8 / 9
なくなったもの
しおりを挟む
「嫌な夢……」
伸ばしていた手をじっと眺めながら呟く。夢の内容を明確に覚えているのは初めてのことだった。
気を取り直すためにカーテンを開け、窓の外を見る。薄々と感じてはいたが、外は夢と同じように雨が降っている。
「嫌な天気……」
夢と同じ天気のせいか、とても嫌な予感がする。優馬と同じくらいとても大切なものが……
「約束通り、ノートを返してもらいに来たわ」
お昼を過ぎたあたりにゆずねぇがやって来る。外は相変わらず雨のままだった。中に入ってと言うと断られた。
「ゆずねぇ「そう呼ばないでって言ってるでしょう!」……柚葉さん、あのノートを私にください。お願いします!」
私はゆずねぇの前で、地面に頭をつける。
「そんな事をされても困るだけなんだけど……はぁ。何? あのノートに大事な事でも書かれてた? そっか、あなたが好きだと書いてある部分だけを読んだのね」
私は無言で首を横に振る。
「じゃあ何? 全部最後まで読んだ上であのノートが欲しいの? あなたへの恨みつらみしかなかったじゃない」
「それでも、私の罪だから……」
あのノートには私が優馬へした仕打ちが書かれている。罪が書かれている。優馬の心の叫びを全部受け止めたい。だから――
「あっそ。結局あなたは最後まで自分が大切なのね」
「な……んで……」
「なんで? だってそうでしょ。あのノートを読んで、優くんが苦しんだ事を知って、自分の罪深さを知って、苦しんで。それからどうしたいの?」
「どう……」
「あのノートを読み込んで、後悔して、慣れたいんでしょ、優くんの言葉に。そして前に進みたい。……絶対にそんなことさせない。優くんの未来を奪ったあなたに明るい未来なんて進ませない」
違う、違う! 私はそのためにノートを……私は罪を自覚した。ノートを見返さないと忘れるの? 私はそんな人間なの……?
雨で冷えていた体がさらに冷え込むのを感じる。
「まぁいいよ。そのノートはあげる。もう2度と会わないんだもの。それぐらいはしてあげる」
「えっ……もう2度と……」
「そう。私たち引っ越すの。あなたのいないところに。だからもう会わない。わかった?」
私は何のためにあの時誤魔化したのだろう。家族という関係を壊したくなかったから。それなのに……
好きな人は私を恨み居なくなった。そして家族も今から失う。全部、あの時から今までに間違え続けたから。
涙が頬を伝い、雨と一緒に流れる。私は声に出して泣き叫んだ。
失ったものを後悔しながら、声が枯れるまでずっと……。
最後まで見届けてくれたのはゆずねぇの優しさか厳しさか。泣き疲れ意識が無くなるまでゆずねぇは私の前に居てくれた。
伸ばしていた手をじっと眺めながら呟く。夢の内容を明確に覚えているのは初めてのことだった。
気を取り直すためにカーテンを開け、窓の外を見る。薄々と感じてはいたが、外は夢と同じように雨が降っている。
「嫌な天気……」
夢と同じ天気のせいか、とても嫌な予感がする。優馬と同じくらいとても大切なものが……
「約束通り、ノートを返してもらいに来たわ」
お昼を過ぎたあたりにゆずねぇがやって来る。外は相変わらず雨のままだった。中に入ってと言うと断られた。
「ゆずねぇ「そう呼ばないでって言ってるでしょう!」……柚葉さん、あのノートを私にください。お願いします!」
私はゆずねぇの前で、地面に頭をつける。
「そんな事をされても困るだけなんだけど……はぁ。何? あのノートに大事な事でも書かれてた? そっか、あなたが好きだと書いてある部分だけを読んだのね」
私は無言で首を横に振る。
「じゃあ何? 全部最後まで読んだ上であのノートが欲しいの? あなたへの恨みつらみしかなかったじゃない」
「それでも、私の罪だから……」
あのノートには私が優馬へした仕打ちが書かれている。罪が書かれている。優馬の心の叫びを全部受け止めたい。だから――
「あっそ。結局あなたは最後まで自分が大切なのね」
「な……んで……」
「なんで? だってそうでしょ。あのノートを読んで、優くんが苦しんだ事を知って、自分の罪深さを知って、苦しんで。それからどうしたいの?」
「どう……」
「あのノートを読み込んで、後悔して、慣れたいんでしょ、優くんの言葉に。そして前に進みたい。……絶対にそんなことさせない。優くんの未来を奪ったあなたに明るい未来なんて進ませない」
違う、違う! 私はそのためにノートを……私は罪を自覚した。ノートを見返さないと忘れるの? 私はそんな人間なの……?
雨で冷えていた体がさらに冷え込むのを感じる。
「まぁいいよ。そのノートはあげる。もう2度と会わないんだもの。それぐらいはしてあげる」
「えっ……もう2度と……」
「そう。私たち引っ越すの。あなたのいないところに。だからもう会わない。わかった?」
私は何のためにあの時誤魔化したのだろう。家族という関係を壊したくなかったから。それなのに……
好きな人は私を恨み居なくなった。そして家族も今から失う。全部、あの時から今までに間違え続けたから。
涙が頬を伝い、雨と一緒に流れる。私は声に出して泣き叫んだ。
失ったものを後悔しながら、声が枯れるまでずっと……。
最後まで見届けてくれたのはゆずねぇの優しさか厳しさか。泣き疲れ意識が無くなるまでゆずねぇは私の前に居てくれた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
夏の抑揚
木緒竜胆
青春
1学期最後のホームルームが終わると、夕陽旅路は担任の蓮樹先生から不登校のクラスメイト、朝日コモリへの届け物を頼まれる。
夕陽は朝日の自宅に訪問するが、そこで出会ったのは夕陽が知っている朝日ではなく、幻想的な雰囲気を纏う少女だった。聞くと、少女は朝日コモリ当人であるが、ストレスによって姿が変わってしまったらしい。
そんな朝日と夕陽は波長が合うのか、夏休みを二人で過ごすうちに仲を深めていくが。
好きな人を救うため、俺は過去をやり直す
みんと
青春
ミントです♪
高校生をやり直したいなぁと前々から思っていたので、やり直す話を書いてみました!
文章も物語の構成もまだまだ練習中なのですが、この作品を通してレベルアップできたらいいなと思っております!
よろしくお願いします!
キミの隣で
江上蒼羽
青春
*****
春は嫌いだ。
眠いし花粉は飛んでるし、虫も出てくるし。
だけど一番の理由は
キミが少し遠い存在になっちゃう事が寂しいから……
H31.4/16~公開
*****
花霞にたゆたう君に
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】
◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆
風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。
願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。
表紙絵:香咲まりさん
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission
【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
クラス一の秀才美少女がオレに小説を読ませてくるのだが、展開が「ちょっと待て!」とツッコミたくなる
椎名 富比路
青春
漫画家志望者の主人公が、作家志望のヒロインからコミカライズしてもらいたいと頼まれる。
だが、それはそれはもうツッコミどころ満載の作品ばかり。
見た目が美少女なのに、なんだこれ。
主人公は容赦なく、ツッコミを入れていく。
コンセプトは『相席食堂』。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる