11 / 55
探求⑤
しおりを挟む
「次は仏教関係書からの記述ですが…後藤さん、大丈夫ですか?」
平井の心配の声がする。
後藤は川原の記述を聞くにつれ、これらが川原だけの問題ではなく、自分いや、自分と平井、あるいはもっと大きな範囲までに関係しているように思えていた。
何かおかしい。まだ何がどうかは分からないが、自分の存在が希薄になって行くような、めまいのような感覚を、後藤は覚えていた。
「あぁ、大丈夫だ」
それを言うのが精一杯だった。
「少し、外の空気を吸いましょう」
平井が後藤に配慮して言った。
「そうだな…」
立ち上がった瞬間、本当にめまいがした。
平井と並んで、署の表通りを歩く。
ビル街の通りは結構な数の人が歩いている。
先ほど聞いた、川原の記述が蘇る。
雑踏を眺めながら
「なぁ、平井君、この中の何人かは、この世に存在しないんだろうか?」
と、しみじみと聞いた。
「川原の記述ですか?」
「あぁ、あれがやたら気になるんだ」
「じゃ、すれ違う人ひとりひとりにぶつかってみますか?」
平井は茶化して言ったつもりだったが、後藤はそれを指摘せず
「その霊体は硬いのかな?それとも透けているのかな?」
と、かえって真顔で聞いて来た。
なんか変だと平井が思った時、ふと後藤が
「ところで、君は夕べ、ご飯のおかわりをしたか?」
と妙な質問をして来た。
なんでそんなと思いつつも生真面目に答えようと
「夕食ですね?えっと…」
言った瞬間、平井の口が固まった。
「え?」
平井はそれしか言えない。
「あれ?」
「オ?」
平井はまるで壊れたロボットのように、口を開けたまま目を剥いた。
ほんの一瞬だった。その後、何もなかったように
「夕べはパン食でしたから」
と答えた。
「あぁ、そうか」
後藤は頷きながら
(やはり私だけじゃない)
と思った。
通りのカフェで軽く休憩し、2人は署に戻った。そしてノートの分析を再開した。
「仏教関係の本の棒線部分は…」
平井の声が仏教論を語り始める。
【神のような偉大なもののシンボルは人の外にあるものではなく、人の内に存在すると考えるのが仏教である】
【人の中には10の世界がある。それらには上下階級のようなものがあり、下からそれぞれ「地獄」「餓鬼」「畜生」「修羅」「人」「天」「声聞」「縁覚」「菩薩」「仏」の名が付いている。その下から4つは「四悪趣」と呼び、上から4つは「四聖」と呼び、また下から6つを「六道」と呼ぶ。加えて下から3つは「三悪」と呼ぶ】
【仏には絶大な力があり、実体は宇宙に存在し、人の中の「仏」と交信することで、その人に超現実的な徳をもたらす】
「この記述部分ですね。そして川原の記述は」
【私が仏になれば、真の仏を呼べるということか…そのメカニズムはいったい何なのだ?】
「この疑問一点です」
「要するに川原は何かを望み、何かを得たいということに思えるな…」
と言いながら後藤は、すでに川原は何かを得、少なくとも後藤はじめ平井にまでその何かを振りかけているのではないかと思っていた。
「で、川原はそのメカニズムを解明したのか?」
後藤は聞いた。
「それらしき記述が次の本の所にあるんです」
平井は答えた。
平井の心配の声がする。
後藤は川原の記述を聞くにつれ、これらが川原だけの問題ではなく、自分いや、自分と平井、あるいはもっと大きな範囲までに関係しているように思えていた。
何かおかしい。まだ何がどうかは分からないが、自分の存在が希薄になって行くような、めまいのような感覚を、後藤は覚えていた。
「あぁ、大丈夫だ」
それを言うのが精一杯だった。
「少し、外の空気を吸いましょう」
平井が後藤に配慮して言った。
「そうだな…」
立ち上がった瞬間、本当にめまいがした。
平井と並んで、署の表通りを歩く。
ビル街の通りは結構な数の人が歩いている。
先ほど聞いた、川原の記述が蘇る。
雑踏を眺めながら
「なぁ、平井君、この中の何人かは、この世に存在しないんだろうか?」
と、しみじみと聞いた。
「川原の記述ですか?」
「あぁ、あれがやたら気になるんだ」
「じゃ、すれ違う人ひとりひとりにぶつかってみますか?」
平井は茶化して言ったつもりだったが、後藤はそれを指摘せず
「その霊体は硬いのかな?それとも透けているのかな?」
と、かえって真顔で聞いて来た。
なんか変だと平井が思った時、ふと後藤が
「ところで、君は夕べ、ご飯のおかわりをしたか?」
と妙な質問をして来た。
なんでそんなと思いつつも生真面目に答えようと
「夕食ですね?えっと…」
言った瞬間、平井の口が固まった。
「え?」
平井はそれしか言えない。
「あれ?」
「オ?」
平井はまるで壊れたロボットのように、口を開けたまま目を剥いた。
ほんの一瞬だった。その後、何もなかったように
「夕べはパン食でしたから」
と答えた。
「あぁ、そうか」
後藤は頷きながら
(やはり私だけじゃない)
と思った。
通りのカフェで軽く休憩し、2人は署に戻った。そしてノートの分析を再開した。
「仏教関係の本の棒線部分は…」
平井の声が仏教論を語り始める。
【神のような偉大なもののシンボルは人の外にあるものではなく、人の内に存在すると考えるのが仏教である】
【人の中には10の世界がある。それらには上下階級のようなものがあり、下からそれぞれ「地獄」「餓鬼」「畜生」「修羅」「人」「天」「声聞」「縁覚」「菩薩」「仏」の名が付いている。その下から4つは「四悪趣」と呼び、上から4つは「四聖」と呼び、また下から6つを「六道」と呼ぶ。加えて下から3つは「三悪」と呼ぶ】
【仏には絶大な力があり、実体は宇宙に存在し、人の中の「仏」と交信することで、その人に超現実的な徳をもたらす】
「この記述部分ですね。そして川原の記述は」
【私が仏になれば、真の仏を呼べるということか…そのメカニズムはいったい何なのだ?】
「この疑問一点です」
「要するに川原は何かを望み、何かを得たいということに思えるな…」
と言いながら後藤は、すでに川原は何かを得、少なくとも後藤はじめ平井にまでその何かを振りかけているのではないかと思っていた。
「で、川原はそのメカニズムを解明したのか?」
後藤は聞いた。
「それらしき記述が次の本の所にあるんです」
平井は答えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~
七瀬京
ミステリー
秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。
依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。
依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。
橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。
そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。
秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる