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アーシャ先生の死因
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私の言葉を聞いた後、少しの間沈黙が続き、ローレンが口を開ける。
「…あなた様は奥様が亡くなった原因を知っていますか?」
「いいえ、でもお姉様に何かをして守っていたこと、そのことに少し後悔していたこと、自分の身を守れるのに実行しなかったこと、私の父がアーシャ様の死に関わっているかもしれないこと。それが私が知っていることです」
「そうですか…では単刀直入に言います。奥様は毒殺されました。あなた様の父の手によって」
「…そう…」
覚悟はしてた。してたけど、胸がとても締め付けられる。どうしてあんなにいい人が殺されなければならないの。しかも、その犯人が父。父のあの手でアーシャ先生を…その手で私を…
気分が悪くなり、倒れかけるもアンによって支えられる。アンに支えられるのも二回目だな…
「ローレン様!」
「いいの、アン。お姉様もあなたたちも私のことを気遣って濁してくれていた時から、覚悟は…してたから。だけど…やっぱり辛いな。…アーシャ様が亡くなった原因が父なんだもの…」
「アリシア様…」
「教えて、ローレン。アーシャ先生はどうして…毒殺されたの?貴族なら毒味がいるでしょう?」
アーシャ様は貴族だ。それも女侯爵だもの。必ず毒見ぐらいついているはずだ。それなのに、どうして…
「私共、いえ、私の失敗なのです。あの男が初めに毒を持った料理を出したときの毒見役が買収されていました。それがわかったのは奥様が食事に口をつけ、お嬢様の料理を全て床に落とし、吐き出した後のことです」
「それは…」
買収、いかにも父がしそうなことだ。だけど、ここにいる使用人たちがそんなことをするだろうか。
「昔は奥様に支えていた使用人以外にあの男が連れてきていた使用人がいたのです。そして、毒見役はその人物でした。そして、そこから全てが始まりました」
「始まった?」
「はい。奥様はあの男が来た時だけ、お嬢様を部屋に閉じ込め、料理を一切食べさせませんでした。お嬢様にとっては、父親との食事の時にどうしてそんなことをされるのかわからず、よく泣いておられました。そして奥様は必ず、出された料理を毒見させずに一口だけ食べ、吐き出しておられました」
「どうして…」
どうして、アーシャ先生はそのようなことを…そんなことをしなければ、今も…
「私共も奥様に提訴しました。ですが、その時の奥様の言葉で何も言えなくなってしまいました」
言葉…アーシャ先生が言いそうな言葉。自分を犠牲にしてでも、お姉様を助けようとした人の言葉。
知ってる。私はこの場面でアーシャ先生が言いそうな言葉を。絶対に言うであろう言葉を…
「「私は貴族ですから。民の犠牲があっては意味がありません。必ず入っているとわかっている毒を、私が守るべき人たちに食べさせるわけにはいきません」」
「どうして…」
「アーシャ先生が言いそうな言葉ですよね。でも、そこで自分も…食べないっていう選択も選んで欲しかったです…」
「はい。ですが、食べなければ私たちに食べさせると言われていたそうです。それに、『万が一毒が入っていなかったらあの子にも食べさせてあげられるしね』と。奥様は自分のことよりも、我々民のことやお嬢様を優先してばかりでした」
ほんと…アーシャ先生が言っているのがすぐに想像できる…
「本当に…もっと自分を…大切にしてくれたら良かったのに…」
「奥様と同じことをしようとしているアリシア様が言いますか」
アンが呆れたように目を向けながら言うが、それは違う。
「えっ?全然違うわ。私はアーシャ様のように高貴な理由ではないもの。私は当然の報いを受けるだけよ」
それは一緒にしたらダメ。誰かのために自分を犠牲にしたアーシャ様と違って、私は償いのためだもの。
「…本当に、ジャンが言っていたようなお方ですね」
本当のことを言っているだけなのに、なぜかローレンからため息をつかれた。
「…あなた様は奥様が亡くなった原因を知っていますか?」
「いいえ、でもお姉様に何かをして守っていたこと、そのことに少し後悔していたこと、自分の身を守れるのに実行しなかったこと、私の父がアーシャ様の死に関わっているかもしれないこと。それが私が知っていることです」
「そうですか…では単刀直入に言います。奥様は毒殺されました。あなた様の父の手によって」
「…そう…」
覚悟はしてた。してたけど、胸がとても締め付けられる。どうしてあんなにいい人が殺されなければならないの。しかも、その犯人が父。父のあの手でアーシャ先生を…その手で私を…
気分が悪くなり、倒れかけるもアンによって支えられる。アンに支えられるのも二回目だな…
「ローレン様!」
「いいの、アン。お姉様もあなたたちも私のことを気遣って濁してくれていた時から、覚悟は…してたから。だけど…やっぱり辛いな。…アーシャ様が亡くなった原因が父なんだもの…」
「アリシア様…」
「教えて、ローレン。アーシャ先生はどうして…毒殺されたの?貴族なら毒味がいるでしょう?」
アーシャ様は貴族だ。それも女侯爵だもの。必ず毒見ぐらいついているはずだ。それなのに、どうして…
「私共、いえ、私の失敗なのです。あの男が初めに毒を持った料理を出したときの毒見役が買収されていました。それがわかったのは奥様が食事に口をつけ、お嬢様の料理を全て床に落とし、吐き出した後のことです」
「それは…」
買収、いかにも父がしそうなことだ。だけど、ここにいる使用人たちがそんなことをするだろうか。
「昔は奥様に支えていた使用人以外にあの男が連れてきていた使用人がいたのです。そして、毒見役はその人物でした。そして、そこから全てが始まりました」
「始まった?」
「はい。奥様はあの男が来た時だけ、お嬢様を部屋に閉じ込め、料理を一切食べさせませんでした。お嬢様にとっては、父親との食事の時にどうしてそんなことをされるのかわからず、よく泣いておられました。そして奥様は必ず、出された料理を毒見させずに一口だけ食べ、吐き出しておられました」
「どうして…」
どうして、アーシャ先生はそのようなことを…そんなことをしなければ、今も…
「私共も奥様に提訴しました。ですが、その時の奥様の言葉で何も言えなくなってしまいました」
言葉…アーシャ先生が言いそうな言葉。自分を犠牲にしてでも、お姉様を助けようとした人の言葉。
知ってる。私はこの場面でアーシャ先生が言いそうな言葉を。絶対に言うであろう言葉を…
「「私は貴族ですから。民の犠牲があっては意味がありません。必ず入っているとわかっている毒を、私が守るべき人たちに食べさせるわけにはいきません」」
「どうして…」
「アーシャ先生が言いそうな言葉ですよね。でも、そこで自分も…食べないっていう選択も選んで欲しかったです…」
「はい。ですが、食べなければ私たちに食べさせると言われていたそうです。それに、『万が一毒が入っていなかったらあの子にも食べさせてあげられるしね』と。奥様は自分のことよりも、我々民のことやお嬢様を優先してばかりでした」
ほんと…アーシャ先生が言っているのがすぐに想像できる…
「本当に…もっと自分を…大切にしてくれたら良かったのに…」
「奥様と同じことをしようとしているアリシア様が言いますか」
アンが呆れたように目を向けながら言うが、それは違う。
「えっ?全然違うわ。私はアーシャ様のように高貴な理由ではないもの。私は当然の報いを受けるだけよ」
それは一緒にしたらダメ。誰かのために自分を犠牲にしたアーシャ様と違って、私は償いのためだもの。
「…本当に、ジャンが言っていたようなお方ですね」
本当のことを言っているだけなのに、なぜかローレンからため息をつかれた。
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