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覚えてますか
しおりを挟む「どうでしたか?」
「どうって………」
返答に困る俺を真剣に見つめるドルレア。
恥ずかしげもなく、さっき会ったばかりの男に、こんなことをするとは。
犬耳は、相変わらず真っ直ぐ立っている。
「やはり私を思い出すのは難しいのですね……」
ドルレアは、スッと立ち上がり時計を確認した。
「申し訳ないのですが、これから仕事がありまして、お先に失礼させてもらいます。
コウさん、貴方にやっと会えたのです、ぜひこれを受け取ってください。またこちらに伺います」
ドルレアは、テーブルに置いてある紙ナプキンを手に取り、サインを書くのに使っていたペンで走り書きをして差し出した。
そして、直ぐ様レストランを立ち去った。
「コウ!なんで黙って指を舐められてるんだ!コウは、我ん以外にそんなのだめだぞ!」
今度は反対の手を、ソードに甘噛みされ、強めに払いのけた。
「ソードやめろ」
ソードは、単に俺の気を引きたかっただけだろう。
「コウ……痛かった?」
俺には、ドルレアがした行為が悪ふざけでした様には感じなかった。
何故だか懐かしく感じてしまったことに自分で自分に戸惑っていた。
もしかして、本当にどこかでドルレアと会っていたのか?
「コウ??」
でも、あんな三つ揃い犬族の知り合いがいた気がしない……。
「コウ?コウってば!」
「え?」
「さっきから呼んでるのに!」
「その、ドルレアのことが気になって考えていたんだ」
「がるるるるっ!」
ソードの威嚇だ、犬歯がいつもより鋭く見える。
「指を舐められたくらいで、ドルレアに浮かれてる!?」
「浮かれ?」
「だって!コウ、ドルレアに舐められてる時、ドルレアのことをじいいって見てた!」
尻尾が下を向き、小刻みに揺れていた。この揺れは、喜びのものではない。
「唖然としてしまったんだ!」
「アゼントってなんだ!む、むずかしい言葉使うのズルい!」
「だから、びっくりしたって意味で、ド」
「ドルレアさん帰られたんですね~」
「れ、レストーナさん」
ソードも俺と同じだったのか、レストーナさんの登場に驚いたようだ。
「あの~、コウさん昨日、言ってませんでしたか?朝一に配達屋さんに書類を渡さなければいけませんって~」
ハッとして時計を見ると、書類を渡さなければいけない時間が近づいていた。俺はベーコンエッグをかっこんだ。
「レストーナさん、ごちそうさま!それにありがとうございます!」
「コウ!我んも行く!ごちそうさま、レストーナ!」
「いえ~、お粗末様です」
急いで配達屋に向かった。
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