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第二十話
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「やっと来たわね、この悪役令嬢アリシア!」
「…………」
「ちょっと!? 私を無視するとはいい度胸ね!」
「あっ、そうですか……それは申し訳ありませんでした。失礼します」
立ち止まり、振り返ってから、ペコリと彼女に向かってお辞儀をする。そしてもう一度前に進もうとすると、後ろから急に両肩を掴まれる。
もう! 私は昨日、お姉様に抱いてしまったこの気持ちのせいでお姉様と顔を合わせづらく、無理を言って一人で早く来たのになんなんですか一体!?
八つ当たりだと分かっていてもこの苛立ちを抑えられない。文句を言おうとして振り返る。
「なんの――」
用なのでしょうか。そう言おうとして相手の顔を見る。その時にチラッと見えるピンクブロンドの髪。あっ、この人は関わってはいけない人だった。
そうですよね。八つ当たりなんて、淑女としてはいけないことですよね。お姉様に散々注意して来ましたが私もまだまだですね。これではアリーシャ様に顔向けできません。もっと精進しなければ。
ということで、私は失礼したいと思います。心の中で礼をし、前を向いて歩き出そうとするけど肩を掴んである手を離してくれない。できれば早く放してほしいのですけど……
「逃げようとするということは何か後ろめたいことがあるということ! 観念しなさい、悪役令嬢アリシア!」
以前から思っていましたが悪役令嬢ってどういう意味なんでしょうね? 興味はないですが、聞いてて不愉快なんですよね、この言葉……なんででしょうか?
「――アリシア! 聞いているの!?」
「はぁ、聞いているわけないじゃないですか。無視をしたことは謝ります。ですが、意味のわからないことを言われる理由はありません。私が何を観念するというのですか?」
「はっ、白々しい! あなたが私欲のためにお店を貸切にしていたことは知っているんだから! そのせいでどれだけの人に迷惑をかけたと思っているの!」
なぜ貸切のことを? とか、それをどうして私に? という疑問が残る。発案者は私ではないし、私も連れて行かれたようなものなのですけど。そんなことを含めて何が悪いのかが全然わからない。私がずっと黙っているのに痺れを切らしたのか、彼女の後ろにいた生徒の一人が前に出てくる。
「あ、あの、ミラ様が言っていることは本当でしょうか?」
「本当というのは貸切のことでしょうか? それなら事実です」
「みなさん、聞きましたか! これが彼女の本性です! 平民上がりのくせに貴族になったからといって贅沢三昧、他人の事なんて気にもしない女! それが悪役令嬢であるアリシアなのです!」
大きな声を上げる彼女の後ろで次々と「ひどい」という言葉が挙がるのですが、彼女に何を言われてそんなことを言っているんでしょうか? 関わりたい訳じゃ何のですが、こう好き勝手言われるのは腹が立ちます。
「では、みなさまならどうしていたのかお聞きしてもよろしいでしょうか? 私たちが昨日貸切にしていたのは宝石店です。そして、私と一緒にいた人は王族であるリアム様、リオン様、エヴァンス公爵家子息レオス様、リージュ家御息女ルーシア様、現アースベルト当主であるお姉様です。勿論護衛もいましたが、安全を考慮して貸切にするのは間違っているでしょうか? 誰に迷惑をかけているでしょうか?」
私が尋ねると「えっ」とか「そんなの聞いていませんわ」という声が聞こえる。彼女たちは一体何を聞かされていたのでしょう。とりあえず、答えを聞きましょうか。
「ではお答えいただいてもよろしいでしょうか?」
「そ、それは……アリシア様が正しいと思い……ます」
「そうですか、では、この行いは誰に迷惑をかけたのでしょうか? 確かに、昨日あの宝石店で買いたいかたがいたのあれば申し訳ないとは思いますが、店主にはお客様が来たのであれば対応していただいても構わないとリアム様がおっしゃっていました。それでも誰も来ていなかったと記憶しているのですが、どなたに迷惑をおかけしたのでしょうか?」
「……誰にもかけていません」
「そう言っていただけて嬉しい限りです。ではもう一つお聞きしたいのですが、そこの彼女にみなさまは何を言われたのですか?」
私が一番聞きたかったのはこれです。私が何も悪いことをしていないと彼女たちの口から言ってもらえたので、彼女たちとの遺恨を残すこともないでしょう。なので堂々と聞くことにしましょう。
「アリシア様が市街地に行って、お菓子のお店を貸切にして平民がお店に入れないようにしている……と」
「私一人だけ……ですか?」
「アリシア様、お一人だけです」
「……」
「……」
呆れと困惑により少し沈黙が続きますが、気を取り直すとしましょう。
「さて、みなさまに嘘をつき、私を貶めようとしているミラ様はどういうおつもりなのでしょうか?」
もう関わってこないでくれるのであればなんでもいいんですけどね。ですが、これからも適当なことを言って変なことを広められるのは嫌ですからね。ここで釘を刺しておきたい所なのですが……。反省してくれているような顔をしていませんね。
「うるさい! うるさい! どうしてゲーム通りに行動しないのよ! それになんであんたがリオン様と! 全部、全部あなたが悪いんじゃない! 今回はうまく隠したようだけど、次こそは絶対にあなたの本性を暴いてやるんだから!」
そう言いながら走り去っていく彼女。ほんと、もう私に関わらないでほしいです。切実に……
「…………」
「ちょっと!? 私を無視するとはいい度胸ね!」
「あっ、そうですか……それは申し訳ありませんでした。失礼します」
立ち止まり、振り返ってから、ペコリと彼女に向かってお辞儀をする。そしてもう一度前に進もうとすると、後ろから急に両肩を掴まれる。
もう! 私は昨日、お姉様に抱いてしまったこの気持ちのせいでお姉様と顔を合わせづらく、無理を言って一人で早く来たのになんなんですか一体!?
