短い話たち

weo

文字の大きさ
上 下
252 / 407

Tシャツ

しおりを挟む
出掛けたくない。
え?出掛けるの?どうしても?

私はこの男のTシャツ。
しかも私自身女性。
性別があるのよ、Tシャツにも。

なんで私は女なのよ。
なんで私は男物のTシャツなのよ。

そりゃ着てくれる男がいい男ならいいわよ。
でも違うのよ、私の場合。

ただの汗かきならまだ我慢するわ。
でもこの男の汗だからイヤなのよ。
女をどう思ってるのかしらこの男。
偉そうぶって。

自分で汗かいといて自分で洗わないのよこの男。
いつもいつも奥さんに洗わせてさ、で、ありがとうの一言も言わないのよ。
奥さん、無表情で私を干すわ。なんで私ばっかりって目が言ってるわ。

私は私でこの男の汗で太らされるし、この男みたいに。
乾いて痩せたかなって思ったら匂うし。
なんなのよこれ。
私、女なのよ。なんで男臭くならなきゃならないのよ。

何よりね、私、半袖なのよ?
分かる?このジジツが指し示してること!
私の腕、半分男なのよ?毛むくじゃらのあの男の!
あー気持ち悪い。

なんで私ブランドものなのよ。
だからこの男が買ったのよ、見栄っ張りだから。
それに何回も着るし。ブランドものだから。
ブランドものだったら私が喜ぶと思ったのかしら神様は。
違うのよ、Tシャツは喜ばないのよ、喜ぶのは人間なのよ。
なんか勘違いしてるわ、天は。

早く飽きられたいわ私。古着ショップ行きたい。
そんな贅沢言わないわ、この際。燃えるゴミでもいいわ。
もうとにかくこの男いやなのよ。離れたいのよ。

早く秋にならないかなぁ。でも温暖化で秋ないし。
冬でもいいから早く寒くなってよ。

…この男、今年の冬は肌着代わりに私を着てるわ。
「ハダギ」よ?気持ちワル。
古くなったかららしわ。
あんまり着すぎて私の色が褪せて生地も緩くなったから、シャツにするとか言ってたわこいつ。
もう年がら年中一緒なのよこいつと。まるで夫婦よ。あーいやいや、もっといや!

でもね?
物持ちだけはいいのよこいつ。だからお金貯まるのよ、だからブランド物買えるのよ。
だから私がここにいるのよ。なんだか最近運命を感じるわ、この男の性格熟知したらさ。
なんでブランド買うかって、とにかくいいものは長持ちするからだって言うのよこいつ。
この肌触りが馴染んでるとかずっと着てたいとか、そんなことまで言うのよこいつ。

おかげで私、おばあさんになっちゃったじゃないの。
年取ると心細いわ。なんだか寒いわ、冬のTシャツって。心も体もホント寒い。
こいつの体温が暖炉代わりになってるわ、変にあったかいわ。気持ち悪いけど心地いいわ。
あーいや、そんな感謝してる私が。

ねぇ奥さん、聞きたいんだけどさ。
奥さんもそう思ってんの?

男ってさ…
気持ち悪いけど心地いいって。









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...