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可能性④
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後藤は会場に向かって
「ところで皆さんは今朝、何時に起きましたか?」
と呼びかけた。
するとやはり…
会場を埋めている者が一瞬だが「物」になったのだ。
あの時の平井のように壊れたロボットになり、口を開き、目を剥いていた。
それはすぐに解けて、刑事たちは
(何を藪から棒に聞く?…)
(少し寝坊したな…)
(6時かな?…)
(当直だから寝てないよ…)
(おまえはどうだった?…)
と口々に話し始めた。
それはまた違うざわめきを会場に生んだ。
(後藤刑事は何かを掴んでるな…)
(この質問に深い意味がある…)
(いや、おふざけだよ…)
(場を和ごました?…)
(そんなはずない。何かを試してるんだ…)
「後藤さーん、今の質問、なんか意味あるんですかー!」
ざわめきから飛び出した声に、後藤は応えた。
「意味はUSBに聞いてみましょう」
意味深な言葉を言いながら、後藤は
(やはり川原は、私と平井君にとどまらないマジックを仕掛けたな)
と確信していた。
改まって後藤は
「さて再び本題に戻ります。36年前の心中事件についてです」
と呼びかけ、会場を鎮めた。
「先に少しやり取りをしましたので、概要はお分かりかと思いますが、実はこの事件はこの事件にとどまらない状況を孕んでいました。それは今回の事件に於ける川原の死体の状況と、後に述べる川原の娘の事件での状況と共通していたのです」
「それは何かね?」
刑事部長が身を乗り出した。
「それは、飯粒です」
「飯粒?米粒か?」
「そうです。川原の口に詰まっていた弁当の飯粒です」
「で、共通というのは?」
今度は会場から声がした。
「まずこの心中事件ですが、亡くなった両親と弟妹の口には、今回の事件と同じく飯粒が押し込まれておりまた、20年前に起きた一人娘の事件、娘を失った事件の際の娘の口にも、離乳食ではありますが粥状のものが押し込まれていたのです。特に36年前の事件は、母親が家族を道連れに殺害したにもかかわらず、その母親の口にも飯粒が詰め込まれていました。そして唯一の生存者の川原…当時は川原少年ですが、少年だけが発見された際、飯粒を口にしていなかったのです。確かに母親が飯粒を頬張りながら殺人に及んだとも考えられますし、川原少年が飯粒を口にしていなかったのはたまたまだと片付けることも出来ます。事実、当時警察は、警察内部の事情や川原少年の将来を鑑み、この不自然で強引な理屈を採択したと考えられるのです。それは事件が刑事上解決し、時効になってなお、資料が所轄署に保存されていたことから、一部納得しない者がいた証拠ではないかと思うのです」
後藤は興奮して、一気に喋った。
「ところで皆さんは今朝、何時に起きましたか?」
と呼びかけた。
するとやはり…
会場を埋めている者が一瞬だが「物」になったのだ。
あの時の平井のように壊れたロボットになり、口を開き、目を剥いていた。
それはすぐに解けて、刑事たちは
(何を藪から棒に聞く?…)
(少し寝坊したな…)
(6時かな?…)
(当直だから寝てないよ…)
(おまえはどうだった?…)
と口々に話し始めた。
それはまた違うざわめきを会場に生んだ。
(後藤刑事は何かを掴んでるな…)
(この質問に深い意味がある…)
(いや、おふざけだよ…)
(場を和ごました?…)
(そんなはずない。何かを試してるんだ…)
「後藤さーん、今の質問、なんか意味あるんですかー!」
ざわめきから飛び出した声に、後藤は応えた。
「意味はUSBに聞いてみましょう」
意味深な言葉を言いながら、後藤は
(やはり川原は、私と平井君にとどまらないマジックを仕掛けたな)
と確信していた。
改まって後藤は
「さて再び本題に戻ります。36年前の心中事件についてです」
と呼びかけ、会場を鎮めた。
「先に少しやり取りをしましたので、概要はお分かりかと思いますが、実はこの事件はこの事件にとどまらない状況を孕んでいました。それは今回の事件に於ける川原の死体の状況と、後に述べる川原の娘の事件での状況と共通していたのです」
「それは何かね?」
刑事部長が身を乗り出した。
「それは、飯粒です」
「飯粒?米粒か?」
「そうです。川原の口に詰まっていた弁当の飯粒です」
「で、共通というのは?」
今度は会場から声がした。
「まずこの心中事件ですが、亡くなった両親と弟妹の口には、今回の事件と同じく飯粒が押し込まれておりまた、20年前に起きた一人娘の事件、娘を失った事件の際の娘の口にも、離乳食ではありますが粥状のものが押し込まれていたのです。特に36年前の事件は、母親が家族を道連れに殺害したにもかかわらず、その母親の口にも飯粒が詰め込まれていました。そして唯一の生存者の川原…当時は川原少年ですが、少年だけが発見された際、飯粒を口にしていなかったのです。確かに母親が飯粒を頬張りながら殺人に及んだとも考えられますし、川原少年が飯粒を口にしていなかったのはたまたまだと片付けることも出来ます。事実、当時警察は、警察内部の事情や川原少年の将来を鑑み、この不自然で強引な理屈を採択したと考えられるのです。それは事件が刑事上解決し、時効になってなお、資料が所轄署に保存されていたことから、一部納得しない者がいた証拠ではないかと思うのです」
後藤は興奮して、一気に喋った。
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