38 / 57
受け入れられない現実
しおりを挟む
私は今リオン様とサリアとともに、かつての、違う、本当の私の家に来ている。
「ここか?」
「…はい」
リオン様の言葉を肯定して家の中に入ると、懐かしい香りと埃臭い匂いが混じっている。いつから家に帰って来てないんだっけ…
この家を離れてからどれくらいの月日が経ったのか覚えていないぐらい濃い日を過ごし続けている。
今まで入ってはいけないと言われ続けていた父の部屋に入る。
部屋の中には床一面に紙が散りばめられており、机の上には毒にまつわる本がたくさんある。と言っても、三冊だけだが、本は高級品であり、庶民にしては多すぎるぐらいだ。
まぁ、父は貴族なのだけれども…
本の横には、見覚えのある草が枯れていて、なんの草だったのかは私にはわからない。
「枯れていますね。ですが何かの役には立つでしょうか?」
「枯れているとはいえ、触れるなよ。何が起こるかわからん」
サリアとリオン様が話している中、小さな紙切れを見つけ拾う。その紙には母が書いたものであると思われる字で、父に向けた言葉が書いてあった。
『オスカー様、無理をなさらないでくださいね。私はいつまでも待っています。あの女がいなくなることを。ですが、ずっとは寂しいので、あの子、アリシアのためにも頑張ってください。応援しています』
この国の識字率はあまり高くない。私も初めて字を教えてもらったのは孤児院でアーシャ様に教えてもらってからで、母が字を書けるなんて知らなかった。
それに…この内容…
母は正直巻き込まれただけだと思っていた。あの時の発言はつい、少女のように舞い上がってしまっただけなんじゃないかと、そう思っていたのに…
くしゃっ
つい紙を握り潰してしまう。
「アリシア?」
「アリシア様?」
「あっ、ごめんなさい…」
慌ててくしゃくしゃにしてしまった紙のしわを伸ばそうとするが、リオン様に手を握られてしまう。
「ちがっ、これは証拠を無くそうとしているわけでは…」
「わかっている。君がそんなことをするとは思っていないよ。けれど、力を入れすぎている。ほらっ、力を抜いて」
「あっ」
ひらひらと紙が落ちて、サリアに拾われる。
「…なるほど…リオン様」
「……そうか」
「サリア、ここにある証拠はかき集めておいてくれ。私は少し、アリシアと馬車に戻っている」
「かしこまりました」
「アリシア、歩けるかい?」
「…はい」
リオン様に連れられ、馬車に乗り込む。ここには二人しかおらず、沈黙の時間がずっと続いている。リオン様は何も話さない。
「…リオン様、私の話を…聞いていただけますか?」
「ああ、もちろん」
「私、母は別だと勝手に期待していたんです。あの時、喜んだのは父と一緒になれることだけを考えただけなのかなって…」
父がおらず、私と二人でいた母はそんな人じゃない。そう思ってた。
「日が経つことに以前の母が消えていくような感じはしていました。けれど、それはあの父に影響されているだけなんじゃって…」
平民が貴族になったのです。そのせいで、性格が父に影響されてしまったのではないかと思ってた。
「でも…違いました。私が今まで知っている母が幻想だったんです。あの喜びは本当に、アーシャ先生が亡くなったことに対しての喜びなんだって…」
本当はわかってた。母も父と同じなんだって。だけど、それを認めたくなくて…
「わかってたはずなんですけどね」
そう言ってリオン様に笑いかける。だけど、頭を胸に押し付けられてしまった。
「リ、リオン様、何を!」
「アーシャ先生とやらはさぞかし有能だったのであろうな。だが、一つだけ君に間違えたことを教えている」
「何を言って…」
「泣いていいんだぞ。と言うよりも、泣け。我慢なんてしなくていい。弱みを握られたくないと言うのであれば、俺にだけは弱みを見せてくれ。だから、そんな顔で笑うのだけはやめてくれ」
「…そんなに…酷かった…ですか…?」
「ああ」
「…では見ないでください」
「今はもう見えない。だから泣いていいんだ」
お姉様とは違って柔らかくない。だけど、しっかりと抱き締められている感覚は、支えられていることを感じれて、とても安心できた。
「ここか?」
「…はい」
リオン様の言葉を肯定して家の中に入ると、懐かしい香りと埃臭い匂いが混じっている。いつから家に帰って来てないんだっけ…
この家を離れてからどれくらいの月日が経ったのか覚えていないぐらい濃い日を過ごし続けている。
今まで入ってはいけないと言われ続けていた父の部屋に入る。
部屋の中には床一面に紙が散りばめられており、机の上には毒にまつわる本がたくさんある。と言っても、三冊だけだが、本は高級品であり、庶民にしては多すぎるぐらいだ。
まぁ、父は貴族なのだけれども…
本の横には、見覚えのある草が枯れていて、なんの草だったのかは私にはわからない。
「枯れていますね。ですが何かの役には立つでしょうか?」
