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履く
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雑踏の足もとばかり見ていたらそのうち、人が靴を履いているのではなく、靴が人を履いているんじゃないかなという錯覚に襲われた。
もしそうならば、靴屋というものはなく、まず靴が人間屋に行って人間を買い、服屋に行って人間に服を着せ、服を着た人間を履いて出かけるわけだ。
人間屋で靴は、開いた自分の口に合う大きさの足を持った人間を選ぶわけだが、人間と同じで靴にもいろんなタイプのやつがいる。
靴によっては脚のライン優先とか足の柔らかさ優先とかいろいろこだわりがあるだろうが、中には足ではない顔とか肌の色なんかにこだわる靴もあるかも知れない。
例えばここにパンプスがいたとする。
パンプスは人間屋でまず女性の人間を物色する。
パンプスだけがコツコツ歩いて、カーテンのように吊られた人間と、その足を物色している。
パンプスは右と左があるからまるで夫婦か友達で買物に来ているようなものだ。
そこへ男性の店員が来る。
「何かお探しですか?」
と声を掛けて来る。
「‼︎」
右パンプスが男性店員を見てときめく。
「それ、見せてくれません?」
右パンプスが左パンプスに少し目をやって言う。
左パンプスはウンウンとうなずく。
「あ、いいですけど、これ、男ですよ」
男性店員は男性を脱ぐ。
「服装はこのままでいいですよね?」
脱がれた男性は自分で天井にぶら下がる。
「これ履いたら私たち変態に見られるかな?」
右パンプスが言う。
「でもあなた、男性履きたかったんでしょ?」
左パンプスが言う。
「いいの?私の好み押し付けて」
右パンプスが気遣う。
「いいわよ、親友じゃない」
左パンプスが気軽に許す。
「ほらほら顔は?これでいい?」
左パンプスはまるで自分のことのようにウキウキして言う。
「うーん、大丈夫」
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが嬉しい。
パンプスたちは即決で男性を購入した。
男性は店で使った中古品ということになったので、定価の7がけで買えた。
「7がけにしては履き心地いいわね」
左パンプスが言う。
「悪いわね」
右パンプスが恐縮する。
「なんでよ、本当のことよ」
左パンプスが笑う。
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが嬉しい。
春の日差しが眩しい街には人が…いや、靴が溢れている。
履かれている人間たちが好奇の目を向ける。そりゃ、男性を履いたパンプスが歩いているのだから仕方ないだるろう。
「悪いわね」
右パンプスがますます恐縮する。
「いいじゃない、こんなに注目されたことないじゃない、私たち」
左パンプスが笑う。
「そうかもね」
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが嬉しい。
「でもちょっと…」
急に左パンプスが止まった。
「どうしたの?」
右パンプスが心配する。
「あなたなんともない?」
左パンプスが聞く。
「ええ、別に。でもどうしたの?」
右パンプスが聞き返す。
「ズレ…人ズレしたみたい」
左パンプスが顔をしかめる。
「やっぱり男性はキツいんだ。ごめんね」
右パンプスが謝る。
「ちょっと脱ぐわ」
左パンプスはモゴモゴ動いて男性の足を外した。
左パンプスの口が「おわーん」という感じに広がっている。
「ひどい人ズレだわ」
それを見た右パンプスが動揺した。
「治りそう?」
左パンプスが言う。
「分からないわ。とにかく病院よ」
男性に携帯で119させて、しばらく日陰で待った。
街を行く人間たちが男性に声をかけて行く。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫?」
「靴、壊れたの?」
もちろん、靴は靴で声をかけて行く。
「ひどい人ズレだー」
「治るか?あれ」
「男なんか履くからだ」
人間に比べて、なんか冷たい。
と、そのうち
「あの、よろしかったら」
男性に女性の声が掛けられた。
「主人が入院中で、履いていた部屋履きなんですけど、部屋履きが主人を嫌っちゃって…汚いかも知れませんがよければ…」
女性の紙袋から覗く茶色いスリッパが「履きやすそうな男だなぁ」
と囁き合っている。
それを見た右パンプスは何も言わずにモゴモゴ動いた。
茶色いスリッパは、男性を履いて行ってしまった。
「ごめんね、私のせいで」
右パンプスは左パンプスに泣いて謝った。
「いいのよ。こんなのすぐに治るわ。それより治ったら何履こう」
左パンプスは笑った。
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが辛かった。
