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<現代編>
1.日常①
しおりを挟むジリリリリリリ──………
目覚まし時計がけたたましい音を立て、部屋中に鳴り響く
僅かに開いていたカーテンの隙間から、春の陽射しが顔を覗かせる
どうやら朝になってしまったようだ
クソ、せっかく肉にありつけたと思ったのに……
「んーーー。まぶし……っさい………」
目覚ましを止めようとサイドテーブルに手を伸ばす──が。そこに目的のものはなく、着地点を失った手は何度も虚空を斬ってしまう。
このまま騒音を出され続けていては、平穏な日常など夢のまた夢だ。睡眠だけに、な
……なんて冗談が一瞬頭を過ったが、よくよく考えれば頭に突き刺さるような音だ。喩えるならばそう、往年のテレビゲームに出てくる、ラスボス一歩手前の洞窟にいる鳥形モンスターの超音波だ。
これは即刻対処しなければ命に関わるかもしれない
「つっても、この中からどう探したものか……」
部屋を見渡してみると、ゲームやらDVDのディスクに加え漫画が散乱している。アニメだったらこのへんに「ぐっちゃ~~」なんてテロップが出てるに違いない
各タイトルのファンが見たら卒倒しそうな光景だが、これも仕方がないのだ。
ホラ、よくあるだろ? 「懐かしいモノを見つけると、ついついそれに目を奪われてしまう」ってやつ。
よってこれは生理現象なのだ。だから仕方がないのだ
なんて自分に言い聞かせてる間にも、音は反響していき四方八方から聴こえている。もはや耳が慣れてしまった
ふと遠くに目をやると、きらりと光る何かが見えた
「……?」
足元に置いてある雑誌を丁寧にどかしつつ、そこに近づいていく。
「やっぱり」
それは文字盤を背にして寝ていた。ちゃんといつもの定位置に置いたはずなのだが……
いや、待てよ? 思い返せば、朝はいつもコイツを探すところから始まる。ある時は何故かベッドの下に落ちていたり、またある時はクローゼットの中に入っていた事もあった(これは最早夢遊病の域かもしれない)
「はは……相変わらずすげえ寝相してんだな、オレ」
やや自分に呆れながら、耳障りな音を消す。不要な運動をするうち、すっかり二度寝する頭ではなくなってしまった
時刻は午前6時45分。悲惨な事件があったとはいえ、我ながら早起きだと思う。エラい。
「ふぁ~~~あ。はよ……」
台所では、母さんが目玉焼きを作っていた。付け合せのベーコンをカリカリに焼くのが我が家の定番であり、時々「パチッ」という油のはねる音と共に良い香りが漂ってくる。
思わず「ギュルル」とお腹が鳴ってしまった。空きっ腹にこれは卑怯だ。巷で言う飯テロだ
その音でオレが近くにいることに気が付いたらしい母さんは、フライパンに目を向けたまま話しかけてくる
「おはよ、誠司。アンタまた夜遅くまでゲームしてたでしょ。部屋から光が漏れてたわよ。まったく……遊ぶのもいいけど、勉強もしないとだめよ?」
朝から母さんの小言を耳にする羽目になるとは……『早起きはサーモンがお得』とか言った奴の顔が見てみたい
「わーってるって」
『思春期真っ只中の男子あるある』っていう特集が組まれてたら殿堂入りしてそうな言葉で小言を流し、洗面所に移動す……
「あ、それと」急に呼び止められてしまった
「何だよ」
「昨日の夜、アンタの部屋から大きな物音がしたわよ。ゲームに熱中するのもいいけど、ご近所迷惑にならないようにね」
確かにオレは昨夜もゲームをしていた。それに世界観に没入してしまうタイプなので、つい声が出てしまうのだ。
しかしあの時のは、感動の名作をリメイクしたモノ。とてもそんな要素は無いハズだ。
「あ、ああ。気を付けるよ」
小首を傾げつつ、今度こそ洗面所へ向かった
「よし。今日もやるか」
洗顔を終え、昨日寝る前に考えたポーズを取る。「ここをこうして……指の角度は……うん、今日の俺もイケてるな」鏡の向こうに話しかけるような声量で言う
これはオレの、所謂ルーティーンみたいなものだ
『言霊』──そんな非科学的なものを信じるほど子供ではないとは思っているが、物は試しと思って鏡に向かうようにしていたら、いつの間にか習慣となってしまった
要は気の持ちようだ。アイツは『プラシーボ効果』とか言ってたかな。ともかく、自分がかっこいいと思えば、鏡の向こうのソレは自ずと応えてくれる、自己暗示の類……らしい(もっとも友達には、ナルシスト野郎と言われているが……ないない! それは絶対にない!)
