私が僕であるために

白キツネ

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間話:彼女の願い

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 さやかが先に帰ってしまい、彼と二人きりになる。少し沈黙が続き、彼が急に謝ってくる。

「…どうして、謝るの?」
「昨日はただの八つ当たりだったから。九条さんは関係ないのに、私の意味のわからない話を聞かせてしまったから。だから、ごめんなさい」

 私は彼のことを聞けてよかったと感じているが、彼は気にしていたらしい。

「…1つ聞いていい?」

 彼が頷くのを見て質問する。

「あなたは私やさやかと一緒にいて楽しい?」

 彼を追い詰めるつもりはもうないが、彼が私たちをどう感じているのかが聞きたくなった。

「うん、楽しい。初めてできた仲のいい人が二人、さやかと九条さんだから。二人と一緒にいると楽しい」

 そう言われて、嬉しくなった。

「そっか。それじゃあ、これからもよろしくね」

 そう言ったら、彼に驚かれた。

「何?嫌なの?」
「いや、そうじゃなくて、昨日あんなことを言ったんだよ。私はおかしいんだよ。だから…」

 彼がおかしいのは言っては悪いが、最初からわかっている。それでも、私は彼に惹かれてしまった。今は、彼のためになりたいとも考えている。

「関係ないよ。だって、あなたは男で、女子の制服をきて学校に来ていることはすでに知っているんだから。あなたが誰になりたいのかは関係ないよ」

 まだ、彼は戸惑っているようだった。

「それでも、私はあなたとこれからも仲良くしたいと思った。それだけよ」

 彼は寄り添ってくれる人がいなくなったから、どうすればいいのかわからないのだろう。

「私にもあまり人に知られたくない秘密はあるわ。それでも、今もそれを抱えて生きている」

 私は男を拒絶して生きてきた。それでも、彼の経験したことを共有することができないだろう。彼の思いと私の思いを比較することはできないし、してほしくもない。

「あなたの秘密がどれだけ深いものだったとしても、私はあなたが言ってもいいと思ったときに、あなたから話してほしい。それが私の望みののだから」

 私は彼の経験の全てを包み込めることができないだろう。けれど、彼と寄り添って行きたいと思う。
 
 彼のことをもっと知りたいと思う。

 今なら、聞けるかもしれない。けれど、私は彼が話したくなった時に聞きたい。

「じゃあ、私も帰るね。櫻井さん。いつか紗夜ではない、本当の名前を教えてくれることを待ってるから」

 彼のペースで進んでほしい。だけど、望むなら、私を少しは頼ってほしい。
 だから、私はこれから彼の支えになれるようになりたいと思う。

 彼には伝えない思いを胸に抱きながら、彼の部屋を出る。
 そこで、八千代さんに出会ったので、挨拶をする。

「お邪魔しました」
「あなたは、紗夜のことを見てくれているのですね」

 そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。

「はい。私は彼のことが気になっていますから」

 そう言い、玄関の方に向かう。

 後ろから、囁くように「よかった」という言葉が聞こえる。
 
 私はその言葉に振り返らず、彼の家を出た。
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