短い話たち

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こいつ

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足もとに無数の人の頭が眼を剥いてゴロゴロ転がっている。
必死に口を開けて舌を出して転がっている。
胴体も何もない頭だけがゴロゴロ転がっている。
なんでそうなってしまったのかを頭に聞いたら、どの頭も自分を食べ切れないんだと言っている。
みんな愛する自分を味わおうと自分の体を食べてしまったけど、頭にだけは口が届かないんだと必死に眼を剥いて舌を伸ばしている。
伸びた舌は隣の顔を舐めては「不味い」と慌てて引っ込んでいる。
そんな自分の頭を美味しく食べるにはどうしたらいいんだろうと考えた。
答えはひとつしかない。
食べてもらうのだ。
自分を美味しく味付けして、他の頭に食べてもらうのだ。
そう考えた私は転がる頭に次々と塩を振ってやった。
途端に伸びた舌は他人の味を知り、相手の頭を食べ始めた。それが連鎖した。
そうして自分という意識はどんどん消えて行くのだが、困ったことになってしまった。
最後の一人が残ったのだ。
自分を食べ切れない自分が。
足もとに転がる頭はこいつ一つだけになってしまったが、さてどうしようか。
こいつを美味しく味付けして私が食べてしまおうか。
しかしそうすると、今度は私が一人残ってしまう。
それは困る。
私は未来永劫自分を食べ切れない地獄に落ちてしまう。
こいつに食べてもらわなきゃならない。
私は今から自分の体を食べるところだが、それが済んだらこいつと顔を突き合わせるわけだ。
それまでに塩を振っておこう自分の体に。まだ腕があるうちに。
私はあぐらをかいて座って、脚の間にこいつを乗せた。頭だけだがほんのり温かい。
他人に食べられることを覚えた頭は、私の体に味付けされるのを待っているようにじっとこっちを見ている。
目と目が合うとなんだかこいつが可愛らしくなって来た。

だから私はこいつに塩を振った。
「こいつめ」と言いながら。


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