刺朗

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対決③

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プリンターが止まった。
後藤はなんとなく背筋に寒気を覚えた。
平井がプリントされた紙束を持って来た。
後藤は、これはここで読むべきではないと思い
「部屋を移ろう」
と言って、上の階にある面談室に行くことにした。
平井は後藤に紙束を渡し、自らはノートパソコンを持った。
平井とふたり階段を上がり、上階の面談室に入った。
そこはテーブルを挟んで、パイプ椅子が2つずつ並んで置かれているこじんまりした部屋だった。
ふたりは向かい合って座った。
「平井君、すまないが朗読してくれないか?」
後藤はプリントされた文字を見るのをためらった。
「いいですよ、平べったい読み方になってしまうかも知れませんが」
パソコンを開きかけていた平井は手を止め、後藤から紙束を受け取りながら言った。
「あぁ、いいよ、頼む」
「分かりました」
平井もなんとなく読むのが恐ろしそうだった。フーッと息を吐き、おもむろに読み始めた。

「幸恵に宛てて…
僕が君にしたものは、プロポーズというより約束だったね?
覚えているかい?…」
平井の声が、こうして聞くと何かしら艶めいて感じる。もしかしたらこれが川原の声だろうか。
「君は僕が、これは約束だと言った時、初めて僕を受け入れてくれた。
そう、君は醜い。それが君を平坦な性格にしてしまったのも分かる。
君はその容姿ゆえに、子供の頃からさぞ劣等感を味わい、虐めも受けて来たことだろう。
僕はあの喫茶店で初めて君を見た瞬間、そんな君の過去が全て見えたような感覚を覚えたんだ。そして…
可哀想…と思った。
僕にとって可哀想という言葉は、実は呪われた言葉で…
最上の愛情表現であると同時に、最悪の結末を呼ぶ言葉なんだ。
ただあの時の僕は、まるで使命のように、可哀想な君を、可哀想な君の人生のこれからを見守り、磨き、君が亡くなる時には輝いたものにしたいと、たまらなく思った。
君は僕が、好きですと何回か言った時、嘘ですと何回も返した。
だから僕ははっきり言った。
君は醜いと。
誰も男は相手にしないと。
そして君は可哀想だと。
可哀想だから守りたいんだと。
そして僕は自分の顔の話をした。
君にはもったいないだろうと。
あなたは何が言いたいんですか?
あなたも私を虐めたいんですか?
と言って君は泣いた。
それがとても可哀想で、その瞬間、僕には君しかいないと思ったし、その通り僕は話した。
君は女性だ。女性だから子供を産める。
どうだ僕の顔を君に掛け合わせて、君の分身を作らないか?
その子はそこそこの容姿になるはずだ。君はその子を連れて歩いて、みんなに自慢するんだ!…
こんなプロポーズあるかな?
しかし正直に僕は心の中を話したんだ。
その上で僕は君を、人生の勝利者にすると約束する。返事を待ってると言った。
何日か経って、君は僕に約束の確認をしたね?
そして
なんて酷いプロポーズなの?
そう言って僕に抱きついて来たんだ」
「慣れない朗読なんで疲れます。ひと息入れますね」
平井は一旦、読むのをやめた。
「この先、まだありますから」
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