八つ当たりだと分かっていてもこの苛立ちを抑えられない。文句を言おうとして振り返る。
「なんの――」
用なのでしょうか。そう言おうとして相手の顔を見る。その時にチラッと見えるピンクブロンドの髪。あっ、この人は関わってはいけない人だった。
そうですよね。八つ当たりなんて、淑女としてはいけないことですよね。お姉様に散々注意して来ましたが私もまだまだですね。これではアリーシャ様に顔向けできません。もっと精進しなければ。
ということで、私は失礼したいと思います。心の中で礼をし、前を向いて歩き出そうとするけど肩を掴んである手を離してくれない。できれば早く放してほしいのですけど……
「逃げようとするということは何か後ろめたいことがあるということ! 観念しなさい、悪役令嬢アリシア!」
以前から思っていましたが悪役令嬢ってどういう意味なんでしょうね? 興味はないですが、聞いてて不愉快なんですよね、この言葉……なんででしょうか?
「――アリシア! 聞いているの!?」
「はぁ、聞いているわけないじゃないですか。無視をしたことは謝ります。ですが、意味のわからないことを言われる理由はありません。私が何を観念するというのですか?」
「はっ、白々しい! あなたが私欲のためにお店を貸切にしていたことは知っているんだから! そのせいでどれだけの人に迷惑をかけたと思っているの!」
なぜ貸切のことを? とか、それをどうして私に? という疑問が残る。発案者は私ではないし、私も連れて行かれたようなものなのですけど。そんなことを含めて何が悪いのかが全然わからない。私がずっと黙っているのに痺れを切らしたのか、彼女の後ろにいた生徒の一人が前に出てくる。
「あ、あの、ミラ様が言っていることは本当でしょうか?」
「本当というのは貸切のことでしょうか? それなら事実です」
「みなさん、聞きましたか! これが彼女の本性です! 平民上がりのくせに貴族になったからといって贅沢三昧、他人の事なんて気にもしない女! それが悪役令嬢であるアリシアなのです!」
大きな声を上げる彼女の後ろで次々と「ひどい」という言葉が挙がるのですが、彼女に何を言われてそんなことを言っているんでしょうか? 関わりたい訳じゃ何のですが、こう好き勝手言われるのは腹が立ちます。
「では、みなさまならどうしていたのかお聞きしてもよろしいでしょうか? 私たちが昨日貸切にしていたのは宝石店です。そして、私と一緒にいた人は王族であるリアム様、リオン様、エヴァンス公爵家子息レオス様、リージュ家御息女ルーシア様、現アースベルト当主であるお姉様です。勿論護衛もいましたが、安全を考慮して貸切にするのは間違っているでしょうか? 誰に迷惑をかけているでしょうか?」
私が尋ねると「えっ」とか「そんなの聞いていませんわ」という声が聞こえる。彼女たちは一体何を聞かされていたのでしょう。とりあえず、答えを聞きましょうか。
「ではお答えいただいてもよろしいでしょうか?」
「そ、それは……アリシア様が正しいと思い……ます」
「そうですか、では、この行いは誰に迷惑をかけたのでしょうか? 確かに、昨日あの宝石店で買いたいかたがいたのあれば申し訳ないとは思いますが、店主にはお客様が来たのであれば対応していただいても構わないとリアム様がおっしゃっていました。それでも誰も来ていなかったと記憶しているのですが、どなたに迷惑をおかけしたのでしょうか?」
「……誰にもかけていません」
「そう言っていただけて嬉しい限りです。ではもう一つお聞きしたいのですが、そこの彼女にみなさまは何を言われたのですか?」
私が一番聞きたかったのはこれです。私が何も悪いことをしていないと彼女たちの口から言ってもらえたので、彼女たちとの遺恨を残すこともないでしょう。なので堂々と聞くことにしましょう。
「アリシア様が市街地に行って、お菓子のお店を貸切にして平民がお店に入れないようにしている……と」
「私一人だけ……ですか?」
「アリシア様、お一人だけです」
「……」
「……」
呆れと困惑により少し沈黙が続きますが、気を取り直すとしましょう。
「さて、みなさまに嘘をつき、私を貶めようとしているミラ様はどういうおつもりなのでしょうか?」
もう関わってこないでくれるのであればなんでもいいんですけどね。ですが、これからも適当なことを言って変なことを広められるのは嫌ですからね。ここで釘を刺しておきたい所なのですが……。反省してくれているような顔をしていませんね。
「うるさい! うるさい! どうしてゲーム通りに行動しないのよ! それになんであんたがリオン様と! 全部、全部あなたが悪いんじゃない! 今回はうまく隠したようだけど、次こそは絶対にあなたの本性を暴いてやるんだから!」
そう言いながら走り去っていく彼女。ほんと、もう私に関わらないでほしいです。切実に……
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