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一部 四章 ターニングポイント

秘密。

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 「じゃあ俺、もう帰ります。半日間、お世話になりました」

翌日。レイスさんの道案内付きで、家に帰ることにした。──まあ例にもよって、昼前になってしまったのだが。

「あらそうなの? もうワタル君の分もお昼ご飯作っちゃったわよ。

そうだわ! せっかくだから食べてって!」

「えっと、それはさすがに……」
(高校の時も、こういうお母さんいたなー)と思い出いながら、断ろうとした

「そうだよ母さん。彼にだって用事があるんだろうから、引き止めちゃ悪いよ」
お父さん、ナイスです

「それもそうね。ちょっと待ってて」
そう言うとヴァレリーさんは、食卓の上に置いてある皿をいくつか台所に持って行った。


やがて、半透明の容器を両手に抱えてやってきた
「はい、これ。家で食べてね」
「あの、これは──」

余程食べてほしかったようだ。ちょっと悪い事をしたな

「いいから、いいから」

「では……。ありがたく、いただきます」

「さ。ワタルさん、行きましょうか」

レイスさんが俺の手を引く──

「あ、二人とも。ちょっと待ってもらえるかな」
ラファエルさんに呼び止められた
「ワタル君に話があるんだ。ちょっと耳を貸してもらえるかな」
「なんですか?」
彼の口元に、耳を近づける。

「キミ、結構モテるだろうけど。うちの娘をたぶらかしちゃ、タダじゃおかないからね」
さっきまで優しかったラファエルさんの声が、一気に険しくなった。恐らく顔も相当なものになってるはずだ。
──あ、これアレだ。『本気と書いてマジ』って読むタイプのやつ。ルドに比べるとそれほどではないものの、迫力がある。どちらかと言えば、あの時のリュシアンさんに似てる

「わ、分かってますって!!」
「そう。それならいいんだ」
俺が体を引くと、さっきまでの優しそうな表情に戻った

──なんだ? ここの人たち、怪盗百面相みたいな人が多いのか?
そう思いながら、俺とレイスさんは彼女の家を出た



 昨日雨が降ったせいか、少しジメッとした空気だった。昨日ほど暑いわけじゃないからいいんだけど

「それで? パパと何を話してたんですか?」
やっぱり聞かれると思った。以前もそうだが、昨日話した感じだとおそらく彼女は、隠し事にはとことんうるさいタイプだ。……根掘り葉掘り聞いてこないだけまだマシ、か。

「ううん、特に何も。強いて言うなら……『男同士の約束』でしょうか」

流石にあれをそのまま言う訳いかないよな。別に嘘言ってるわけじゃないし、大丈夫だろ

「えー。教えてくださいよー、ケチー」
彼女は唇を尖らせながら言った。
「……ま、いいでしょう。あまりアレコレ聞くのも悪いですからね」
意外とあっさり身を引いてくれた。俺としてもこれ以上嘘を重ねたくなかったので、助かる

「ところでワタルさん、この後どうします?」

「もちろん、まっすぐ家に帰るつもりですけど──」と言うと、彼女が肩を掴んできた

「ええ!? そんなの勿体ないです! せっかくの観光地ですよ!? 色々回らなきゃ損ですよ!!」

「で、でも! あちこち行ってたら迷うんじゃ」

「任せてください!」ポケットから四つに折りたたまれた紙を取り出した。「地図ならちゃんと、持ってきてます!ムンモランの近くにも名所は複数あるので、そこを回りましょう」



 有名な建築士が造った歩道橋(らしきもの)、有名人が渡った道路、更にはこの辺では珍しいとされている鳥の巣まで。俺の家の近くに、こんな場所があるなんて知らなかった。

「ね? すごいでしょ」

「さすが各地から色んな人が来るだけはありますね」

「そう! 夏場になると沢山の人が来てくれてね。この辺は大賑わいなんですよ」
へえ。こっちにも『観光シーズン』があるのか

「それと同時に、あなたみたいな迷い人も増えるんですがね……」

イタいとこを突かれた

「うっ、すみません……」
「ああ、別に攻めてるわけじゃないんですよ。そういう人たちの対応にも慣れましたし」
『慣れたのもどうかと思いますよ?』なんて言おうとしたが、俺が言える立場にはないだろう

「さて、と。そろそろ日が落ちますね」
ふと顔を正面にやると、夕日が地平線に顔を隠そうとしていた
「陽が落ちてしまうと、このあたり一帯はとても暗くなります。そうなっちゃうと。ワタルさんの家は恐らくこの先なので、早く帰りましょ」

「あ、あのレイスさん──」
彼女は、なぜか俺の事を急かしている感じだった。まるで『』と言わんばかりに



 「さ、着きましたよ」

ようやく我が家(と言うはやっぱり変な感じだ)に着いた
この時を何度待ち望んでいたことか!

「あの、ここまでありがとうございました。レイスさんがいなかったら今のところ……」

「そんなのいいわよ。こちらこそ楽しかったわ。さ、早く家に入って」

「あの、レイスさん? どうかされましたか? なんだかすごく急いでるように見え……
あっ! すみません。なんか用事でもあったんじゃないですか?」

「用事──。あ、ああ! さっきからお手洗いを我慢してて」
「お手洗いですか? それならうちのを──」
俺は彼女の手を半ば強引に引いて、家に上げようとする
「いや、でもそんなに一大事じゃないし」
「しかし──」
「大丈夫よ!」

いきなり声を出されて驚いてしまった
慌てて手を離す

彼女も自分の声に驚きを隠せないのか、目を大きく見開いている

「い、言われてみればそうですよね。男が一人暮らししてるところのお手洗いなんて、行きたくないですよね……」

「ち、ちがうの今のは──」

「さっきは、申し訳ありませんでした。では、俺はこれで。……おやすみなさい」

扉を開け、中に入る。
──俺は最低な男だ。常に自己中で、相手の事などお構いなし。つくづく嫌になる

外では彼女が何やら言っていたようだが、耳に入ってこなかった




 その日は、去り際に一瞬見えた彼女の哀しげな顔が脳裏に焼き付いて、寝付くことが出来なかった
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