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一部 一章 学校から異世界転生ってお約束だよね
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憲一先輩と会ってから一週間。
今日から部活のはずなのだが、俺は図書館で半ば缶詰状態になっていた
「くっそ! なんでレポートなんかあんだよ! こっちは早く部活がしてえっての!」
「仕方ないさ。いいかい? 大学生とレポートは言わば『運命共同体』とも言える。俺と進級したいなら決して縁を切ることは出来ないの」
隣でスマホをいじりながら俺の愚痴を聞いているのは、文学部一年の堀川 慎一郎。
自由科目が一緒になる事が多く、何度か隣の席になっているうちに親友になっていた。
同じ高校の奴らとはバラバラになってしまったので、サボった時や遅刻した時に助かっている。
「けっ、ウチの学部はスポーツだけ出来てりゃ良いっつーの。にしても、この授業なんて一度しか受けてねえんだぞ!?
しかも手書きってなんだよ。あのじいさん変な条件付けやがって……時間かかるじゃねえか!」
『バンッ!』俺が机を力強く叩くと、その場の視線が一気に彼の方に向けられた。
「ばっ……ばか! 静かにしろ! ……まあ仕方ないんじゃない?
お前の学部、元々スポーツやってたやつらばっかりなんだろ? 手の運動と思えばいいんだよ」
くっそ、他人事だと思って……!
「んなことあるか」
俺は席を立つ
「どこ行くんだよ。もう飽きたのか?」
「ちげーよ。資料取りに行くだけだ。その席、守っとけよ」
俺の通っている大学にある図書館には、古今東西から集められた様々な本があるらしく、蔵書数でいえばこのあたりで一番。
日本中の本があるらしい国会図書館には遠く及ばないが、大抵の本であれば見つけることが出来る……と、オリエンテーションの時に聞いた。
「スポーツ理論の本は………よし、これだな」
スポーツ関係の棚は、一番端の方にあった。当然館内で走るのは禁止(とは言っても距離が距離なので黙認されているらしい)なので、あそこからここまで歩くとなるとかなりの運動量だ。
「しかしココ、本多いなあ。一冊見つけるだけで一苦労だぜ」
目当ての本を見つけ出し、席へ戻ろうとしたその時。
さっきまでそこにあったはずの音が消えた。
「あれ……さすがに静かすぎやしねえか……?」
いくら『図書館ではお静かに』と言われても、かすかな音くらいは聞こえてくるはずだ。
そのはずなのに、それらが一切耳に入ってこない。時計を見てみる。時刻は午後四時三十五分。
慎一郎と別れてからかなり歩いたと思うが、五分も経ってないようだ。
秒針は……動いていない。
──時間が……止まってる?
いやいや、そんなはずはないだろう。いくらなんでもそんな、アニメでよくあるような展開あるわけない。
じゃあこれは夢か? 頬をつねってみる。イタい。
「夢じゃ、ない……?」
俺は外に飛び出し──目の前の光景に絶句した。
多くの人が、動きを止めていた
教室移動中であろう者・友達と話している者・小石に躓き、今にも飲み物を零しそうな者……。そして人だけではなく、虫・水しぶき・花びらなども。
その全てが、まるで写真で切り抜いたかのように止まっていた。
「なんだよこれ……」
いけねえ。非現実すぎて一瞬固まっていた。頬を叩き我に返る。
失礼しますと声をかけ、目の前にいる男性の手首に触れてみた。
「良かった……脈はあるみてぇだな」
安心して胸を撫でおろす。
その異様な光景は、ずっと先まで続いていた。「これ、マジで夢じゃないんだよな…」
確かにダンスには「ストップモーション」という技術もある。
でもさすがに、ここまで出来るほど人間は静止できないはずだ。
しばらく歩いていると、背後から俺の名を呼ぶ声がした。こんな状況にもかかわらず、妙に落ち着いているように聞こえる。
「誰だ!」
振り返ると、憲一先輩がいた。以前会った時とは違い、神主のような恰好をしている。
「なんだ、憲一先輩でしたか……驚かせないでくださいよまったく。それでえーと……どうしたんです? そのカッコ。あ! 分かった! ハロウィンっすね。でもにしては半年くらい早いっすよ。あと、みんなどうしちゃった──」
俺が言い終わらないうちに、憲一先輩は口を開いた
「ねえワタル=モリウチくん。
僕は君に、謝らなくてはいけない事があるんだ」
憲一先輩は俯きながら少しずつ、俺との間合いを詰めてきた。
俺はいつもと違う先輩を恐ろしく感じて、自然と後ずさりしていた。
「謝るのはこっちの方っすよ。今日の練習は行けそうになくて──」
「こんな状況なのに、どうやって練習するんだい?」
「あははー! そうっすよねー! ええと──」
「いいから黙ってくれる?」
やがて背中が硬いものにあたる。どうやら逃げ道はなくなったらしい。
先輩が顔を上げると、小声で何かを言い始めた。
─なんだろう、初めて聞いたはずなのに、なんだか懐かしい。
やがて手に持っていた杖で床に触れると、そこになにかの模様が浮かび上がってきた。
ミステリーサークル……? 違う。ナスカの地上絵か? いや、俺が知っているそれらとは違う。
確かに丸っこいから前者に似てるが、もっとこう……
「兄さん、こっちは準備できてるよ!」
憲一先輩が空に向かって叫ぶと、声が聞こえてきた。
「おうよ! じゃあせーので行くぞ! せーの……っ!」
声の主に合わせて杖を真上に上げる憲一先輩
キイィィィィィン。金属どうしを擦るような、そんな音が脳内に響いた。
「うるさっ。しかも、まぶし──」
反射的に目と耳を塞いだとたん、意識が朦朧と──
今日から部活のはずなのだが、俺は図書館で半ば缶詰状態になっていた
「くっそ! なんでレポートなんかあんだよ! こっちは早く部活がしてえっての!」
「仕方ないさ。いいかい? 大学生とレポートは言わば『運命共同体』とも言える。俺と進級したいなら決して縁を切ることは出来ないの」
隣でスマホをいじりながら俺の愚痴を聞いているのは、文学部一年の堀川 慎一郎。
自由科目が一緒になる事が多く、何度か隣の席になっているうちに親友になっていた。
同じ高校の奴らとはバラバラになってしまったので、サボった時や遅刻した時に助かっている。
「けっ、ウチの学部はスポーツだけ出来てりゃ良いっつーの。にしても、この授業なんて一度しか受けてねえんだぞ!?
