置いて笑いかけるのを視界の隅に入れつつ、私達は電車へ向かう。

「いいなー」

 私も、つい羨ましくて、そう言ってしまった。

「桜は、これから頑張るんだろ?」
「連絡先まで聞いたんでしょ。キリキリ動きなさいよ」

 2人から、余計なプレッシャーがかけられる。

「私は、静かにこっそり想ってるだけでよかったのになー」

 そう言って天を仰ぐ私に、2人は笑ってポンポンと肩を叩いた。

「いざという時は、私がいる。骨は拾ってやるよ」
「安心して砕けなさい」

 半分くらい、面白がられている気がする。
 面倒なことになったなぁ。
 そう思いながらも、デート場所に思いを巡らせた。
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