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会議に臨みながら後藤は、収拾のつかない思考を整理しようとしていた。
会議はいわば、後藤と平井の思考整理の場であった。
会議の後、ふたりはまたカフェに入り、一息ついて「未読」の本の分析を始めた。
実は平井は、全ての本を読み終わっていた。
敢えて未読の本としたのは、会議を端折りたかったからである。
会議の直前に平井が言っていた「次の本」を早く確認したかったために、会議を早く終わらせるよう、ふたりで仕組んだのだ。
「私が言っていた、次の本とは、これなんです」
机上に並べた「未読」の本の1冊を、平井は指差した。
【時空の姿】…
「これはさっき君が叱られる原因になった宇宙の写真集じゃないか」
後藤は本をめくりながら言った。
「そうです。写真ばかりの本なんです。文字といえば各写真のキャプションくらいですね。ですから棒線がどこにもないと思ったんです。でも」
と平井は言い、後藤の脇から本の最後の方をめくった。
「ほら、ここに」
平井が開いたページは、写真集の「あとがき」であった。その中に赤い線は引かれていた。
「しかし!」
と言って平井は
「ものには順番があるんです」
と言って、あとがき部分をパタンと閉じた。
後藤の手が本に挟まった。
「何をするんだ」
後藤が怒ると平井は
「こちらが先なんですよ」
と言って、後藤の手から写真集を離し、代わりに残り3冊の本を重ねて前に出した。
「これは気功と心理学にスピリチュアルだな?」
後藤が言うと平井は
「まずスピリチュアル、つまり精神世界のこの本【叶っている願い】には、人の思いが潜在意識化すれば、願いを引き寄せられる云々と書いてあるのですが、川原はそれらに棒線を引いていません。彼はこの本の中の【霊】と【引き寄せる】にだけ線を引いているんです。そして川原の記述は【私はこの2つの単語をじっと眺めることにする。そのことで、この本に記されている法則を体読するのだ】なんですね。つまり、川原は何かの霊を引き寄せる暗示を自分にかけているようなんです」
「ここでも霊か」
後藤はなんとなく川原の意図するものが見え始めたような気がした。
「次に心理エッセイの【思い込みが現実化する時】に至っては、本文ではなくこのタイトルに棒線が引いてあるんです。
そして川原の記述は【私は、その時の風景を今、思い浮かべている。彼が私から脱皮し、抜け殻の私を凍った眼で眺めている風景だ。それは、深夜を走る列車の中だ】と…」
「これは…」
「今回の事件ではないでしょうか?」
後藤の前に、川原の意図するものが急速に姿を現したようだった。
「で、次の気功…【流れの制御と支配】は?」
「こちらはその具体的な方法の模索のようで、棒線は【止血】【鎮痛】という単語と【まず、体内の自分を意識する。自分の身体の各所、頭頂、目、鼻、耳、口、肩、胸、背、右腕、左腕、臍、腰、腿、脛、足…と心の目を這わして行く。すると自分の姿が内側から見える。それを呼吸の吐く息で表に出す。自分は今、自分のすぐ隣にいる】という記述に引かれていました。ここまでで後藤さん、何か感じません?」
「単語の方だ!」
後藤は強く呟いた。
「私はこれが、凶器を隠したヒントなんじゃないかと思うんですが」
「間違いないだろう。今、自動人間というのを思い出した」
「自動人間?」
会議はいわば、後藤と平井の思考整理の場であった。
会議の後、ふたりはまたカフェに入り、一息ついて「未読」の本の分析を始めた。
実は平井は、全ての本を読み終わっていた。
敢えて未読の本としたのは、会議を端折りたかったからである。
会議の直前に平井が言っていた「次の本」を早く確認したかったために、会議を早く終わらせるよう、ふたりで仕組んだのだ。
「私が言っていた、次の本とは、これなんです」
机上に並べた「未読」の本の1冊を、平井は指差した。
【時空の姿】…
「これはさっき君が叱られる原因になった宇宙の写真集じゃないか」
後藤は本をめくりながら言った。
「そうです。写真ばかりの本なんです。文字といえば各写真のキャプションくらいですね。ですから棒線がどこにもないと思ったんです。でも」
と平井は言い、後藤の脇から本の最後の方をめくった。
「ほら、ここに」
平井が開いたページは、写真集の「あとがき」であった。その中に赤い線は引かれていた。
「しかし!」
と言って平井は
「ものには順番があるんです」
と言って、あとがき部分をパタンと閉じた。
後藤の手が本に挟まった。
「何をするんだ」
後藤が怒ると平井は
「こちらが先なんですよ」
と言って、後藤の手から写真集を離し、代わりに残り3冊の本を重ねて前に出した。
「これは気功と心理学にスピリチュアルだな?」
後藤が言うと平井は
「まずスピリチュアル、つまり精神世界のこの本【叶っている願い】には、人の思いが潜在意識化すれば、願いを引き寄せられる云々と書いてあるのですが、川原はそれらに棒線を引いていません。彼はこの本の中の【霊】と【引き寄せる】にだけ線を引いているんです。そして川原の記述は【私はこの2つの単語をじっと眺めることにする。そのことで、この本に記されている法則を体読するのだ】なんですね。つまり、川原は何かの霊を引き寄せる暗示を自分にかけているようなんです」
「ここでも霊か」
後藤はなんとなく川原の意図するものが見え始めたような気がした。
「次に心理エッセイの【思い込みが現実化する時】に至っては、本文ではなくこのタイトルに棒線が引いてあるんです。
そして川原の記述は【私は、その時の風景を今、思い浮かべている。彼が私から脱皮し、抜け殻の私を凍った眼で眺めている風景だ。それは、深夜を走る列車の中だ】と…」
「これは…」
「今回の事件ではないでしょうか?」
後藤の前に、川原の意図するものが急速に姿を現したようだった。
「で、次の気功…【流れの制御と支配】は?」
「こちらはその具体的な方法の模索のようで、棒線は【止血】【鎮痛】という単語と【まず、体内の自分を意識する。自分の身体の各所、頭頂、目、鼻、耳、口、肩、胸、背、右腕、左腕、臍、腰、腿、脛、足…と心の目を這わして行く。すると自分の姿が内側から見える。それを呼吸の吐く息で表に出す。自分は今、自分のすぐ隣にいる】という記述に引かれていました。ここまでで後藤さん、何か感じません?」
「単語の方だ!」
後藤は強く呟いた。
「私はこれが、凶器を隠したヒントなんじゃないかと思うんですが」
「間違いないだろう。今、自動人間というのを思い出した」
「自動人間?」
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