しかも手書きってなんだよ。あのじいさん変な条件付けやがって……時間かかるじゃねえか!」
『バンッ!』俺が机を力強く叩くと、その場の視線が一気に彼の方に向けられた。
「ばっ……ばか! 静かにしろ! ……まあ仕方ないんじゃない?
お前の学部、元々スポーツやってたやつらばっかりなんだろ? 手の運動と思えばいいんだよ」
くっそ、他人事だと思って……!
「んなことあるか」
俺は席を立つ
「どこ行くんだよ。もう飽きたのか?」
「ちげーよ。資料取りに行くだけだ。その席、守っとけよ」
俺の通っている大学にある図書館には、古今東西から集められた様々な本があるらしく、蔵書数でいえばこのあたりで一番。
日本中の本があるらしい国会図書館には遠く及ばないが、大抵の本であれば見つけることが出来る……と、オリエンテーションの時に聞いた。
「スポーツ理論の本は………よし、これだな」
スポーツ関係の棚は、一番端の方にあった。当然館内で走るのは禁止(とは言っても距離が距離なので黙認されているらしい)なので、あそこからここまで歩くとなるとかなりの運動量だ。
「しかしココ、本多いなあ。一冊見つけるだけで一苦労だぜ」
目当ての本を見つけ出し、席へ戻ろうとしたその時。
さっきまでそこにあったはずの音が消えた。
「あれ……さすがに静かすぎやしねえか……?」
いくら『図書館ではお静かに』と言われても、かすかな音くらいは聞こえてくるはずだ。
そのはずなのに、それらが一切耳に入ってこない。時計を見てみる。時刻は午後四時三十五分。
慎一郎と別れてからかなり歩いたと思うが、五分も経ってないようだ。
秒針は……動いていない。
──時間が……止まってる?
いやいや、そんなはずはないだろう。いくらなんでもそんな、アニメでよくあるような展開あるわけない。
じゃあこれは夢か? 頬をつねってみる。イタい。
「夢じゃ、ない……?」
俺は外に飛び出し──目の前の光景に絶句した。
多くの人が、動きを止めていた
教室移動中であろう者・友達と話している者・小石に躓き、今にも飲み物を零しそうな者……。そして人だけではなく、虫・水しぶき・花びらなども。
その全てが、まるで写真で切り抜いたかのように止まっていた。
「なんだよこれ……」
いけねえ。非現実すぎて一瞬固まっていた。頬を叩き我に返る。
失礼しますと声をかけ、目の前にいる男性の手首に触れてみた。
「良かった……脈はあるみてぇだな」
安心して胸を撫でおろす。
その異様な光景は、ずっと先まで続いていた。「これ、マジで夢じゃないんだよな…」
確かにダンスには「ストップモーション」という技術もある。
でもさすがに、ここまで出来るほど人間は静止できないはずだ。
しばらく歩いていると、背後から俺の名を呼ぶ声がした。こんな状況にもかかわらず、妙に落ち着いているように聞こえる。
「誰だ!」
振り返ると、憲一先輩がいた。以前会った時とは違い、神主のような恰好をしている。
「なんだ、憲一先輩でしたか……驚かせないでくださいよまったく。それでえーと……どうしたんです? そのカッコ。あ! 分かった! ハロウィンっすね。でもにしては半年くらい早いっすよ。あと、みんなどうしちゃった──」
俺が言い終わらないうちに、憲一先輩は口を開いた
「ねえワタル=モリウチくん。
僕は君に、謝らなくてはいけない事があるんだ」
憲一先輩は俯きながら少しずつ、俺との間合いを詰めてきた。
俺はいつもと違う先輩を恐ろしく感じて、自然と後ずさりしていた。
「謝るのはこっちの方っすよ。今日の練習は行けそうになくて──」
「こんな状況なのに、どうやって練習するんだい?」
「あははー! そうっすよねー! ええと──」
「いいから黙ってくれる?」
やがて背中が硬いものにあたる。どうやら逃げ道はなくなったらしい。
先輩が顔を上げると、小声で何かを言い始めた。
─なんだろう、初めて聞いたはずなのに、なんだか懐かしい。
やがて手に持っていた杖で床に触れると、そこになにかの模様が浮かび上がってきた。
ミステリーサークル……? 違う。ナスカの地上絵か? いや、俺が知っているそれらとは違う。
確かに丸っこいから前者に似てるが、もっとこう……
「兄さん、こっちは準備できてるよ!」
憲一先輩が空に向かって叫ぶと、声が聞こえてきた。
「おうよ! じゃあせーので行くぞ! せーの……っ!」
声の主に合わせて杖を真上に上げる憲一先輩
キイィィィィィン。金属どうしを擦るような、そんな音が脳内に響いた。
「うるさっ。しかも、まぶし──」
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