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対決16
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「そしてようやく第三章の本題になります」
平井がその先を読もうとした時…
面談室のドアの前に少年が1人立っていた。
実体があるような無いような状態だったが、すぐに姿が鮮明になった。
肩から水筒を下げ、リュックを背負っていた。
凛の事件の時の少年と同じ格好だ。
ドアが開いた気配はなかった。
するとドアをすり抜けたのか?
「おじちゃんらさ、USB差したままだったでしょ?」
少年の手の指は、USBメモリを摘み持っていた。
「あ!」
平井が小声をあげた。
テーブルの上のノートパソコンに差さっていたUSBが無い。
「ちょっといい?」
少年はテーブルの上にリュックを置いた。
ファスナーを開け、中からノートパソコンを取り出した。
その側面にUSBを差した。
「さ、準備は出来た。本題とやらを読んでごらん?」
少年のしたことはさっぱりわけが分からない。
後藤が少年に聞いた。
「君は誰なんだ?あの河原の少年か?」
「あぁ、このUSBの中に書いてあったね?でも違うよ」
少年は微笑んで答えた。
「その格好は?」
「単なる真似だよ。それよりさー早く読みなよ」
少年はリュックからまた何かを取り出した。
出刃包丁だった。
「ということは、君は刺朗か?」
後藤の問いに、少年は何を今さらという顔をして
「そうだよ。鈍いな、おじさんは」
と言うやいなや急に苛立って
「さっさと読めよ!」
と怒鳴った。
包丁の切先が、平井に向けられていた。
慌てて書面を読もうとした平井を
「待て!!」
後藤が制した。そして刺朗に向かって言った。
「読む前に教えてくれ!川原はなぜ死んだ⁈どうやって死んだんだ⁈」
この先を読むと、いつどこで自分の身が崩壊するかも知れないという予感が、後藤の脳裏にあった。
聞けるうちに聞く。もしかしたらそこに身を守るチャンスがあるかも知れないと後藤は考えた。
「おっさん!あんた素直じゃねえなぁ。刺してやろうかオラ!」
刺朗は鬼と化していた。包丁を振り上げて後藤に飛びかかって来た。
あわやというところで辛うじて身をかわし、壁際に逃れた。とっさに平井が持っていた紙束を盾にして後藤を庇った。
「本題」の文章が後藤の目に入った。
【事件の概要はこうだった。
終着駅に着いた電車のボックスシートに、座ったままの中年の男性の死体があるのを、車内を見回っていた車掌が見つけた。
死体の男性は背広姿であった。
死因は他殺と思われた。
男性の右腿に、鋭利な刃物で刺されたと思われる傷があり、大量の出血痕があったからだ。
おそらく大動脈を切断された失血が死因であろう。
まだ乾き切らない血液は、ヌタヌタと光りながら男性の足許に続いていた。
それだけなら普通の刺殺体だが、この死体にはひとつ奇妙なところがあった。
男の口が「咀嚼状態」で、右手にスプーンを持っていたからだ。
どうも男は、食事中に死んだようだ。
半開きの男の口には、溢れかけた飯粒が満ちていた。
左手はプラスチックの弁当箱を持っていたので、どうやら男の家族の手弁当を食べている最中に刺されたようだ。
駅からの通報を受けて現場に来た刑事は、○○県警のベテラン後藤と若手の平井だった。
「タコさんウィンナーに卵焼き、ふりかけご飯、ありふれてるなぁ。あと何が入っていたんでしょうね?このおかずの隙間には。やっぱり野菜系でしょうかね?」】
平井がその先を読もうとした時…
面談室のドアの前に少年が1人立っていた。
実体があるような無いような状態だったが、すぐに姿が鮮明になった。
肩から水筒を下げ、リュックを背負っていた。
凛の事件の時の少年と同じ格好だ。
ドアが開いた気配はなかった。
するとドアをすり抜けたのか?
「おじちゃんらさ、USB差したままだったでしょ?」
少年の手の指は、USBメモリを摘み持っていた。
「あ!」
平井が小声をあげた。
テーブルの上のノートパソコンに差さっていたUSBが無い。
「ちょっといい?」
少年はテーブルの上にリュックを置いた。
ファスナーを開け、中からノートパソコンを取り出した。
その側面にUSBを差した。
「さ、準備は出来た。本題とやらを読んでごらん?」
少年のしたことはさっぱりわけが分からない。
後藤が少年に聞いた。
「君は誰なんだ?あの河原の少年か?」
「あぁ、このUSBの中に書いてあったね?でも違うよ」
少年は微笑んで答えた。
「その格好は?」
「単なる真似だよ。それよりさー早く読みなよ」
少年はリュックからまた何かを取り出した。
出刃包丁だった。
「ということは、君は刺朗か?」
後藤の問いに、少年は何を今さらという顔をして
「そうだよ。鈍いな、おじさんは」
と言うやいなや急に苛立って
「さっさと読めよ!」
と怒鳴った。
包丁の切先が、平井に向けられていた。
慌てて書面を読もうとした平井を
「待て!!」
後藤が制した。そして刺朗に向かって言った。
「読む前に教えてくれ!川原はなぜ死んだ⁈どうやって死んだんだ⁈」
この先を読むと、いつどこで自分の身が崩壊するかも知れないという予感が、後藤の脳裏にあった。
聞けるうちに聞く。もしかしたらそこに身を守るチャンスがあるかも知れないと後藤は考えた。
「おっさん!あんた素直じゃねえなぁ。刺してやろうかオラ!」
刺朗は鬼と化していた。包丁を振り上げて後藤に飛びかかって来た。
あわやというところで辛うじて身をかわし、壁際に逃れた。とっさに平井が持っていた紙束を盾にして後藤を庇った。
「本題」の文章が後藤の目に入った。
【事件の概要はこうだった。
終着駅に着いた電車のボックスシートに、座ったままの中年の男性の死体があるのを、車内を見回っていた車掌が見つけた。
死体の男性は背広姿であった。
死因は他殺と思われた。
男性の右腿に、鋭利な刃物で刺されたと思われる傷があり、大量の出血痕があったからだ。
おそらく大動脈を切断された失血が死因であろう。
まだ乾き切らない血液は、ヌタヌタと光りながら男性の足許に続いていた。
それだけなら普通の刺殺体だが、この死体にはひとつ奇妙なところがあった。
男の口が「咀嚼状態」で、右手にスプーンを持っていたからだ。
どうも男は、食事中に死んだようだ。
半開きの男の口には、溢れかけた飯粒が満ちていた。
左手はプラスチックの弁当箱を持っていたので、どうやら男の家族の手弁当を食べている最中に刺されたようだ。
駅からの通報を受けて現場に来た刑事は、○○県警のベテラン後藤と若手の平井だった。
「タコさんウィンナーに卵焼き、ふりかけご飯、ありふれてるなぁ。あと何が入っていたんでしょうね?このおかずの隙間には。やっぱり野菜系でしょうかね?」】
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