刺朗

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可能性③

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「これはノートの最初に書かれていた告白めいた記述にあったものです。まずこれが報告③の、川原を誰もが優しいと証言した点に照らし合わせると、これは川原の性癖、つまり愛する人を虐めることの、実は裏返しなのです」
一旦静かになっていた会場が、またざわついた。
「それはどういうことだ?」
会場から声がした。
声に対して後藤は
「先ほど、川原が叔父の養子になったと言いましたが、ここでの川原は優しい人間でした。「虫一匹殺せない平和主義者だった」と、川原は言っています。それは、叔父夫婦をはじめ、周りに愛する者がいないからだと取れる表現が、告白にはありました。それはつまり、今の川原を囲む環境には、愛するに足る者はいないと解釈出来ます。但し、ひとりの例外はいます」
「それは?」
今度は刑事部長が聞いた。
「妻の幸恵さんです」
後藤は応えた。
「ということは、幸恵さんは何かしらの虐めを受けているということか?」
部長が聞く。
「それがおそらく報告⑦の、奥さんの手弁当を食べなかったということではないかと思うのです。後ほど皆さんにノートのコピーをお渡ししますが、川原の性癖の所と、奥さんについての記述の所を読んでいただければ、私がそう思うことをご理解いただけると思います」
「では、噂になったという、奥さんとの不仲は無かったということか?」
「そうです。それどころか川原は、奥さんを大変愛していたと思います。ですから、報告③でお話しした、優しさの裏返しと同じ理屈になるのです」
「なんとも不可解な男だ」
部長は自分の頭が不可解になったような苦い顔をした。
後藤は改まって会場を見渡した。
「次にノートの新聞スクラップについてご報告します。ちなみにこのノートは重ねて言いますが、今回の事件現場で発見された1本の鍵によってもたらされたものです。この鍵は文字通り、この事件の鍵であったと思います。これと同じく、現在開きつつあるUSBメモリにも、何かしら大きな鍵があるように思えます」
後藤の言葉に刑事部長が反応した。
「USBだが、なんとか入口のロックは外れたようだ。ただ、中のフォルダが何重にも、まるでマトリョーシカのように開いても開いても出て来る上に、それぞれに難解なパスワードがあり、とにかく難儀しているらしい。それだけに今、後藤君が言ったように、中には事件の核心に触れるものがあるのではないかと私は思う」
後藤は、最近自分と平井に起こった奇妙な現象、つまり記憶障害のようなものの根源が、もしかしたらUSBの中にあるのでは?と、今の部長の言葉を聞いて直感した。
そして
(そうだ…)と思った。
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