短い話たち

苦楽

「こうして苦楽って文字を眺めると、まるで夫婦の記念写真みたいね」
「どっちが僕？」
「決まってるじゃない、楽の方よ」
「楽してないよ、これでも。仕事しんどいしさぁ」
「私も仕事してるしその上家事よ。こっちの方がしんどいわ」
「でも君はパートだろ？僕はフルタイムだぜ」
「あなたねぇ、家事も仕事なのよ、それもフルタイムどころじゃないわ、エンドレスよ！」
「円ドレスよー」
「なに茶化すのよー！」
「あのなぁ、こっちは間違いが許されない緊張の中に一日中いるんだぞ！それだけで十分苦痛なんだ！」
「あのねえ、家事の中にはねえ、家事にならない家事があるのよ！知ってる⁈」
「なんだよ、それ」
「あなたいつもちゃんと揃えてもらった靴履いて出掛けるでしょ⁈あれ誰が揃えてると思う⁈それにあなたの洗濯物誰がたたんでるのよ！あなたのネクタイちゃんと掛けてるの誰⁈」
「でもなぁ、こっちは取引先や上司のご機嫌取りで神経すり減らしてんだ。寿命も削ってるんだぞ！もうクタクタなんだよ。いちいち靴揃えて部屋に入れるか！」
「こっちだってねぇ、近所に神経使ってんのよぉ！うちの植木の落ち葉がねぇ、鈴木さんのねぇ、家のねぇ、前にねぇ、落ちてんのよ！それねぇ、パートからフラフラになって帰った時いつも掃いてんのよ！あなた鈴木さんの性格知ってる⁈気に食わないとあらぬ噂たてるのよ！それに知ってる⁈あそこの旦那さんチクリ魔なのよ！この前も池本さんがゴミ出し間違えただけで警察呼んだのよ！どう思う⁈おかしいにも程があるわ！それにあなたの会社のことあの奥さん、なんだかんだ聞くのよ！チクリのネタ探しかしら気持ち悪い。だから私は神経を尖らしてるの！休む間なんてありゃしない！」
「でもなぁ！こっちは金稼がなきゃなんないんだよ！この家買ってくれって言ったのどこの誰だ⁈そのローンは誰の口座から落ちてんだ？ん⁈ローンなくなるまであと何年あると思ってんだ⁈ん⁈それまで薄氷を踏む毎日なんだぞ！こっちは！」

結局このふたり、苦の奪い合いを今も続けている。
その様子を見て楽が、文字通りの顔で楽しんでいる。