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「撫」から浮かんだ話
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あまりにも「かわいいかわいい」「偉い偉い」と、ずいぶんたくさんの子供たちの頭を誉めながら撫でて来た私の両手は、いつしかすり減って無くなってしまいました。「撫でる」って手が無くなるって書くけど、本当なんですね。
「とうとう無くなっちゃった」
手のひらのない両方の手首を見ながら、私はため息をついていました。
そんなある日、私の所に大勢の男女が現れました。その中のひとりの男性が
「私たちはあなたに撫でられて育った子供たちです。あなたに褒めていただいたから、おかげさまで真っ直ぐに育って、立派な大人になれました。今日はそのお礼に来たのです」
と言って、リボンのかかった箱を私に渡しました。
手首に挟んで受け取ったそれは多分、左右の手のひらだろうと私は思いました。
こういう美談の場合、最後は必ず施した者が報われるはずだからです。
「かさじぞう」という昔話があります。
雪まみれのお地蔵さんたちに売り物の笠をかぶせてあげたら、お礼にたくさんの金品が届いたという話。
私はかさじぞうみたいに当然報われるんだわと、手首と口を使って苦労しながら箱を開けました。
そしてよけいに疲れました。
中に入っていたのが小さな仏像だったからです。
「なにこれ?」
私は冷めた声で男性に言いました。
「これは僕たちです」
男性はそう言います。そして
「僕たち、何人いるか分かりますか?」
と聞くので
「知るわけないでしょ?」
と冷たく答えたら男性は
「千人なんですよ」
と言うので
「それがどうしたの?」
そう答える私はもう、話すのも億劫でした。
ですからすっかりうつむいていたのですが、男性の声がしなくなったので顔を上げるとみんなはいなくなっていて、彼らが置いて行った仏像だけが残っていました。
改めて見るとそれは「千手観音」でした。
そしてその無数の手のひらが嫌味なほどに光って私に囁くのです。
「あなたはたくさんの子供たちを立派に育ててくれました。実はあなたが撫でた子供たちは、私だったのです。私の手は、ここでこれからあなたを撫でて誉め続けます」
と。
「いや、言葉じゃないのよねー」
と文句を言う裏で、ひょっとしてこの仏像を売ればいくらになるのかしらと、算段して初めて私は報われた気持ちになりました。この光り具合だったら、かさじぞうの金品の額をはるかに超えるかも知れないから。
「どうもありがとうございます」
私は千手観音に手首を合わせました。
「とうとう無くなっちゃった」
手のひらのない両方の手首を見ながら、私はため息をついていました。
そんなある日、私の所に大勢の男女が現れました。その中のひとりの男性が
「私たちはあなたに撫でられて育った子供たちです。あなたに褒めていただいたから、おかげさまで真っ直ぐに育って、立派な大人になれました。今日はそのお礼に来たのです」
と言って、リボンのかかった箱を私に渡しました。
手首に挟んで受け取ったそれは多分、左右の手のひらだろうと私は思いました。
こういう美談の場合、最後は必ず施した者が報われるはずだからです。
「かさじぞう」という昔話があります。
雪まみれのお地蔵さんたちに売り物の笠をかぶせてあげたら、お礼にたくさんの金品が届いたという話。
私はかさじぞうみたいに当然報われるんだわと、手首と口を使って苦労しながら箱を開けました。
そしてよけいに疲れました。
中に入っていたのが小さな仏像だったからです。
「なにこれ?」
私は冷めた声で男性に言いました。
「これは僕たちです」
男性はそう言います。そして
「僕たち、何人いるか分かりますか?」
と聞くので
「知るわけないでしょ?」
と冷たく答えたら男性は
「千人なんですよ」
と言うので
「それがどうしたの?」
そう答える私はもう、話すのも億劫でした。
ですからすっかりうつむいていたのですが、男性の声がしなくなったので顔を上げるとみんなはいなくなっていて、彼らが置いて行った仏像だけが残っていました。
改めて見るとそれは「千手観音」でした。
そしてその無数の手のひらが嫌味なほどに光って私に囁くのです。
「あなたはたくさんの子供たちを立派に育ててくれました。実はあなたが撫でた子供たちは、私だったのです。私の手は、ここでこれからあなたを撫でて誉め続けます」
と。
「いや、言葉じゃないのよねー」
と文句を言う裏で、ひょっとしてこの仏像を売ればいくらになるのかしらと、算段して初めて私は報われた気持ちになりました。この光り具合だったら、かさじぞうの金品の額をはるかに超えるかも知れないから。
「どうもありがとうございます」
私は千手観音に手首を合わせました。
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