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第九話
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「奥様、お嬢様お帰りなさいませ」
この屋敷のみんなはお姉様を奥様、私をお嬢様と呼んでいる。以前まではお姉様がお嬢様と呼ばれていたために、お姉様が奥様と呼ばれるのは違和感をすごい感じる。
お姉様がこの屋敷で奥様と呼ぶようにさせているのは、お姉様がアースベルト家当主であることを再認識する為だとは聞いている。聞いているけど……
「何回聞いてもなれませんね」
「そうかな? 私は嬉しいよ。アリシアがこの家の一員だって認識できるから」
そう……なのでしょうか? けれど、いくら私が疑問に思ったところで何も変わりはしません。お姉様はただ、「これでいいの」としか言わないのでこれでいいのでしょう。
そんな何日経っても慣れない呼ばれ方をされる中、一人だけ以前と同じように私たちを呼ぶ人がいる。
「お嬢様にお嬢。丁度よかった。ローレンが二人が帰ってきたら来てほしいって言っていたぜ」
お姉様のことをお嬢様、私のことをお嬢と呼ぶこの男性はジャン。この屋敷の料理長である彼は私たちのことを以前と同じように呼ぶ。
そして、私たちを呼んでいる、ローレンという人は前アースベルト家当主であるアーシャ先生の時から仕えていた老執事のことなのですが、ローレンが呼び出すなんて珍しいですね。
「ローレンが?」
「ええ、今も仕事部屋にいますよ」
「そう、とりあえず行ってみるわ」
ローレンはお姉様が学園に行っている間、当主代行としてお姉様の代わりに仕事を任されている。つまり、そのローレンが仕事部屋で呼んでいるということはアースベルト領で何か問題があったということなのでしょう。
「お姉様、急ぎましょう」
「あっ、お嬢、そんなに急がなくても――もう聞こえねぇか」
ジャンが何か言っていたような気がしますが、気にせず私たちは急いで仕事部屋に向かう。
ノックもせずに部屋の扉を開けると、いつものように椅子に座って仕事をするローレンの姿が見える。あれ?
「奥様、お嬢様、いくら家とは言え貴族らしくしてもらわないと困ります。まず廊下。御令嬢であるお二人が、家で走るなんてはしたないことをしてはいけません。次に扉です。ノックをしないのは非常識過ぎます。確認も取らず扉を開けると――」
「そんなことはわかっているわよ! それ以上に、あなたが私たちを呼ぶなんて珍しいことをするから、緊急事態だと思ったのよ!」
「私がですか? ジャンか……」
「ローレンがジャンに頼んだのではないの?」
「いえ、確かに奥様とお嬢様に見せないといけないものがありますが、緊急ではありません」
「じゃあ、どうしてジャンは――」
「おそらく、私がどのタイミングでこれを見せようか悩んでいるので、さっさと見せるように呼んだのでしょう。後で私からキツく言い聞かせます。それで、問題はこちらです」
そう言ってローレンが渡してきたのは一通の手紙。差出人はオーズリー・リージュと書かれている。もしかして、ルーシア様のお父様?
「お茶会のお誘いかしら? けどそれなら差出人はルーシア様よね?」
お姉様も私と同じ疑問を持つ。どうしてオーズリー様という方から手紙が届くのでしょうか?
「ルーシア様というのはリージュ家の御息女でしょうか。その方から何か聞いていらっしゃいませんか?」
「「いいえ」」
「……そうですか。では私から言わせてもらいます。リージュ家はお二人の父親…あの男…オスカー・リージュの実家でございます」
「「えっ……」」
私とお姉様の共通の父親であるオスカー。ここで、その名前を聞くとは思わなかった。
この屋敷のみんなはお姉様を奥様、私をお嬢様と呼んでいる。以前まではお姉様がお嬢様と呼ばれていたために、お姉様が奥様と呼ばれるのは違和感をすごい感じる。
お姉様がこの屋敷で奥様と呼ぶようにさせているのは、お姉様がアースベルト家当主であることを再認識する為だとは聞いている。聞いているけど……
「何回聞いてもなれませんね」
「そうかな? 私は嬉しいよ。アリシアがこの家の一員だって認識できるから」
そう……なのでしょうか? けれど、いくら私が疑問に思ったところで何も変わりはしません。お姉様はただ、「これでいいの」としか言わないのでこれでいいのでしょう。
そんな何日経っても慣れない呼ばれ方をされる中、一人だけ以前と同じように私たちを呼ぶ人がいる。
「お嬢様にお嬢。丁度よかった。ローレンが二人が帰ってきたら来てほしいって言っていたぜ」
お姉様のことをお嬢様、私のことをお嬢と呼ぶこの男性はジャン。この屋敷の料理長である彼は私たちのことを以前と同じように呼ぶ。
そして、私たちを呼んでいる、ローレンという人は前アースベルト家当主であるアーシャ先生の時から仕えていた老執事のことなのですが、ローレンが呼び出すなんて珍しいですね。
「ローレンが?」
「ええ、今も仕事部屋にいますよ」
「そう、とりあえず行ってみるわ」
ローレンはお姉様が学園に行っている間、当主代行としてお姉様の代わりに仕事を任されている。つまり、そのローレンが仕事部屋で呼んでいるということはアースベルト領で何か問題があったということなのでしょう。
「お姉様、急ぎましょう」
「あっ、お嬢、そんなに急がなくても――もう聞こえねぇか」
ジャンが何か言っていたような気がしますが、気にせず私たちは急いで仕事部屋に向かう。
ノックもせずに部屋の扉を開けると、いつものように椅子に座って仕事をするローレンの姿が見える。あれ?
「奥様、お嬢様、いくら家とは言え貴族らしくしてもらわないと困ります。まず廊下。御令嬢であるお二人が、家で走るなんてはしたないことをしてはいけません。次に扉です。ノックをしないのは非常識過ぎます。確認も取らず扉を開けると――」
「そんなことはわかっているわよ! それ以上に、あなたが私たちを呼ぶなんて珍しいことをするから、緊急事態だと思ったのよ!」
「私がですか? ジャンか……」
「ローレンがジャンに頼んだのではないの?」
「いえ、確かに奥様とお嬢様に見せないといけないものがありますが、緊急ではありません」
「じゃあ、どうしてジャンは――」
「おそらく、私がどのタイミングでこれを見せようか悩んでいるので、さっさと見せるように呼んだのでしょう。後で私からキツく言い聞かせます。それで、問題はこちらです」
そう言ってローレンが渡してきたのは一通の手紙。差出人はオーズリー・リージュと書かれている。もしかして、ルーシア様のお父様?
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「「いいえ」」
「……そうですか。では私から言わせてもらいます。リージュ家はお二人の父親…あの男…オスカー・リージュの実家でございます」
「「えっ……」」
私とお姉様の共通の父親であるオスカー。ここで、その名前を聞くとは思わなかった。
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