「母さーん! 今日のご飯なにーー!!」
フライパンに負けないよう、わざと大きな声で聞く
「目玉焼きとトーストよ。そろそろ焼けるかも──」
チーン。母さんの声に呼応するように、トースターらしき音が聞こえた
「噂をすれば。ちょうど焼けたわよーーー! お皿の上に置いとくから、冷めないうちに早く食べちゃって!」
「ごちそーさん」
5分ほど前までそこにあった食べ物たちは、全て胃の中に入っていった。一体この内どれぐらいが、オレの血肉となっていくのだろうか
「はい、お粗末様でした。
あ、食器は流しに置いといてね」
部屋に戻り、登校の準備をする。起きたあとに軽く片付けたので、足の踏み場程度のスペースはある
整髪料を付け、制服を着て、昨日準備した教科書類を鞄の中に詰める。今まで何百・何千としてきたこの流れは、体にすっかり染み付いてしまっていた
準備自体は終わったが、それでもなお時間が有り余ってしまっている。このまま早めに学校に行ってもいいが、かと言って特にやる事も無し。手持無沙汰になってしまうだけだ
「よし。今日は早く起きられたし、軽くゲームでもすっか」
棚の中から軽く終わらせられる作品を取り出すと、ディスクを機械の中に入れる
スマホゲームやオンラインゲームもやっているけれど、やっぱ俺はこっちの方が好きだ
「……ふぅ。今はここで終わっておこう。この手の作品は続けてやることにこそ意義があるけど、そうするとアイツがうるさ───げ」
俺はモニタの右下に表示されている時刻を見て、冷や汗をかいた。
『0750』
今の俺には『666』なんかよりもよっぽど悪魔の数字に見える。
「あはは……まさかそんなに経ってる訳──………」
一度強く目を閉じ、今見えているモノが幻覚であることを祈りながらそっと開ける。
しかしそれも虚しく、数字は『0751』と変化していた
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやりすぎたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
部屋で1人叫んでいると、下から「うるさい!」という声が響いてきた
その声は耳に入らず、オレの思考は『この危機をどう脱するか』ということに囚われていた
考えろ、何かいい手がある筈だ。普段使わない頭をフル回転しているせいか、こめかみの辺りが少し痛む
―今から高速で階段を下って自転車に跨り、明日は筋肉痛になる覚悟でペダルを漕げばぎりぎり間に合う。……多分
急いで電源を落としコントローラーを雑に片付け──本当はこんな事したくなかったが、何しろ今は緊急事態だ──、おぼつかない足取りで部屋を出る
「じゃ、行ってきまーす!」
これ以上小言を言われては俺の身が持たない。母さんはどうやら『今日こそは遅刻しないだろう』と高を括っているはずだ……だが甘い。甘いよ母さん。何年一緒にいると思ってるんだ
結局、遅れそうなんだよオレは!
小走りで階段を下り、駐輪場から自転車を出す。ペダルを踏み込み、そのまま全速力で駆ける
……この時ほど電動自転車で登校したいと思ったことは無い
セットした髪は、案の定乱れまくっていた
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