短い話たち

文字人間

寂しい時
悲しい時
マイナスの言葉ばかりが浮かぶ時
そんな時は
私を書いてください
頭の中にあるあなたの単語を
浮かぶままでいいから書き出して
それを人の形にして下さい
必ず私は現れて
あなたを助けますよ

落ち込んだ日の夢の中に現れた影は
そんなことを言っていた

私はその次に落ち込んだ時
頭に浮かぶ単語を脈絡なく書き出して
それでも人の形は意識して
ノートに文字の人間を書いてみた
するとその文字人間が浮かび上がって
ノートの上に立ち上がった

文字人間は机のへりに腰かけて
いろんな言葉を語ってくれた
それはとても心地のいい言葉で
時には私がハッとするような言葉だった

私はそれを聞くうちにだんだん元気になって来た
悩みはどこかに吹き飛んで
悲しみはいつの間にか喜びに変わっていた

あなたはなんて不思議な力を持っているの？
そう文字人間に語りかけたら文字人間は

「私は私じゃありませんよ。あなた自身の中にある言葉なんです」

それだけを言って、手を振ってノートの平面に帰って行った。