「何履こうね…」
「救急車、遅いね」
「もう来るわよ、もうちょっとよ」
…救急車で運ばれたのは、私だった。
私は雑踏で人にのぼせて倒れたのだ。
靴が人を履く幻覚を見ていた。
ここまでの幻覚を見ていたが、そのあとは気を失った。
だからこの話の先は知らない。
もしそうならば、靴屋というものはなく、まず靴が人間屋に行って人間を買い、服屋に行って人間に服を着せ、服を着た人間を履いて出かけるわけだ。
人間屋で靴は、開いた自分の口に合う大きさの足を持った人間を選ぶわけだが、人間と同じで靴にもいろんなタイプのやつがいる。
靴によっては脚のライン優先とか足の柔らかさ優先とかいろいろこだわりがあるだろうが、中には足ではない顔とか肌の色なんかにこだわる靴もあるかも知れない。
例えばここにパンプスがいたとする。
パンプスは人間屋でまず女性の人間を物色する。
パンプスだけがコツコツ歩いて、カーテンのように吊られた人間と、その足を物色している。
パンプスは右と左があるからまるで夫婦か友達で買物に来ているようなものだ。
そこへ男性の店員が来る。
「何かお探しですか?」
と声を掛けて来る。
「‼︎」
右パンプスが男性店員を見てときめく。
「それ、見せてくれません?」
右パンプスが左パンプスに少し目をやって言う。
左パンプスはウンウンとうなずく。
「あ、いいですけど、これ、男ですよ」
男性店員は男性を脱ぐ。
「服装はこのままでいいですよね?」
脱がれた男性は自分で天井にぶら下がる。
「これ履いたら私たち変態に見られるかな?」
右パンプスが言う。
「でもあなた、男性履きたかったんでしょ?」
左パンプスが言う。
「いいの?私の好み押し付けて」
右パンプスが気遣う。
「いいわよ、親友じゃない」
左パンプスが気軽に許す。
「ほらほら顔は?これでいい?」
左パンプスはまるで自分のことのようにウキウキして言う。
「うーん、大丈夫」
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが嬉しい。
パンプスたちは即決で男性を購入した。
男性は店で使った中古品ということになったので、定価の7がけで買えた。
「7がけにしては履き心地いいわね」
左パンプスが言う。
「悪いわね」
右パンプスが恐縮する。
「なんでよ、本当のことよ」
左パンプスが笑う。
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが嬉しい。
春の日差しが眩しい街には人が…いや、靴が溢れている。
履かれている人間たちが好奇の目を向ける。そりゃ、男性を履いたパンプスが歩いているのだから仕方ないだるろう。
「悪いわね」
右パンプスがますます恐縮する。
「いいじゃない、こんなに注目されたことないじゃない、私たち」
左パンプスが笑う。
「そうかもね」
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが嬉しい。
「でもちょっと…」
急に左パンプスが止まった。
「どうしたの?」
右パンプスが心配する。
「あなたなんともない?」
左パンプスが聞く。
「ええ、別に。でもどうしたの?」
右パンプスが聞き返す。
「ズレ…人ズレしたみたい」
左パンプスが顔をしかめる。
「やっぱり男性はキツいんだ。ごめんね」
右パンプスが謝る。
「ちょっと脱ぐわ」
左パンプスはモゴモゴ動いて男性の足を外した。
左パンプスの口が「おわーん」という感じに広がっている。
「ひどい人ズレだわ」
それを見た右パンプスが動揺した。
「治りそう?」
左パンプスが言う。
「分からないわ。とにかく病院よ」
男性に携帯で119させて、しばらく日陰で待った。
街を行く人間たちが男性に声をかけて行く。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫?」
「靴、壊れたの?」
もちろん、靴は靴で声をかけて行く。
「ひどい人ズレだー」
「治るか?あれ」
「男なんか履くからだ」
人間に比べて、なんか冷たい。
と、そのうち
「あの、よろしかったら」
男性に女性の声が掛けられた。
「主人が入院中で、履いていた部屋履きなんですけど、部屋履きが主人を嫌っちゃって…汚いかも知れませんがよければ…」
女性の紙袋から覗く茶色いスリッパが「履きやすそうな男だなぁ」
と囁き合っている。
それを見た右パンプスは何も言わずにモゴモゴ動いた。
茶色いスリッパは、男性を履いて行ってしまった。
「ごめんね、私のせいで」
右パンプスは左パンプスに泣いて謝った。
「いいのよ。こんなのすぐに治るわ。それより治ったら何履こう」
左パンプスは笑った。
右パンプスはそんな左パンプスの心遣いが辛かった。
「何履こうね…」
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