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犬歯少女は眠らない①
しおりを挟む「ふんぁああ~~~~……ぁうあぅ~……」
「そんな大きなあくびをしてくれるなよ、ソード」
彼女は重そうな瞼を半分ほど開き、ワインレッド色の瞳をジロリと俺に向けて、んっ~ふわああぁっと、もう一度あくびをした。
窓から見える夜空は、星の光がハッキリと見え、今日は夜空を眺めるには最適な夜なのだろうと、彼女のあくびを聞きながら思った。
彼女が何を思い眠気と闘っているのか、俺には分からないが、何度も彼女のあくびを聞いていると、こちらも眠気に襲われてしまう。
俺は、明日の朝一に配達屋にお願いしたい書類があるので、それを書き終えてから眠る予定である。
彼女は先に休んでくれて構わない。
ソードには、それを伝えてあるはずなのに、一向に眠りにつこうとしない彼女が不思議だ。
イビキでも気にしているのか?
そんなものは、日常茶飯事なので慣れたもので。
あるときは、イビキと寝言のオンパレードの事もあるのだから。
「コウは、まだ寝ない?」
-—-—ふあああぁぁ~……
彼女の何度目のあくびだろうか?
瞳と同色の髪が肩につかない程度に切られている。夜風で優しく揺れる髪が彼女の褐色の肌に撫でつけられる。
「俺はもう少し起きているよ。ソードは寝てくれていいから。」
「コウが寝ないのならあああぁぅ~……我んも、寝ないぞ」
彼女は、話の合間にもあくびを入れるという技も披露しているが、いまだ眠気と葛藤している。
「ふはああぁぁああ~……ねむいぞ」
先程から何度目のあくびか?
彼女があくびをするたび、小さなピンク色の唇から白くて鋭い牙が、チラリと顔を出す。
あー、鋭くて痛そう。俺はいつもそう思ってた。
この世には彼女のような牙……というか犬歯が鋭く生えている犬族がいる。
犬歯付き(彼女のような犬歯が鋭い犬族のこと)のあくびを見たくて多額の金を出す奴らもいるのだが、あいにく、この場に多額な金を出してまで彼女のあくびを見たがる者はいないので、いくら彼女があくびをしようが利益は、ない。
「んもーーー!ねむい!」
がるるるる!彼女は、うなり声を発し始めた。
俺のような人族には出せない獣の鳴き声。この鳴き声は、威嚇だと思われる。
俺を脅して寝かせようとしているのか。威嚇ってこんなことに使うのか?
そんな行動をとる彼女とは裏腹に、ワインレッドのひっそりとした色香を含んだ大きく美しい瞳は、こちらの様子を伺っている。
自分の威嚇が効いてるのか確かめているのだろう。
「そんな瞳で脅されたら………。いや、されてもね。俺、まだ寝ないから」
「ッ!…るるるるぅ…」
彼女の褐色の肌が少しずつ血の気を失い、瞳と眉の間は、段々と広がり、ハの字を描き出した。
「なんで寝ないんだい?いつものソードなら、ワオーンと寝吠えをする時間だろうに」
「ねぼ……ッて、我んは、犬じゃないんだぞ!」
忙しないことに彼女の頬は、先ほどとは打って変わり、赤く蒸気し始める。
がるるるる!ついでに威嚇された。
いやいや、俺から見たソードは、人族の俺なんかよりも食肉目-イヌ科-イヌ属に分類される哺乳類の一種、”犬”に似ています!
けれど、その単語を俺が口にすることは禁忌なのだ!
他の者が、彼女に対して発言したところで、何も起きない。彼女は特に気にした様子も無いのだが、
俺が発言した途端、なんとも手がつけられないガルルルル!!が始まるのだ。
そんな犬歯付きの彼女は、犬の様な牙が上顎左右のみ、バランス良く付いている。
その為、彼女が威嚇すると、ぷくりとしたつややかな小さな唇から、犬歯はチラリと顔を出し鋭さをアピールしてくる。
この犬歯も犬と連想してしまう特徴の一つなのだが、もう一つ連想させるモノがあるのだ。
「分かった」
きっと彼女が寝ない理由は、そのモノに関して、俺にシてほしいことがあるのだ。
「ベッドに行く?!」
一瞬で笑顔になるソード。
俺は、彼女へ静かに近づき、柔らかそうでいて、ほどよく弾力のありそうな太もも付近に手を伸ばす。
そして、少しづつ彼女の太ももより、上へと手を伸ばす。
上へと伸ばした手が、彼女の身体のある一部に触れる。
「んッ!ひゃあぁぁ…!」
「ソードが寝ない理由に気づけなくて悪かったよ」
あたたかく柔らかで俺には無い。
触って欲しくて仕方がなかったのだろう。
人差し指で優しく撫で、ときには指の腹で押すように。
「このフワフワのしィィイーッタアァーッ!」
俺は首元に鋭い痛みを感じ彼女に噛まれたと気づいて身悶える。
そんな俺を恥ずかしさと怒りで真っ赤な顔で睨み、サッと俺から離れ、ソードは叫んだ。
「我んの尻尾に勝手に触るなあーーっ!!」
彼女には、瞳と同色のフサフサな尻尾もあるのだ。
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