上 下
25 / 89

第二十話

しおりを挟む
「やっと来たわね、この悪役令嬢アリシア!」

「…………」

「ちょっと!? 私を無視するとはいい度胸ね!」

「あっ、そうですか……それは申し訳ありませんでした。失礼します」

 立ち止まり、振り返ってから、ペコリと彼女に向かってお辞儀をする。そしてもう一度前に進もうとすると、後ろから急に両肩を掴まれる。

 もう! 私は昨日、お姉様に抱いてしまったこの気持ちのせいでお姉様と顔を合わせづらく、無理を言って一人で早く来たのになんなんですか一体!?

 八つ当たりだと分かっていてもこの苛立ちを抑えられない。文句を言おうとして振り返る。

「なんの――」

 用なのでしょうか。そう言おうとして相手の顔を見る。その時にチラッと見えるピンクブロンドの髪。あっ、この人は関わってはいけない人だった。

 そうですよね。八つ当たりなんて、淑女としてはいけないことですよね。お姉様に散々注意して来ましたが私もまだまだですね。これではアリーシャ様に顔向けできません。もっと精進しなければ。

 ということで、私は失礼したいと思います。心の中で礼をし、前を向いて歩き出そうとするけど肩を掴んである手を離してくれない。できれば早く放してほしいのですけど……

「逃げようとするということは何か後ろめたいことがあるということ! 観念しなさい、悪役令嬢アリシア!」

 以前から思っていましたが悪役令嬢ってどういう意味なんでしょうね? 興味はないですが、聞いてて不愉快なんですよね、この言葉……なんででしょうか?

「――アリシア! 聞いているの!?」

「はぁ、聞いているわけないじゃないですか。無視をしたことは謝ります。ですが、意味のわからないことを言われる理由はありません。私が何を観念するというのですか?」

「はっ、白々しい! あなたが私欲のためにお店を貸切にしていたことは知っているんだから! そのせいでどれだけの人に迷惑をかけたと思っているの!」

  なぜ貸切のことを? とか、それをどうして私に? という疑問が残る。発案者は私ではないし、私も連れて行かれたようなものなのですけど。そんなことを含めて何が悪いのかが全然わからない。私がずっと黙っているのに痺れを切らしたのか、彼女の後ろにいた生徒の一人が前に出てくる。

「あ、あの、ミラ様が言っていることは本当でしょうか?」

「本当というのは貸切のことでしょうか? それなら事実です」

「みなさん、聞きましたか! これが彼女の本性です! 平民上がりのくせに貴族になったからといって贅沢三昧、他人の事なんて気にもしない女! それが悪役令嬢であるアリシアなのです!」

 大きな声を上げる彼女の後ろで次々と「ひどい」という言葉が挙がるのですが、彼女に何を言われてそんなことを言っているんでしょうか? 関わりたい訳じゃ何のですが、こう好き勝手言われるのは腹が立ちます。

「では、みなさまならどうしていたのかお聞きしてもよろしいでしょうか? 私たちが昨日貸切にしていたのは宝石店です。そして、私と一緒にいた人は王族であるリアム様、リオン様、エヴァンス公爵家子息レオス様、リージュ家御息女ルーシア様、現アースベルト当主であるお姉様です。勿論護衛もいましたが、安全を考慮して貸切にするのは間違っているでしょうか? 誰に迷惑をかけているでしょうか?」

 私が尋ねると「えっ」とか「そんなの聞いていませんわ」という声が聞こえる。彼女たちは一体何を聞かされていたのでしょう。とりあえず、答えを聞きましょうか。

「ではお答えいただいてもよろしいでしょうか?」

「そ、それは……アリシア様が正しいと思い……ます」

「そうですか、では、この行いは誰に迷惑をかけたのでしょうか? 確かに、昨日あの宝石店で買いたいかたがいたのあれば申し訳ないとは思いますが、店主にはお客様が来たのであれば対応していただいても構わないとリアム様がおっしゃっていました。それでも誰も来ていなかったと記憶しているのですが、どなたに迷惑をおかけしたのでしょうか?」

「……誰にもかけていません」

「そう言っていただけて嬉しい限りです。ではもう一つお聞きしたいのですが、そこの彼女にみなさまは何を言われたのですか?」 

 私が一番聞きたかったのはこれです。私が何も悪いことをしていないと彼女たちの口から言ってもらえたので、彼女たちとの遺恨を残すこともないでしょう。なので堂々と聞くことにしましょう。

「アリシア様が市街地に行って、お菓子のお店を貸切にして平民がお店に入れないようにしている……と」

「私一人だけ……ですか?」

「アリシア様、お一人だけです」

「……」

「……」

 呆れと困惑により少し沈黙が続きますが、気を取り直すとしましょう。

「さて、みなさまに嘘をつき、私を貶めようとしているミラ様はどういうおつもりなのでしょうか?」

 もう関わってこないでくれるのであればなんでもいいんですけどね。ですが、これからも適当なことを言って変なことを広められるのは嫌ですからね。ここで釘を刺しておきたい所なのですが……。反省してくれているような顔をしていませんね。

「うるさい! うるさい! どうしてゲーム通りに行動しないのよ! それになんであんたがリオン様と! 全部、全部あなたが悪いんじゃない! 今回はうまく隠したようだけど、次こそは絶対にあなたの本性を暴いてやるんだから!」

 そう言いながら走り去っていく彼女。ほんと、もう私に関わらないでほしいです。切実に……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』  国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。 これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!  しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!  何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!? 更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末! しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった! そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...