刺朗

weo

文字の大きさ
上 下
39 / 55

対決14

しおりを挟む
平井は朗読を切った。
「そしてあのノートの通り、川原は無罪放免になったんですね」
「運のいい奴だ」
投げ捨てるように後藤が呟いた。
「少年はなぜ黙ったままなのでしょう?」
平井が聞いた。
「よほど川原の印象が恐ろしかったんだろうな。目の前で殺人を行なったんだから。それとこの犯罪には、自分も関わったと思ったのかも知れないな。なにせ赤ん坊の頭を鷲掴みにしたんだからな。もしかしたら、半分は自分が殺したと思ったかも知れない。多分、捜査で刑事が少年の近くをウロウロしたろう。それも怖かったかも知れない」
「少年はもう、大人になっていますよね…」
「どこにいるのやら…だな」
「しかし川原は、この時は結構投げやりになっていますね?」
「川原は保身のために罪を逃れたんじゃないだろう。すべては幸恵との約束を果たすこと、そのための工作だろう。だから疲れたら、捕まった方が楽なのかも知れない」
しばらくふたりは沈黙した。
「まだ、文章はあります」
平井は未読のプリントの束を持った。
「この先が正念場なんだろうな。まだ私らの身に災いは起こっていないからな」
束を睨んで後藤が言った。
「しかし【四次元殺害】ってなんでしょうか?」
平井が聞く。
後藤にはなんとなく分かる。
その対象は刺朗だけではないような気もする。
「そのとばっちりがこっちに来そうだな」
後藤は例の不可思議な現象をまた思い浮かべていた。そうだ、あの現象だ。それが身に降りかかる災いを予感させるのだ。
「あの…」
平井は何か言いたそうだ。
「なんだ?」
「ちょっと整理していいですか?深呼吸代わりに」
「じゃ、またコーヒーを淹れてくれ。飲みながら聞くよ」
「分かりました」

コーヒーが来た。
一口ずつ飲んだ。
平井が話す。
「この事件は
①川原ろくろという人間が殺されていた
②自宅からノートが出て来た
③ノートは川原の霊体絡みの自殺を断定 させた
④USBも出て来た
⑤USBは開かなかった
⑥しかし後藤と平井は開けられた
⑦USBは川原の霊体殺害を匂わせていた
こんな感じで推移していますね」
「そして【四次元殺害】だ」
「私たちふたりは、それにどう関わるんでしょう?」
「立会者か、被害者かのどちらかだろうな」
やり取りの後、ふたりはコーヒーを飲み干した。
「さ、先へ行こう。それが何か分かるさ」
後藤の呼びかけに平井が応じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...