上 下
14 / 43

第二王子・クリス視点

しおりを挟む
 愚兄が恥を晒しなが帰ってきた後、僕はその報告を連れ帰ってきた本人であるローアから直接話を聞いている。だが、当の本人はあまり話すつもりはないようだ。

「で、普通に連れて帰ってこれなかったのか、ローア?」
「普通とはどのようなものでしょうか?私は平民なので高貴な方の考えはよくわかりませんな」
「お前…、もしかして怒っているのか?」
「…なんのことやら」

 これは僕が舐められているのだろう。影の主人は父上である陛下であり、僕は数人借りているに過ぎない。認めさせてみせよとは、父上の言葉だが、いまだにうまくいってはいない。

「お前たちはいつになったら僕を認めてくれるんだ?」
「さあ、それを私たちに聞くあたり、まだまだとだけ言っておきます」
「はぁ、それはお前も一緒か?ニア」
「私は主人を決めているのでお好きにしてください」
「それを堂々と僕の前で言うか?それで、お前は?」

 ニアの回答に呆れながらも彼女の主人は想像できるので、僕は少女に話しかける。彼女は影の中では最年少であり、ある日、急にニアが連れてきた少女だ。今はある計画のために別行動をしていて普段はここには来ないのだが、今日は珍しい。

「…私は貴族も王族もあの方以外は嫌いです。あなたはただ、ソフィア様を助けてくれると言っていただけたので従っているだけです」
「お前も何か怒っているのか?」
「私はソフィア様が死のうとしていたなんて知らなかったのですが」
「ぐっ、それは…」
「別にいいです。僕もそこまで想像していなかったとか言うんでしょうが、別にどうでもいいです。先生が守ってくれたおかげで、ソフィア様は生きていますから」

 僕も予想外だった。フィーア姉様がそこまでショックを受けることになるとは。分かっていれば、あの愚兄を喋る暇もないぐらいに忙しくしてやったものを…

「ああ、ソフィア様もかわいそうなものです。婚約者はあんなにも愚か者で、その弟である腹黒にはコソコソ狙われているなんて」
「お前、不敬罪という言葉を知っているか?」
「言葉としては、知っていますよ?ですが、ヘタレに何も言われたくはありません」
「おい!」
「ソフィア様に思い出してもらえないくせに…」
「……」
「私は今でもあれを許していませんから、失礼します」

 フィーア姉様が昔のことを忘れている理由、それは子供の頃の稽古の時にある。あの愚兄よりもフィーア姉様の方が遥かに強かった。それを許せなく思った愚兄は庭の土を持ち出し、フィーア姉様の目に投げつけ、模擬刀を頭に叩き込んだ。
 木製であり、子供の力だったとはいえ、打ちどころが悪く、フィーア姉様は生死を彷徨った。幸いなことに生きてくれていたのはいいのだが、僕のことを含める過去のことは忘れてしまっていた。忘れてしまったと言うよりは混濁したと言うのが正しいのだろうか。
 僕と話したことと、愚兄と話していたことが混ざっているらしい。もう僕のことはクリスとは呼んでもらえず、第二王子殿下としか呼ばれなくなってしまった。

 僕も許してはいないさ。だから君に頼んでいるのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。

わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。 「お前が私のお父様を殺したんだろう!」 身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...? ※拙文です。ご容赦ください。 ※この物語はフィクションです。 ※作者のご都合主義アリ ※三章からは恋愛色強めで書いていきます。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

処理中です...