私が僕であるために

白キツネ

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5.私と彼女

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朝が来て、今日も学校に向かう。だが、昨日とは違い、今日は憂鬱な気持ちでいた。

 九条さんに会ったらどうしようか。ずっとそんなことを考えていると、通学途中で、当人と会ってしまった。
 彼女も私に気づいた様子で、少し驚いた表情をしたあと、顔を俯いてしまった。
 そのまま、素通りしようとする。

「昨日はあなたのことを考えずに、思ったことを言ってしまってごめんなさい」

 私は驚いて彼女の方を振り返った。彼女に謝られる理由は何もない。

「どうして九条さんが謝るの?私が変なのは私が一番知っているよ。だから、九条さんは気にしないで」
「ありがとう。でも、あなたのことを何も知らずに、ひどいことを言ったのは確かだから。だから、ごめんなさい」

 これから、どうすればいいのかは今もわからない。けれど、私を紗夜じゃなく、私として見てくれる彼女の存在は少なからず、私の中で特別な人なのではないかと感じる。

「本当に気にしないで。でもありがとう。私を見てくれて」

 なぜかそんな言葉が口から出る。違う、私は紗夜として、一人として生きていたいのに、どうして?
 一人で困惑していると、彼女から声をかけられる。

「その、あなたのことを聞きたいんだけど…」
「どうして?昨日は関わりたくないって言っていたのに」
「えっと、それを話すには私のことからなんだけど、いいかな?」
「うん」
「私は男嫌いなんだ。昔色々あって、それから男子とかじゃなく、男が嫌いになった」
「そうなんだ。だから昨日私に?」
「そう。あなたが普通の女子じゃないと感じたからかな?男のくせに女装してまで、女子に近付きたいのかって、勝手に思い込んで、あんな風に言っちゃったんだけど。ごめんね」
「私はそういうわけじゃ…」
「うん。それなら制服を渡す学校がおかしいもの。けどね、昨日お母さんに少し話をしたの。そうしたら、あなたの事情も考えずにただ私の思いだけをあなたに押し付けていただけだって言われて、恥ずかしくもあったし、そんな自分が嫌だった。だから、あなたの事情も聞きたいと思ったの」

 そう言って彼女は少し恥ずかしそうに笑った。その笑顔にドキッとしてしまった。
 だけど、それ以上に私は彼女がすごく眩しいものに見えた。
 自分の考えを持ち、人の話を聞いて、他の人のことを知ろうとする。そんなことが自然にできている彼女をとても羨ましく思う。
 私にはない全部ない。あの日に全て捨ててしまった。

「だから、あなたと向き合って、何でそんな姿なのかを聞きたいの」
「九条さんは強いね。尊敬する。けど、今はまだ話せない。話したくはない」
「私は全然強くなんかないよ。だけど、どうしても話せない?」
「ごめんね。自分でもまだ整理がついていないんだ。少なくとも私は誰かに自分のことを話したいとは思わないし、思えない」
「けれど安心して、私は女子に関わりたいと思っているわけじゃないから」
「それって「さあ、学校に行こう。遅刻しちゃうよ」」

 私は少し、彼女の言葉に被せて声を出す。私はこれからどうしたらいいのだろうか。
 今までは紗夜でいれば一人でいいと思っていた。けれども、彼女と話をしていて、私を見ようとしてくれる人にどうすればいいのかわからなくなる。

「私はいったい、どうしたいんだろう」

 何度言ったかもわからない呟きをまた、私は繰り返す。
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