上 下
2 / 6

第2話

しおりを挟む
 次の日の朝。目が覚めると、部屋の隅には昨日の医務官が座っていた。

「やあ、おはよう。って、もうすぐ昼だけどね。何か食べられそう?」

 私が小さく頷くと、一度部屋から出て粥の様なものを持ってきた。米を更に潰したのかドロドロしている。ほとんど動けない私は、食べさせて貰うよりなかった。

「すみません」

 顔を赤らめながら、ルークが口に運んでくれる粥を食べる。

「気にすることはないよ。それより、昨日カーテンを開けたのはアメリア様かな?」

「はい。魔力は、問題ないみたいです」

「そうか。日常生活的な事は、怪我が治ったら大丈夫そうだね」

「ええ」

 距離が近くて恥ずかしくなり、俯いてしまう。いくら何でも近すぎではないだろうか? ルークは俯いている私を見ると、苦笑しながら午後に国王が訪ねて来ると教えてくれた。

「私に会いに来るのですか?」

「『まだ、そんな状態ではない』って、言ったんだけどね‥‥‥どうしても顔が見たいと陛下が仰ったんだよ」

「‥‥‥私、覚えてません」

「そうだろう。ただ、お見舞いに来て顔を見るだけだと思うし、そんなに気負わなくても大丈夫だよ」

「私は、王の‥‥‥陛下の婚約者候補だったのですか?」

「うん‥‥‥今も候補だよ。あ‥‥‥えっと、言いづらいんだけど、候補といってもたくさんいてね。そのうちの1人だったんだ。爵位の順番でいくと、候補としては4番目くらいだったかな?」

 婚約者候補だったのに、何故私は戦争へ行ったのだろうか? 分からないことだらけだ。

「やはり、会わなければなりませんか? 知らない人に、この顔や身体の傷を見せなければならないのは、恥ずかしい‥‥‥です」

 やっとの思いでそう言うと、ルークは私の手を取って頷いた。

「大丈夫。ちゃんと断ってくるよ‥‥‥そうか、そうだよね。その調子だと僕の事も覚えてないみたいだね」

「‥‥‥すみません」

「いや、謝らなくていいよ。僕は、君の幼なじみのルーク・ヴァイオレット。ヴァイオレット伯爵家の跡取り息子だよ。小さい頃、一緒に木登りして遊んだ仲だから、そんなに気を使わなくても大丈夫」

「ありがとう‥‥‥ございます」

「ちょっと待ってて。陛下に伝えてくるから」

 そう言って、ルークは部屋から出ていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春告竜と二度目の私

こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて―― そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。 目が覚めたら、時が巻き戻っていた。 2021.1.23番外編追加しました。

悪魔な娘の政略結婚

夕立悠理
恋愛
悪魔と名高いバーナード家の娘マリエラと、光の一族と呼ばれるワールド家の長男ミカルドは婚約をすることになる。  婚約者としての顔合わせの席でも、夜会でもマリエラはちっとも笑わない。  そんなマリエラを非難する声にミカルドは、笑ってこたえた。 「僕の婚約者は、とても可愛らしい人なんだ」 と。  ──見た目が悪魔な侯爵令嬢×見た目は天使な公爵子息(心が読める)の政略結婚のはなし。 ※そんなに長くはなりません。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

処理中です...