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受け入れられない現実

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 私は今リオン様とサリアとともに、かつての、違う、本当の私の家に来ている。

「ここか?」

「…はい」

 リオン様の言葉を肯定して家の中に入ると、懐かしい香りと埃臭い匂いが混じっている。いつから家に帰って来てないんだっけ…
 この家を離れてからどれくらいの月日が経ったのか覚えていないぐらい濃い日を過ごし続けている。

 今まで入ってはいけないと言われ続けていた父の部屋に入る。

 部屋の中には床一面に紙が散りばめられており、机の上には毒にまつわる本がたくさんある。と言っても、三冊だけだが、本は高級品であり、庶民にしては多すぎるぐらいだ。
 まぁ、父は貴族なのだけれども…

 本の横には、見覚えのある草が枯れていて、なんの草だったのかは私にはわからない。

「枯れていますね。ですが何かの役には立つでしょうか?」

「枯れているとはいえ、触れるなよ。何が起こるかわからん」

 サリアとリオン様が話している中、小さな紙切れを見つけ拾う。その紙には母が書いたものであると思われる字で、父に向けた言葉が書いてあった。

『オスカー様、無理をなさらないでくださいね。私はいつまでも待っています。あの女がいなくなることを。ですが、ずっとは寂しいので、あの子、アリシアのためにも頑張ってください。応援しています』

 この国の識字率はあまり高くない。私も初めて字を教えてもらったのは孤児院でアーシャ様に教えてもらってからで、母が字を書けるなんて知らなかった。

 それに…この内容…

 母は正直巻き込まれただけだと思っていた。あの時の発言はつい、少女のように舞い上がってしまっただけなんじゃないかと、そう思っていたのに…

 くしゃっ

 つい紙を握り潰してしまう。

「アリシア?」

「アリシア様?」

「あっ、ごめんなさい…」

 慌ててくしゃくしゃにしてしまった紙のしわを伸ばそうとするが、リオン様に手を握られてしまう。

「ちがっ、これは証拠を無くそうとしているわけでは…」

「わかっている。君がそんなことをするとは思っていないよ。けれど、力を入れすぎている。ほらっ、力を抜いて」

「あっ」

 ひらひらと紙が落ちて、サリアに拾われる。

「…なるほど…リオン様」

「……そうか」

「サリア、ここにある証拠はかき集めておいてくれ。私は少し、アリシアと馬車に戻っている」

「かしこまりました」

「アリシア、歩けるかい?」

「…はい」

 リオン様に連れられ、馬車に乗り込む。ここには二人しかおらず、沈黙の時間がずっと続いている。リオン様は何も話さない。

「…リオン様、私の話を…聞いていただけますか?」

「ああ、もちろん」

「私、母は別だと勝手に期待していたんです。あの時、喜んだのは父と一緒になれることだけを考えただけなのかなって…」

 父がおらず、私と二人でいた母はそんな人じゃない。そう思ってた。

「日が経つことに以前の母が消えていくような感じはしていました。けれど、それはあの父に影響されているだけなんじゃって…」

 平民が貴族になったのです。そのせいで、性格が父に影響されてしまったのではないかと思ってた。

「でも…違いました。私が今まで知っている母が幻想だったんです。あの喜びは本当に、アーシャ先生が亡くなったことに対しての喜びなんだって…」

 本当はわかってた。母も父と同じなんだって。だけど、それを認めたくなくて…

「わかってたはずなんですけどね」

 そう言ってリオン様に笑いかける。だけど、頭を胸に押し付けられてしまった。

「リ、リオン様、何を!」

「アーシャ先生とやらはさぞかし有能だったのであろうな。だが、一つだけ君に間違えたことを教えている」

「何を言って…」

「泣いていいんだぞ。と言うよりも、泣け。我慢なんてしなくていい。弱みを握られたくないと言うのであれば、俺にだけは弱みを見せてくれ。だから、そんな顔で笑うのだけはやめてくれ」

「…そんなに…酷かった…ですか…?」

「ああ」

「…では見ないでください」

「今はもう見えない。だから泣いていいんだ」

 お姉様とは違って柔らかくない。だけど、しっかりと抱き締められている感覚は、支えられていることを感じれて、とても安心できた。
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