終末を執行します

キクイチ

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人形使い

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 ルディーが新しいラジコンのシャーシを組み立てる作業に没頭していると、エレノアがやってきた。

「局長、逃亡中の交渉人ネゴシエーターの射殺に成功いたしました」

「やっと? 彼、どうやって今まで逃げ延びていたの?」

「それが足取りがまるでつかめません。射殺したのも外国で、どうやって渡航したのかすら不明です」

「それ、本当に本人?」

「と言いますと?」

「あれだけの包囲網を突破した時点で、神がかってると思わない?
 検視結果はどうなってる?」

「本人で間違い無いそうです」

「偽装だったら嫌だね。例の情報屋に彼の詳細情報提供して再調査してもらってくれる?
 それと、彼の調査報告、まとめて、ジブリールさんの方にも送っておいて。ネフィリムが絡んでいる可能性もあるからね」

「かしこまりました」


……

 数日後、ルディーが新しいラジコンのシャーシのシェイクダウンに熱中していると、エレノアがやってきた。

 「局長、情報屋から入手したのですが、人形使いパペッティア が動き出しているとか……」

人形使いパペッティア?」

「はい。情報屋の話では、上流階級で不穏な動きが見られるとのことです。
 上流階級に操り人形パペットを量産しているのではないかと」

「交友関係の変化、カメラの映像解析、資金の流れはどうなってる?」

「表立っての変化は確認できませんでした。既存の交友関係を巧みに利用しているものと思われます」

「ジブリールさんはなんて言ってる?」

「キルケーが生き延びていれば、可能性があるそうです。
 生き延びた交渉人ネゴシエーターの足取りを追うしかないだろうと」

「あの魔女か。人間になっても魔法はつかえるの?」

「はい。弱体化しているのは確実らしいですが、ある程度は使えるそうです。特に交渉人ネゴシエーターの件は、逃亡方法が不自然すぎたので、ジブリールさんも気にされていたようです。刻印者エクスシアを使って、独自に彼の死体の検証もされたそうですが、本人で間違い無いとのことでした。すでに別の器に移動しているだろうとの見解です」

「ネフィリムと合流しないのはどうしてか聞いてる?」

「ネフィリムは、人間を同等の生命体と認めないそうです」

「すごい格差社会だね。キルケーは幹部なんでしょ?」

「すでに死亡したのと同義とのことです。
 そういうところは、かなりドライなようですね」

「で、人形使いパペッティア人形パペットを見つける方法はあるのかな?」

人形使いパペッティアは難しいらしいですが、人形パペットは、限りなく死人に近い状態らしいので検査をすれば比較的容易に判別できるようです」

「何人か見つけられた?」

「それが、当たりをつけてもらった対象がとても厄介な相手でして、ラプトルの権限が届かないのです。リストはこちらです」

「……よく考えてるね。パトロンの近親者ばかりじゃないか。
 ジブリールさんに報告しておいて、向こうで調査してくれるかもしれない」

「かしこまりました」


 ……

 
 リサはリカルドの命令で、たくさんの令嬢と関係を結んだ。

 リサと関係を結んだご令嬢は人形と化し、さらに人形を増やしていった。

 リサのターゲットは、なぜか女性ばかりだった。
 しかも、リサが抱かれる側だった。

 半年ほど経つと、なぜかリサのお腹が膨らみ出し、彼女の屋敷で引きこもり生活を強要された。
 お腹の子を出産するまでは、屋敷から一歩も出られず、健康維持以外の活動を一切させてもらえなかった。
 その頃になるとリカルドは姿を見せなくなり、頭に直接届く命令のみ聞こえていた。

