刺朗

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三次元のエピローグ⑨

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(分かりません)
「君は小説の中では、幸恵に復讐させたね?ならばこの小説を、手紙代わりに雪子さんに届けたらどうなるだろう?」
(それは怖いです。雪子さんが苦しみます)
「しかし赤ん坊の無念は晴れるよ。君の言う供養にはなる」
(供養は幸恵の復讐で果たしたと思っています)
「雪子さんは川田に負けたままだよ?それでいいのかい?勝利者も小説の中でいいのかい?」
(それは)
中井はその先が書けなかった。そこで伊藤は提案した。
「日を改めて、小説を川田の家に届けに行こう。私が連絡したら、君は小説をプリントしてくれ。そして茶封筒に入れて川田雪子様って宛名を書いてくれ。それを私とふたりで届けに行こう。それが雪子さんに手渡せるかどうかは、天が決めるということで」

そして1年後の今日を迎えていた。
提案はしたものの、いざ小説の束を持ったら、それは雪子の未来を預かるようで、伊藤はなかなかプリントの指示が出来ないでいた。
さすがに焦りが出て、自分が言ったように、天に決めてもらうんだという決意で、中井に連絡をした。

(依頼されたものはこのバッグに入れましたが、本当にいいんでしょうか?こんなことをして)
渡されたメモを読んで伊藤は言った。
「私も悩んださ。今は穏やかに暮らしてるんだ。しかしな、言わなきゃならんのだよ、やはりな…」
(私は伊藤さんからの連絡が死刑宣告に思えました。その時、出来ればしたくないという自分の気持ちに気づきました。やはりやめませんか?)
「しかしな…」
伊藤は空を見た。
夏の太陽が眩しい。
キンキンと周囲の空の青を刺激している。
伊藤の頭をつついている。

とにかく歩け、答えは私が出そう。
今日の太陽がそう語っている。

すべては天が決めるものだ。
人間は何も考えなくていい。
今日のことは
今日の天に任せればいい。

「とにかく歩こう!」
伊藤は中井の肩を叩いた。

2人は川田の家に向かって歩き出した。
中井のバッグの中で「刺朗」が揺れていた。


【終わり】
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