短い話たち

ベランダ

団地１棟には、どれくらいの人間が住んでいるんだろうか？
仮に５階建てとして、１階の階段出入り口の両側に部屋があるとして、その出入り口が５つあるとしてえーと、５×２×５だから50部屋か。
じゃあそこに何人住んでいるんだろう？
仮に１人住まいが10部屋で２人住まいが30部屋で３人住まいが５部屋で４人住まいが３部屋で５人住まいが２部屋だとして合計107人か。
でも、その裏側のベランダで洗濯物を干しているのは各部屋１人だけだ。

あれ？あの部屋たしか男性の1人住まいなのに女の人が洗濯物を干してるぞ。
それも女物ばかりだ。
うーん、あそこに来た恋人が自分の洗濯物干してる？
いや待てよ、あの女性はどう見ても10代か20代だけどあそこに住んでるの完全な爺さんだぞ。
じゃ、子供か孫かな。
でもあの洗濯物、どう見ても年配の女性のものだぞ。
たしかあの爺さんの奥さんって、とっくに死んだぞ。
じゃ、誰の服なんだあれ。
あそこの爺さんに女装趣味はないしなぁ、といってたとえそうでもあの女性が干してるのおかしいしなぁ。年配の恋人？それでもおんなじだ、あの女性が干してるのおかしいわ。
それか何か？年配の女性服の洗濯屋を爺さん始めたか？若い子雇って。
そんな回りくどい商売考える俺がおかしいよな。
いったい誰なんだ？あの服の主は。

分かったよ。
嫁いで行った孫娘が嫁ぎ先の親のそのまた親の服を洗いに来たんだってさ。

「お義祖父さん、女装趣味なんだけど、お義祖母さんが亡くなってるからうちにこの服干したらみんな怪しむから」

だってさ。