短い話たち

煙

神様
どうか私を禁煙させてください
煙草をやめたら
煙草の煙の代わりに〇〇を
煙の代わりに〇〇を
煙の代わりに〇〇を
煙の代わりに〇〇を
煙の代わりに〇〇をお与えください

私は禁煙を誓うたび
いくつも煙草の煙の代わりに
得たいものを願ってみたが
結局私は煙草をやめられず
得られるものは煙ばかり

私の今までは
煙を買って
煙を吸って
煙を吐いていただけ
そしてどれだけの財産と
健康を煙にしたことか

もう煙はいらない
せめてこれからは
煙草を買えるお金があるなら
本を買って
文字を吸いたい
文字を吸って
言葉にして吐き出したい
それも他人を幸せにする言葉を

なんて殊勝なことを考えても
結局私は
せっかく買った本を燃やして
その煙を吸って吐いていた
本の火は家に燃え移って
家もろとも財産もみんな燃やして
隣の家も焼いてしまった
火は広がって
街一面が焼け野原になってしまった
私が他人に与えたのは
嘆きと怒りと絶望
そして莫大な賠償金の数字だけ

そんな大金払えないから
私は逃げて
警察に追われて
自殺しようと逃げ込んだ火山の
噴火口の煙を吸っていた
吸いながらふと
私が吸っているのは
煙草でないことに気がついた

いつのまにか禁煙していたが
やっぱり得たのは煙だった

神様
何か間違えてません？
まさか煙草に火をつけながら
私の願いを聞いてたんじゃ
ないでしょうね？