出来損ないのなり損ない

月影八雲

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2.5章

その8

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「でも、小テストだって立派なテストだよ?その時点でこれじゃあ─」
そう口にした瞬間、俺は気づいた。


    



コイツの言い分を頭から否定してしまった。彼も俺を拒絶するのだろうか。

これくらいのこと、他の人は何とも思わないだろう。会話の流れとしては何も不思議ではないのだから。少なくともこのクラスにいる俺以外の人間は、自然と使っているはずだ。


しかし俺は『呪い』のせいで、こんな些細な事も失敗と捉えてしまう。

『──』

ああ。まただ。声が聞こえる。今まで苦しめてきたあの声が。そしてこれは一生、俺のことを苦しめるのだろう。





俺は無意識に口を開いていた
「ご、ごめ─」

「そこで、だ」
─え?
込堂は勢いよく頭を下げた。

「頼む紘一! 俺に勉強を教えてくれ!」
何だ? この展開は。

「いくら赤点は取ってねえっつても、前みてえな点数取ってっと親父とお袋がうるさくてよ……。だからこの通り! メシ奢るからよ!」

また頭を下げられてしまった。しかも彼の声は野太く、大きい。
瞬く間に教室中に響き渡り、俺らは一気に注目の的になってしまった。

仕方ないか……
「うん。いいよ、久くん」

すると彼は満面の笑みで顔を上げ──、俺に抱きついてきた。

「ど、どうしたの!?」

「サンキュな紘一!! やっぱ持つべきものは友だぜ!」

はいはい。分かったから離れてくれ。
標準的な体形の高校一年男子は重いんだ。
さすがにこの体勢は腰が悲鳴を上げる。

「はいはい。分かったからいったん離れよ? ね?」

 それから俺たちは、いつ・どこでやるかを決めた。
その間俺は、話半分に込堂の言葉を脳内で反芻していた。



───「『持つべきものは友』ね」

 やがて朝のホームルーム開始を告げる鐘が鳴り、アイツは自分の席へと戻っていった。    

              
 教室内での俺の立ち位置はというと……ひとことで言えば“空気”という言葉がしっくりくるだろう。
家の中でも影が薄いと言われているから、本当にそうなのかもしれない。

俺のようなキャラの人間は虐めの標的にされると聞くが、不思議な事にそのような事もない。まあいいか。面倒事に巻き込まれるよりはマシだ。

 授業中はきちんとノートも取るし、話も聞いている。当てられたら答える。教室内は動物園に来たのかと疑う程度にうるさいが……、逆にそれが、俺にとっては自習中の心地よいBGMとして作用している。

教室が騒いでいることで教科担当に叱られ、授業が止まることも日常の風景であるが、話そっちのけで問題集を解いている。
どうせ、俺には関係の無いことだから。



 ──俺は、もっともっともっともっと頑張れねばいけない。期待に応えるために。



そのためには、一分一秒が惜しいのだ。
 
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