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展開③
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「そして」
平井は例の写真集を再び後藤の前に出した。
平井は例の「あとがき」のページを開いた。後藤は驚いた。
先ほどは一瞬見ただけだったので、赤い線の存在しか見えなかったが、今見ると「あとがき」全体に赤線が引かれているのだ。
【広大な宇宙とわれわれ人間は簡単に言うが、それはわれわれが三次元の生き物ゆえの、思考の諦めの言葉である。
宇宙は時間の空間である。ちなみに2,000光年先の星から、われわれが住む地球を見たとする。そこから見る地球は、2,000年前の地球である。そこから見る地球に、われわれはまだ生まれていない。ではわれわれはどこに存在するのだろう。
それを探して宇宙の中を駆け巡れば、50年前、2年前、10,000年前の地球に出会うはずだ。地球はひとつだが、見る場所でその中身はまったく違うのだ。この不可思議が日々、われわれの頭の上にある。
古代からわれわれは、頭上を仰いで祈りを捧げて来た。それは宇宙の不可思議さが不可思議ゆえに、そこに偉大な力を感じ取っていたからであろう。
事実、ある宗教書には、人の強い祈りは宇宙に通じ空気を動かすと記されている。また精神世界でも、強い願いは宇宙に届き、叶えとなり戻ると言う。
ここにひとりの男が、宇宙に祈りを捧げた。彼の願いは宇宙を駆け巡り、偉大な力を得て、彼の許に届く。その時、私が生まれるはずだ。それが実現した時、私の存在は、この宇宙の証明となる。
川原 刺朗 】
「この本は…」
後藤は絶句した。
「なんともひとりよがりなあとがきでしょう?昨年、川原が自費出版したものなんです。そして、この本だけは、棒線に対する記述はありません。自著だから本イコール記述であり、まとめなのでしょう」
「しかも例の刺朗の名前でか」
「そうです。あとがきの内容からすると、ある男とは川原のことだと思います」
「だとすれば、川原は宇宙の偉大な力とやらを証明したいがために死んだのか?
それが目的なのか?」
「川原の書籍とノートから察すると、そうなりますね」
「だとしたら、刺朗はどこかに存在するのか?」
「かも知れません」
「半他殺の犯人か…」
この時後藤は、平井の姉の話を聞いた時に、自らも「時空」のことを語ったことを思い出していた。
あの時はあくまで事件は、三次元にあると言ったのだが、今は到底そうは思えなかった。
翌日、臨時の捜査会議が開かれた。
後藤と平井のノートと本の分析が済んだので、ふたりが花田刑事部長に開会を頼んだのだ。
会議では主に平井が、残りの本の解説と川原の記述への私見、そしてノート末尾の妻の話の解説を行なった。
また前日の会議で各刑事に依頼されていた、川原のノートの内容に対する意見の交換も行なわれた。
20年前と36年前の事件はいずれも時効になっているが、本件との関連性を鑑み、あわせて検討されることとなった。
まず、過去2件の事件については、大半の刑事が川原犯人説を唱えた。
本件については、未読だった本と川原の記述の内容、特に自費出版の写真集のあとがきの内容から、他殺を装った自殺だという意見が他殺説を圧倒した。
そして自殺の理由は、過去の事件への贖罪だという見方が大半だった。
また各担当の捜査からも、第三者が関わった物的証拠はもとより、状況証拠も出て来なかったことから、自殺説はほぼ決定的となった。
平井は例の写真集を再び後藤の前に出した。
平井は例の「あとがき」のページを開いた。後藤は驚いた。
先ほどは一瞬見ただけだったので、赤い線の存在しか見えなかったが、今見ると「あとがき」全体に赤線が引かれているのだ。
【広大な宇宙とわれわれ人間は簡単に言うが、それはわれわれが三次元の生き物ゆえの、思考の諦めの言葉である。
宇宙は時間の空間である。ちなみに2,000光年先の星から、われわれが住む地球を見たとする。そこから見る地球は、2,000年前の地球である。そこから見る地球に、われわれはまだ生まれていない。ではわれわれはどこに存在するのだろう。
それを探して宇宙の中を駆け巡れば、50年前、2年前、10,000年前の地球に出会うはずだ。地球はひとつだが、見る場所でその中身はまったく違うのだ。この不可思議が日々、われわれの頭の上にある。
古代からわれわれは、頭上を仰いで祈りを捧げて来た。それは宇宙の不可思議さが不可思議ゆえに、そこに偉大な力を感じ取っていたからであろう。
事実、ある宗教書には、人の強い祈りは宇宙に通じ空気を動かすと記されている。また精神世界でも、強い願いは宇宙に届き、叶えとなり戻ると言う。
ここにひとりの男が、宇宙に祈りを捧げた。彼の願いは宇宙を駆け巡り、偉大な力を得て、彼の許に届く。その時、私が生まれるはずだ。それが実現した時、私の存在は、この宇宙の証明となる。
川原 刺朗 】
「この本は…」
後藤は絶句した。
「なんともひとりよがりなあとがきでしょう?昨年、川原が自費出版したものなんです。そして、この本だけは、棒線に対する記述はありません。自著だから本イコール記述であり、まとめなのでしょう」
「しかも例の刺朗の名前でか」
「そうです。あとがきの内容からすると、ある男とは川原のことだと思います」
「だとすれば、川原は宇宙の偉大な力とやらを証明したいがために死んだのか?
それが目的なのか?」
「川原の書籍とノートから察すると、そうなりますね」
「だとしたら、刺朗はどこかに存在するのか?」
「かも知れません」
「半他殺の犯人か…」
この時後藤は、平井の姉の話を聞いた時に、自らも「時空」のことを語ったことを思い出していた。
あの時はあくまで事件は、三次元にあると言ったのだが、今は到底そうは思えなかった。
翌日、臨時の捜査会議が開かれた。
後藤と平井のノートと本の分析が済んだので、ふたりが花田刑事部長に開会を頼んだのだ。
会議では主に平井が、残りの本の解説と川原の記述への私見、そしてノート末尾の妻の話の解説を行なった。
また前日の会議で各刑事に依頼されていた、川原のノートの内容に対する意見の交換も行なわれた。
20年前と36年前の事件はいずれも時効になっているが、本件との関連性を鑑み、あわせて検討されることとなった。
まず、過去2件の事件については、大半の刑事が川原犯人説を唱えた。
本件については、未読だった本と川原の記述の内容、特に自費出版の写真集のあとがきの内容から、他殺を装った自殺だという意見が他殺説を圧倒した。
そして自殺の理由は、過去の事件への贖罪だという見方が大半だった。
また各担当の捜査からも、第三者が関わった物的証拠はもとより、状況証拠も出て来なかったことから、自殺説はほぼ決定的となった。
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