刺朗

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対決15

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「第三章、刺朗抹殺の前置き」
平井の声が響く。
「凛のことで僕は【あいつ】の抹殺を決心した。僕の愛の対象は、もう、幸恵ひとりになってしまった。
それに僕は、幸恵との約束を果たさなければならない。
幸恵は少しずつだが立ち直って行った。
少し落ちついた頃からまた、僕のために弁当を作り始めた。それは凛を失ってから一層、精魂を込めたものとなった。
まだ深夜の時間帯から起きて、台所に立っていた。
夜中に僕がトイレに行った時、既に台所から、調理のいい匂いが漂っていた。
しかしそれは翌日、僕が川に流していた。まるで凛に食べさせているようだった。
それを思うと【あいつ】に対する憎しみが増した。
僕は犯罪者には違いない。それは僕の体を使って【あいつ】が犯した罪だが、それを、警察に言っても信じてはもらえないだろう。【あいつ】はズルい。そして【あいつ】はしたたかだ。【あいつ】は僕の体という、温かい布団にくるまって、僕の苦しみを笑いながら見ているのだ。
僕はそんなあいつを、現実に引っ張り出してやろうと思った。
事件の直後から、僕は【あいつ】をレントゲンにかけるように精神カウンセリングに通い出した。その傍らで医学やら宗教、降霊術、スピリチュアル、心理学、超常現象、果ては精神論や武術まで、人の心や霊体に関する本を読み漁った。何かあいつに体を与える方法はないかと。
そんな毎日がずっと続いていたある日、凛の事件が時効になった。
犯罪者としての足枷が外れた。
すると一層【あいつ】が疎ましくなって来た。
僕は【あいつ】の機嫌を取るために、幸恵の料理を何百回も川に流している。それでも時々【あいつ】は幸恵を殺そうとする。
せっかく僕は真っ白な体になった。それをまた罪で汚したくはない。
僕は刑法で裁かれることはない。
殺されたのはみんな身内だから民法が裁くこともない。
後は気持ちの問題だけだ。
しかしこれこそ解決しなければ、僕は本当の真っ白にはなれない。
僕は自分の未知の力を引き出して、今度こそあいつを目の前に引きずり出し、決着をつけようと決心した。
催眠カウンセリングや気功術という、より積極性の高い術(すべ)を学び始めた。そして宇宙、そう、時空の歪みに興味を持った。これは使えると思った。
それから【あいつ】に名前を付けた。刺すことが何よりの愉しみみたいな奴だから【刺朗】にした。
このことで【あいつ】は【刺朗】という人間になった。あくまで極悪人だ。
あとは実体を与えるだけだ。

最近、天体望遠鏡を買った。
それで毎夜、星を眺めている。
星によっては実体のないものがある。
なのに姿が見えている。
この現象…

僕はようやく刺朗を実体化する方法を見つけた。
そして【四次元殺害】のやり方も。
ある日僕は、考えを実行するために最終電車に乗った。
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