短い話たち

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移動

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人の上下左右には異世界の人がいる。
左右に移動すれば外国人がいる。つまり国の違う人だ。この移動には飛行機か船を使うだろう。

上下に移動すればどんな異世界の人がいるのか。
上は空の彼方。下は地面の中ではなく、これも今いる所の下の空の彼方だ。つまりこの移動にはロケットを使う。
そしてロケットで行った先にいるのは、世代や時代の違う人たちだ。

そしてたくさんの自分だ。

ではロケットに乗って飛んでみよう。ただしこのロケット、光より速くなければならない。そうしないと「今日」が見えないからだ。
それは次の通りだ。

今、僕が乗ったロケットは光が30年かかって届く星に着いた。
遥か彼方に地球が光っているが、まぁ実際は分からないだろう。
しかしもしその地球が見えたら、そこにいるのは30年前の自分だ。この時点で宇宙には僕が二人いる。
このロケットは、光より速くここへ着いているが、仮に光の10倍の速さとしても3年かかったわけだ。
だからあと27年待てばロケットに乗った日の地球の姿がここにようやく届くのだが、ロケットがここへ着くのに31年かかってしまえば、その日はとうにもっと遠くの星に行ってしまっているわけだ。
だからここで「今日」を見るには、光速30年未満の速さでここに着かなければならない、つまり光より速くなければならないのだ。

ロケットに乗った3年後、つまり今の自分はここにいる。
そして「あそこ」で光っている地球の自分は30年前の自分だが、その中間の自分、5年前、18年前、24年前の自分はどこにいるんだろう?
それはおそらく「あそこ」の後ろを光に乗って走っているんだろう。
だったら2年前、つまりロケットに乗ってここに向かっている自分はどこにいるんだ?
あ、そうか、2光年前の宇宙空間にいるんだ。
え?じゃ、ロケットはここに着いているのにまだ宇宙にあるの?
そうだよな、ロケットは自分の姿より速く着いたんだもんな。
え?じゃ、僕は誰?このロケットは何?

なんだか頭が変になりそうだ。僕は誰で何人いてそう考える自分がまたいる。
人は宇宙の中で反響しながら増殖しているのか?
まぁ考えていたらおかしくなるけど面白い。

さらにまた問題がある。
時間は年単位で進んでいるわけではない。「瞬間単位」だ。だから「あそこ」の後ろにいる自分は、まるでパラパラまんがみたいにこちらに向かっているわけだ。
しかし自分はここに来ない。届くのは地球の姿だけだ。
実際は自分も届いているんだが、それはとても高度な顕微鏡でしか見えない小さな点なんだ。
こんどはミクロの宇宙か?

あぁもう空と地面の宇宙が自分だらけになりそうだ。
自分だけでもこうなのにこれがまた何億人もいるんだぞ?
宇宙にはそんなに人が入るの?

まぁいいや、とにかく今見えるあの地球で僕は30年前の喜怒哀楽を感じているんだろうけど、30年前?

あ、僕は生まれていないや。
両親が出会った頃の地球だあれは。
僕はここにいるのに、あそこにはいないんだ。

って、移動したから当たり前か。
違う違う。
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