刺朗

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可能性②

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(手、入るのか?…)
(舐め取るって…)
(大量出血なんだぞー、そんなこと出来るのかー?…)
(先に死んじまうぞ…)
(やっぱり他殺だ…)
(不可能だよ…)
(目撃者、ちゃんと調べたのか?…)
(まるでオカルトだ…)
(腿に手って入るか?ウソだろ…)
(何かトリックがあるぞ…)
部長の説明と各担当報告の短い間(ま)は、刑事たちの推理と疑問のざわめきで埋め尽くされた。
その後、各担当の報告がされたが、その中で目ぼしいものとして、以下の7点がホワイトボードに列記された。

①川原は2、3年前から、気功術を学んでいた。

②川原は時々、宗教団体の集会に行っていた。

③誰に聞いても川原は優しい人だという答えしかなかった。

④川原は過去について聞かれるのを嫌がる傾向があった。

⑤最近川原は、ボーナスで高価な天体望遠鏡を購入した。

⑥川原は20年ほど前に、精神カウンセリングを受けていた。

⑦些細なことだが、川原は毎日、奥さんの手弁当を持って来ているようだが、それを食べているところを見たことがないという、会社の同僚や部下の話が複数あった。川原は奥さんと不仲なのでは?と噂になったこともある。

後藤はボードを読み、そのいくつかがあのノートと関連しているのに気付いた。
後藤たちの報告の番になった。
ポードとノートの関連性について、後藤は自らの報告の頭に述べ、内容説明に入った。

「ということで、私と平井君の捜査の内容をお話しします。私と平井君は被害者の家族関係を調べておりますが、調べるうち、被害者川原ろくろの不可解な一面を見るに至りました」
後藤は、例のノートを掲げた。
「このノートは、被害者の衣服より出て来た鍵によって解錠した、被害者宅の机の引き出しにありました。他に、数冊の書籍も入っていました。それらは被害者の妻である、川原幸恵さんの承諾を得て、捜査資料としてお借りしました」
続けて後藤はノートの構成を説明した。
「ノートは【治癒ノート】治癒は病気が治る意味の治癒ですが、そんなタイトルが付いています。中身は4部構成になっていて、まず、川原が自分の性癖…性格というか、癖ですね、それについて述べています。次は36年前、川原が10歳の時に起こった一家心中事件の新聞記事の切り抜きのスクラップとなっているのですが、この事件で川原は両親と弟、妹を失っています」
会場がざわついた。
刑事のひとりが質問した。
「川原はどうだったんですか?その場にいたんですか?」
「えぇ、いました。彼も事件に巻き込まれ負傷しましたが、一命は取り留めています」
「他に生存者は?」
「いません」
「では川原は家族を失ったということですか?」
「そうです」
別の刑事の声がした。
「そうか、だから川原は過去を話したがらなかったんだ…」
その声に後藤は
「そうですね、冒頭に申し上げた、報告との関連性のひとつですね」
と応えた。
また別の刑事が
「川原はその後、どうなったんですか?」
と質問した。
「叔父夫婦に引き取られ、その養子になりました。叔父も同じ川原姓のため、氏名は変わっていません」
会場が静まったところで、後藤はノートの説明を続けた。
「スクラップに続いて、今度はノートと一緒に引き出しに仕舞われていた、数冊の書籍についての記述がありました。これについては調査途中となっています。そして最後に、妻である川原幸恵さんについての記述がありました。ノートの構成は以上です」
ここで後藤はノートを開き、それを見ながら、後ろのホワイトボードに次のように書いた。

①川原は愛する者を虐める性癖がある
→報告③④⑦に関連

②36年前の事件については、一応母親が家族を殺害したということで決着しているが、川原に犯行の疑惑がある点を残している。
→報告④に関連

③20年前、川原は一人娘を事件で失っている。この事件でも川原に犯行疑惑があったが、犯人不明のまま時効となった。
→報告⑥に関連

④川原宅から借用した書籍に宗教関係のものがあった。
→報告②に関連

⑤同じく借用した本で、未読のものに→報告①⑤に関連するものがあると思われる。

正面を向いた後藤は
「では①から順に説明して行きます」
と言った。
会場は再びざわめき始めていた。


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