刺朗

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対決13

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睡眠薬が効いて来たのだろうか?
つい今し方まで頭にこびりついていたしたたかな考えが、頭を離れて空中を舞っている。
それを取ろうという奴が、片手を上げてピョンピョンと飛び歩きしている。
そいつはもうひとつの片手にポリ袋を下げている…

あ、そうだ。
したたかな考え…
それはなんであの少年にポリ袋を持たせて放ったかだ。
あの子は精神に障がいがあり、話すことさえままならない上に、発作的に凛の頭を掴んだように、時として凶暴になる。
あのポリ袋には、少年の指紋しか付いていない。
そんな状況なのだ。
少年が発見され、何かを問われても、彼は事を正確に話せるだろうか?
おそらく正確な表現は難しいだろう。
そのうちパニックになって凶暴さを表すかも知れない。発作的に殺人を犯したと思わせるかも知れない。
その上、あれだけ脅したのだ。彼の精神はさらにダメージを受けているだろう。
凛の死体もいくつにも分けて、さらに水でふやかした。それがなんの効果があるのかは知らないが、運がよければ上手く作用するだろう。
…しかしまぁいい。バレる時はバレる。
それに1つ、僕は詰めを欠いている。
目覚めたらきっと警察にあれこれ問われるだろうが、その答えの中に【睡眠薬を少年に飲まされた】というものを用意した。だが僕は少年の水筒に睡眠薬を入れていなかった。水筒の中身が、僕が飲んだ凛の麦茶と同じものではないのも確かだ。
あー、穴だらけだ。
まぁいいや、なるようになれだ。

開き直った途端に意識は一気に無くなった…

目が覚めたら、予想通り刑事の顔と話していた。伊藤という刑事だった。
刑事はこの間の経過を話した。
少し驚いたのは、凛の死体を幸恵が見つけたということと、死体の在処を子供が電話で教えたということだった。
子供とは誰だ?
まさかあの少年が?
刑事に対しては、少年に睡眠薬を飲まされたで押し通した。
詳細はノートに書いた通りだ。

家に戻った僕はまず、幸恵を抱きしめた。その感触は今後絶対に失ってはならないと心に誓った。

2、3日後の昼過ぎ、幸恵は神経内科の受診に出かけた。事件でかなり参っていたので、僕が受診させたのだ。
ついて行ってやりたかったが、会社を休んでいたので片付けなければならない仕事があり、家に残った。代わりにタクシーを呼び、運転手に幸恵のことを頼んだ。

と、居間の電話が鳴った。

【もしもし】
【おじさん誰?】
この声は…
【河原で会ったろう!】
【…】
【お前、ちゃんと話せるじゃないか】
【顔を見なければね】
【赤ん坊の居場所を教えたのはお前か?】
【そうだよ】
【なぜまた、かけて来た?】
【本当のことを、お母さんに話してあげるんだ】
【なるほどな。ならばお前を赤ん坊と同じようにしてやるぞ。お前がどこにいるかは知っているんだ。今からすぐ行く】

苦しまぎれの出まかせを言ったら電話は切れた。
それきり二度と電話はかかって来なかった」




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