 さらに数ヶ月が経ち、臨月を迎えたリサは、医師も呼ばせてもらえず、パペットが2人つき、女の子を出産した。
 それからは、2人のパペットとともに、子育てに奔走した。

 驚くべきことに、その女の子は、3ヶ月ほどで成人になった。

 そして、リサは、その姿を見て納得した。

 その女の子は、キルケーだったのだ。

 キルケーはリカルドの中で生き延び、リサという女の中で再生したのだ。
 
 キルケーはリサを抱き寄せ、キスをすると、リサの体に大量の魔力を注ぎこんだ。

 キルケーが言う。
「リサ、私の意志は理解しているわね?
 パペッティアとして、主人である私の期待に応えてちょうだい。
 失望させないでね」

「……かしこまりました」

「いい子ね、リサ。特別に、今晩だけ可愛がってあげましょう」

 もはや、キルケーの人形となったリサには、キルケーの意志だけが全てになっていた。


 ……


 ジブリールの調査によると、最上流階級の人間のほとんどは、既にキルケーの操り人形パペットと化しているらしい。

 世界経済の大半を掌握する富裕層の上位階層が一丸となれば、世界情勢は一気に悪化することになる。

 キルケーの魔の手は富裕層の中位階層まで侵食し始めており、すでに手遅れ状態だそうだ。


 キルケーが人間社会に報復を開始するXデーは、目前に迫っているようだ。

「局長、今月の収支報告です」

「ありがとう。
 アヤトくん関連の版権収益が相変わらず好調だね。
 クロトくんが提供してくれる顔バレの日常生活の映像素材がとてつもなくありがたいよ」

「はい。いまや、男性だけでなく、少女達の憧れの存在にまでなっています。
 母親層の大人の女性達からも支持されているので、今後もかなりの経済効果が期待できるでしょう。
 来週発売予定の写真集も予約が殺到している状況です。
 各国からの資金援助も20%ほど増加しました」

「それはすごいね。
 でも、漆黒の獣ルガルの討伐報告するより収益率が高いって複雑な気分だけどね。版権侵害の状況は?」

諜報部隊ストリクスの8割を版権侵害の摘発に割り当てています。
 ご指示通り、出来の良い物は検閲をおこなってから、販売許可を出しております。
 そちらの収益も好調です」

「今後の収益も期待できそうで何よりだね。
 ラプトルの資産配分の見直しはどうなってる?」

「順調です。大変動が予想される通貨、株、不動産関連資産は来月中には目標値に到達します」

「各国上層部はどうしてる?」

「個人資産については、すでに待避済みのようです。軌道エレベーターの優先利用権、宇宙コロニーでの永住権、居住区画の購入なども完了しているそうです」

「個人だけ? 国家は?」

「通貨価値の急激な変動につながるような自殺行為は避けたいとのことで、名目上は現状維持だそうです」

「自殺行為も何も、そのうち何もかも紙切れになっちゃうじゃないか。
 国が滅びるのを放置するだけでしょ?」

「局長も、彼らと大差ないと思われますが?」

「あははは、たしかにその通りだね。
 でも、それが俺の仕事なのだから勘弁してよ。
 ところで、貴金属やレアアースの強奪状況は?」

「兵器の調達部隊に、フル稼働で対応させております。
 既存の密輸ルートを利用して、すべて宇宙そらへ輸送中です。
 各先進国も有事対策という名目で、ラプトルの資産管理部門へ自国の貴金属等を内密に移送中です。
 予想される総資産額はこのようになっております」

「いいかんじだね。いずれはそれも全てラプトルの資産になるからね。
 各国の上層部に宇宙コロニーへの脱出経路を用意してあげて正解だったようだ」

「既に観光旅行の名目で、上層部の家族や親族の移住が始まっているそうです」

「軌道エレベータの主導権の移行状況は?」

「80%がラプトルの管理下に収まりました。残り20%も今月中には完了します」

「キルケーのおかげで、かなりの資産がラプトルに集まるね。Xデーが待ち遠しいよ。ところで、『ナイトホーク部隊』の準備状況は?」

「いつでも動けます」

「それはすばらしい。こちらの希望としては来月末だけど、パペッティアの動き次第ではもっと早まるかもね。情報屋はどうしてる?」

「宇宙コロニーへ移住には興味がないそうです。
 独自の防衛策があるのかもしれません」

「そうか、せっかく正体がわかるとおもったのに残念だ。
 営業は続けてくれるの?」

「はい、これまで通りだそうです」

「それはすごい。
 ジブリールさんからの情報提供は?」

「確定したパペットの最新名簿をご提供いただきました。こちらです」

「あらら、もう中級の富裕層も制圧されちゃてる。
 しかし、放置されるかと思ったら、やけに協力的だよね?」

「稀に見る世界の大改編期ですから、すでに上で話がついているのかもしれませんね」

「やりやすくて助かるね」

「そうですね、できれば、これを機にアヤトくんとお近づきになれると嬉しいのですが……」

「ダメ元で聞いてみた?」

「はい。ですが、回答すら頂けませんでした」

「相変わらず、きびしいなぁ」
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