出来損ないのなり損ない

月影八雲

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少年の話をしよう。

その少年は、生まれながら身体に大きな『傷』背負っていた。

いや、それはあまりに大きすぎる呼称だろう。人によっては、深く傷ついてしまうかもしれない。周囲の大人も、「それはふさわしくない」と何度も指摘し続けていた。しかし、少なくとも少年だけはソレを『傷』と認識していた。

 少年はそれを背負いながらも、元気に育っていった。幼少の頃は身体こそ弱く、よく家の中で遊ぶ子どもだったが、それなりに友達もいたし、両親との仲も良好だった。好きな子だっていた。


              


 小学校低学年の話。少年は両親の勧めで、キャンプに出掛けた。

一般的なそれは家族や友達などある程度見知った間柄の者と一緒に行く物なのだろうが、少年が参加した物はどちらかというと「地域の子どもの交流を主な目的」としたものだった。
両親は、少年の身体が良くなってほしいと願い、参加を勧めたのだろう。
少年自身も「新しい友達が増えるかもしれない」と、それを楽しみにしていた。


 ──今思えばそれが少年にとって、今日まで続く悪夢の始まりだった。

 キャンプ自体は楽しかった。夏だったという事もあり、魚釣りや虫捕り・肝試しや花火などをして遊んだ。
持ち前の明るさもあり、友達もどんどん増えていった。

気が付けば最終日になった。この日が後に、少年の命運を分けることになる。

 その日は午後に帰ることになっていたため、各々は部屋の中で遊んでいた。絵本を読む者、折り紙を折る者、あやとりをする者……。少年も本が好きだったため、一緒に読んでいた。

 その時だった。少年の前を通りかかった二人組が、少年に聞えるような声量で言った。




声の主は、初日に友達になった子だった。
──え? 少年は耳を疑った。なに? なんていったの? 

口を開く前に、もう片方がとどめの言葉を言った。

 

 2人組はその言葉を、笑い合いながら何度も何度も繰り返していた。 世間一般的に「少年」の区分であるとされる彼にとってその言葉は、とても重かっただろう。


少年はその言葉を聞いて、その場で泣き崩れていたらしい。
その場にいた少女に慰められ、少年はなんとか正気に戻った。あの二人組はその光景を見て、その場を立ち去っていった。


 その後少年は両親の元へ戻るのだが、その日を境に、以前のような笑顔は消えていた。また「ここまでしてくれた両親にこれ以上心配をかけたくない」と、一連の出来事は心の中に留めておくことにした。


 それからというものの、少年の気が休まる事はなかった。一瞬でも気を抜けば、あの時の光景と共に『声』が聴こえてくるからだ。また、周りの人間に過度に気を許すことはしなかった。今までの友達や、これから出会う人たち。そして──両親。


 



過度な干渉を避ける事が、自分の心を守る唯一の方法だと信じていた。


──心が少しずつ壊れ始めている事も知らずに。
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