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仕掛け
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「……だが、すまない。もう後戻りはできないんだ」
辺りを見渡し、これほどの人に見られていてはもう覆すことはできない。できるほど王族の言葉は安くない。
こうなることがわかっていたから友人たちや父上たちは止めたのだろうか。いや、例えアイリスの気持ちを彼らが知っていたとしても、俺が止まることはなかっただろう。
「さよならだアイリス。愚かな王族を演じるつもりだったが、俺は本当に愚かだったらしい。本当にすまなかった」
「……私の、私のせいですね。私が殿下にふさわしくなるためと、凛々しくいようとしていたせいで……ううっ……」
アイリスがうつむきながらポツリと呟く。その姿を見て、胸がズキリと痛む。
「私が殿下からプレゼントをもらった時も、とても、とても嬉しかったのですが……、常に凛々しくいようとした結果、愛想笑いと思われてしまいましたし……」
「アイリス……」
そっか、あの表情は嬉しさを堪えて……それでも、その表情を見せてくれていたら、いや、俺にそんなことを言う資格なんてないか。
「殿下が成績などで私に追いつくために、涙を拭いながら勉強しているのを知らぬふりをしていましたし」
「アイリス、もうい……ん?」
今なんて?
「王妃様に罰として女装を言い付けられて、それを忘れたまま騎士たちの訓練に参加しているのを見て見ぬふりをしたり」
「ちょっと待て」
「関わりすぎると嫌われると思い、怖がっていました。もっと私から関わるべきだったのです。……だから、だからやり直しましょう、殿下」
アイリスが俺の手を掴み、微笑みかける。その際に、甘く、安心する匂いが鼻腔をくすぐる。このまま「ああ」と言えたらどれくらいの幸せが待っているだろうか。
しかし、それはできない。
出来るだけ優しくアイリスの手を解き、ほどっ、解けない!? どれだけ強く握っているのアイリス!?
解くのを諦めて、――決して力負けしたわけではない。これ以上力を入れるとアイリスを傷つけてしまうからだ――そのままアイリスに話しかける。
「アイリス、君もわかっているだろう? この場で宣言してしまった以上、もう覆ることはできない。覆してはいけないんだ」
そう。だからアイリスももう諦めて……なんでそんなに笑顔なの?
「ふふっ、殿下が素直で真面目で、やっぱり可愛い事を再確認したからです」
「揶揄わないでくれ。だから、すまない」
「いえ、謝らないでください。私は殿下と婚約破棄をするつもりはないですから」
「……だから、何度も「殿下」……なんだ?」
「周りを見てください」
そう言われて周りを見る。俺たちの様子を見守るように、なぜか微笑ましげに見られている気がするのは気のせいだろうか?
「わかりましたか?」
「……いや、どういうことだ?」
「この場に学生は1人もいないのですよ?」
アイリスにそう言われて、もう一度、今度はじっくりと周りを見渡す。確かに、生徒全員の顔を覚えているわけではないが、知っている顔は1人もいない。だが、なぜ?
「殿下が婚約破棄をしたがっているという噂を聞きまして。それに、おそらくですが自分に非があるように言うだろうとも。だから、この場を急遽用意させていただきました」
アイリスに聞かされた事に開いた口が塞がらない。実は卒業式は明後日だとか、この場にいるのはオーフェリア公爵家や王城で働いている者の使用人の親族である事だとか。そんな事あり得るのか? 俺に都合が良すぎないか?
なにより、ここまで俺の行動を予測して用意する事ができるだろうか。
その手腕に驚きと少しの嫉妬、それと多大な安心感が心を満たす。
そのせいか足元がふらつき、前に倒れそうになるのを後ろから誰かに支えられた。
辺りを見渡し、これほどの人に見られていてはもう覆すことはできない。できるほど王族の言葉は安くない。
こうなることがわかっていたから友人たちや父上たちは止めたのだろうか。いや、例えアイリスの気持ちを彼らが知っていたとしても、俺が止まることはなかっただろう。
「さよならだアイリス。愚かな王族を演じるつもりだったが、俺は本当に愚かだったらしい。本当にすまなかった」
「……私の、私のせいですね。私が殿下にふさわしくなるためと、凛々しくいようとしていたせいで……ううっ……」
アイリスがうつむきながらポツリと呟く。その姿を見て、胸がズキリと痛む。
「私が殿下からプレゼントをもらった時も、とても、とても嬉しかったのですが……、常に凛々しくいようとした結果、愛想笑いと思われてしまいましたし……」
「アイリス……」
そっか、あの表情は嬉しさを堪えて……それでも、その表情を見せてくれていたら、いや、俺にそんなことを言う資格なんてないか。
「殿下が成績などで私に追いつくために、涙を拭いながら勉強しているのを知らぬふりをしていましたし」
「アイリス、もうい……ん?」
今なんて?
「王妃様に罰として女装を言い付けられて、それを忘れたまま騎士たちの訓練に参加しているのを見て見ぬふりをしたり」
「ちょっと待て」
「関わりすぎると嫌われると思い、怖がっていました。もっと私から関わるべきだったのです。……だから、だからやり直しましょう、殿下」
アイリスが俺の手を掴み、微笑みかける。その際に、甘く、安心する匂いが鼻腔をくすぐる。このまま「ああ」と言えたらどれくらいの幸せが待っているだろうか。
しかし、それはできない。
出来るだけ優しくアイリスの手を解き、ほどっ、解けない!? どれだけ強く握っているのアイリス!?
解くのを諦めて、――決して力負けしたわけではない。これ以上力を入れるとアイリスを傷つけてしまうからだ――そのままアイリスに話しかける。
「アイリス、君もわかっているだろう? この場で宣言してしまった以上、もう覆ることはできない。覆してはいけないんだ」
そう。だからアイリスももう諦めて……なんでそんなに笑顔なの?
「ふふっ、殿下が素直で真面目で、やっぱり可愛い事を再確認したからです」
「揶揄わないでくれ。だから、すまない」
「いえ、謝らないでください。私は殿下と婚約破棄をするつもりはないですから」
「……だから、何度も「殿下」……なんだ?」
「周りを見てください」
そう言われて周りを見る。俺たちの様子を見守るように、なぜか微笑ましげに見られている気がするのは気のせいだろうか?
「わかりましたか?」
「……いや、どういうことだ?」
「この場に学生は1人もいないのですよ?」
アイリスにそう言われて、もう一度、今度はじっくりと周りを見渡す。確かに、生徒全員の顔を覚えているわけではないが、知っている顔は1人もいない。だが、なぜ?
「殿下が婚約破棄をしたがっているという噂を聞きまして。それに、おそらくですが自分に非があるように言うだろうとも。だから、この場を急遽用意させていただきました」
アイリスに聞かされた事に開いた口が塞がらない。実は卒業式は明後日だとか、この場にいるのはオーフェリア公爵家や王城で働いている者の使用人の親族である事だとか。そんな事あり得るのか? 俺に都合が良すぎないか?
なにより、ここまで俺の行動を予測して用意する事ができるだろうか。
その手腕に驚きと少しの嫉妬、それと多大な安心感が心を満たす。
そのせいか足元がふらつき、前に倒れそうになるのを後ろから誰かに支えられた。
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