「枯れているとはいえ、触れるなよ。何が起こるかわからん」
サリアとリオン様が話している中、小さな紙切れを見つけ拾う。その紙には母が書いたものであると思われる字で、父に向けた言葉が書いてあった。
『オスカー様、無理をなさらないでくださいね。私はいつまでも待っています。あの女がいなくなることを。ですが、ずっとは寂しいので、あの子、アリシアのためにも頑張ってください。応援しています』
この国の識字率はあまり高くない。私も初めて字を教えてもらったのは孤児院でアーシャ様に教えてもらってからで、母が字を書けるなんて知らなかった。
それに…この内容…
母は正直巻き込まれただけだと思っていた。あの時の発言はつい、少女のように舞い上がってしまっただけなんじゃないかと、そう思っていたのに…
くしゃっ
つい紙を握り潰してしまう。
「アリシア?」
「アリシア様?」
「あっ、ごめんなさい…」
慌ててくしゃくしゃにしてしまった紙のしわを伸ばそうとするが、リオン様に手を握られてしまう。
「ちがっ、これは証拠を無くそうとしているわけでは…」
「わかっている。君がそんなことをするとは思っていないよ。けれど、力を入れすぎている。ほらっ、力を抜いて」
「あっ」
ひらひらと紙が落ちて、サリアに拾われる。
「…なるほど…リオン様」
「……そうか」
「サリア、ここにある証拠はかき集めておいてくれ。私は少し、アリシアと馬車に戻っている」
「かしこまりました」
「アリシア、歩けるかい?」
「…はい」
リオン様に連れられ、馬車に乗り込む。ここには二人しかおらず、沈黙の時間がずっと続いている。リオン様は何も話さない。
「…リオン様、私の話を…聞いていただけますか?」
「ああ、もちろん」
「私、母は別だと勝手に期待していたんです。あの時、喜んだのは父と一緒になれることだけを考えただけなのかなって…」
父がおらず、私と二人でいた母はそんな人じゃない。そう思ってた。
「日が経つことに以前の母が消えていくような感じはしていました。けれど、それはあの父に影響されているだけなんじゃって…」
平民が貴族になったのです。そのせいで、性格が父に影響されてしまったのではないかと思ってた。
「でも…違いました。私が今まで知っている母が幻想だったんです。あの喜びは本当に、アーシャ先生が亡くなったことに対しての喜びなんだって…」
本当はわかってた。母も父と同じなんだって。だけど、それを認めたくなくて…
「わかってたはずなんですけどね」
そう言ってリオン様に笑いかける。だけど、頭を胸に押し付けられてしまった。
「リ、リオン様、何を!」
「アーシャ先生とやらはさぞかし有能だったのであろうな。だが、一つだけ君に間違えたことを教えている」
「何を言って…」
「泣いていいんだぞ。と言うよりも、泣け。我慢なんてしなくていい。弱みを握られたくないと言うのであれば、俺にだけは弱みを見せてくれ。だから、そんな顔で笑うのだけはやめてくれ」
「…そんなに…酷かった…ですか…?」
「ああ」
「…では見ないでください」
「今はもう見えない。だから泣いていいんだ」
お姉様とは違って柔らかくない。だけど、しっかりと抱き締められている感覚は、支えられていることを感じれて、とても安心できた。
0
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった
白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」
な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし!
ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。
ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。
その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。
内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います!
*ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。
*モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。
*作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。
*小説家になろう様にも投稿しております。
【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。
(他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる