短い話たち

記憶のページ

記憶のページをめくっていく
パラパラパラパラめくって
時々止める

誰かが笑っている
誰だったっけ？
忘れた

誰かが怒ってる
誰だったっけ？
忘れた

まためくっていく
ずっとずっとめくっていく

いた
結婚前の
あの日のあなたが

「ひさしぶり」
声を掛けた
「え？」
怪訝そうな顔をされた

すると

「待った？」
誰かの声がする

「いや、今来たとこ」
あなたが答える

「行こうか？」
「うん。知らない人から声掛けられた」
「人違いね？」
「みたい」

行ってしまった

そうか
「待った？」って声
私なんだあの日の

あれからあなたとどこへ行ったんだろう？

映画を見たような
それから

たしか高いもの食べに行ったような

うーん

忘れた

ページを戻そうか？

いや
やめよう
その必要はない

あれからふたりでどこへ行って
どこをどう通ったかは覚えていない
でもちゃんとここに着いた

「待った？」
「いや、今来たとこ」
「よかった」
「子供は預けられた？」
「うん。大丈夫よ」
「でも早めに帰ろう」
「買うもの買ったらね」

今から行く所がある
たいした所じゃないけど
そこで買うものの方が大事なんだ
夕食の材料
これは忘れてはいけない

どこかを通ってふたりで着いたここで
いちばん大事なものだから

特に子供たちのは