犬歯少女とハク弱剣士

駿瀬 えいすけ

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 ソードの蹴りをマトモに受けたのだ、ダメージは大きいはず。

 遠くまで逃げ切るのは難しいだろう。

 ソードの示した方角を走っていくと、男の後ろ姿を見つけた。
 
 ソードの蹴りを食らっている男は、中腰で腹を抱え、フラフラと歩いていた。
 男は思った以上の痛みに苦しんでいるのかもしれない、ソードは闘犬。
 脚力、腕力、咬合力が優れる鍛え方をして育った犬族。
 闘いのプロとも言われる闘犬のライセンスを持っているのだが……少し詰めが甘いのは、性格だと思われる。

 けれど、ソードに怪我をさせたことは許せるものではない。

 俺は腰に携えている剣を鞘から抜いた。
 姿勢を低く構え、男の脚に刃を通す。
 

 「うぐああああッ!!」

 男は痛みに苦しむ。
 その隙に、男の両手を掴み紐で巻きつけ、目隠しをした。
 胸元やポケットなどに手を突っ込み、解毒剤らしき物を探したが、見当たらなかった。

 解毒剤を持ち歩いていないということは、即効性であるが、短時間で麻痺が切れる麻痺弾だったのかもしれない。

 男の脚からは血が出てきており、このまま放置すると死ぬだろう。
 死人になると、俺たちの報酬が減ってしまうので、脚に布をグルグルに巻き付け止血する。
 これなら、銃を打つことも逃げることも難しいだろう。
 

 俺は、紹介屋の使い鳩を呼んで、男を引き取りに来てもらうよう頼み、ソードの元へと走った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ソードは、壁にもたれていた。

 「大丈夫かい?ソード」

 「うん。だんだん動くようになってきた」

 撃たれた箇所は、ソードが自分で応急処置をしたのだろう、包帯が巻いてあった。

 「即効性で短時間の麻痺薬だと思うが、いちおう診てもらおう」
 
 ソードが蹴飛ばした男の小型二丁拳銃を腰に刺して、ソードに肩を貸した。



 
 
 「ソード、痛くないかい?」

 「大丈夫。ありがとう、コウ」

 「俺の方こそ。
  ソードが、すぐに窓から男を追いかけ、
  蹴りをいれてくれたお陰で、
  男を捕まえられた」
 

 にへらあーと笑うソード。

 「こういう時、お姫様抱っこって言うやつで運んでくれるってレストーナから聞いた」


 「いや、無理。そんな筋力ないから」

 「くうぅぅぅん」

 ソードの尻尾がゆっくり揺れた。










 
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