終末を執行します

キクイチ

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俺の心が痛い

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 ノナは、異界にある活動拠点で、頭を抱えていた。

<俺の黒歴史が、復元されていた……。

 なんで私物を放置してたの?
 処分してくれてたのかとおもったのに……。

 もう別人だけど、俺の心が痛い。
 実名・写真入りで公開処刑とか、勘弁してほしい。
 羞恥心がまるでないクロトは「いまはボクの過去なのだから気にしないでいいよ」といってるが、すでに俺たちが入れ替わっていることも知られているようなので、それもバラされる。

 女の子の体になって露出の高い服を着て、人類を敵に回している状況を、世界的に公開されるのだ。

 そんなことになったら、マスコミに変態扱いされて連日話題にされちゃう
 俺には恥ずかしくて耐えられない……>
 

 ノナは、上司の使徒、ジブリールに相談することにした。
 
 ジブリールは答える。
「報告は受けてる。知られてもこちらに実害はないけれど、各地のカメラの映像解析が進んでいるみたいだから、他の刻印者エクスシアの身元も割り出されるかもしれないわね……」

「でしょ? どうにかならないの?」

「ノナは恥ずかしがり屋すぎるのよ。まぁ、それが可愛いのだけれど。
 でも、集中力が削がれて命の危険に関わる場合もあるかもしれないわね」

「うん。俺、かなり追い詰められてる」

「でも、他の子も心配ね……」

「他の子も同じことされてるの?」

「なぜか、ノナだけが狙われてる」

「なんで、俺だけ?
 皆んなも仮面舞踏会マスカレード前に外出したのでしょ?」

「おそらく、身元の割り出しは進んでると思うけど、ラプトルはノナにこだわってるみたいね。局長のルディーという男に話を聞いて見ましょうか」

 ジブリールは端末で何かを調べ始めた。

「ノナ、お茶5人分、お茶菓子2人分、すぐに用意してくれる?
 あと、クロトと一緒にきて」

「うん、わかった」

 ノナは急いで拠点にもどった。


 ……


 ノナは、お茶とお茶菓子の準備をして、クロトと一緒にジブリールの執務室に向かった。

 ジブリールの執務室に入ると、円卓に、いかにも高価そうなスーツで身を包んだ、見知らぬ青年と若い女性が、不安そうな表情で並んで座っていた。

 二人は、ノナの姿を見ると急に明るい表情にかわった……。

 ジブリールが言う。
「クロトは、そこ、ノナはお茶を出したら、そこに座って」

 クロトは男性の隣、ノナは女性の隣の席を指定された、ノナとクロトの間に空席があったので、ジブリールが座るのだろう。

 ノナは、指示通り、お客さんにお茶とお茶菓子を振る舞った。

 ノナが言う。
「どうぞ」

 男性にお茶を出したら話しかけられた。
「ありがとう。アヤトくん」

<昔の名前で呼ぶな!
 今の体で呼ばれると恥ずかしくて仕方がない……。
 こいつの声、聞き覚えがある。ルディーってやつだ。
 俺を脅迫した張本人だ>

 ノナはルディーを睨みつけてやったが、なぜか喜ばれた。

 ルディーは続ける。
「照れ屋さんだね、顔が真っ赤だよ。ほんとうに可愛いね。普段着もすてきだ」

 ノナは無視して、隣の女性にお茶を出した。
「どうぞ」

「ありがとう。これもしかして、あなたの手作り?」

「はい」

「上手ね、美味しそう。こういうの作るの好きなの?」

「嫌いではないです。今の仕事の一部ですから」

 ノナは事務的に返事を返しておいた。
 ノナは、残りのお茶を置くと、指定された席に腰掛けた。
 二人の客人からは、ずっと熱い眼差しを向けられている。

 ノナは思った。
<こっち見んな!>
 ノナが睨みつけたら、なぜか二人は笑顔になった。

 ジブリールが仕事机から、円卓へ移った。

「では、始めましょうか。自己紹介をよろしく」

「初めまして。私はラプトルで執行局長を務めている、ルディーと申します。
 彼女は秘書のエレノア。
 この度はお招きに預かり誠に光栄です。
 まさか、審判者アンサラーの使徒さまからお呼び出しをいただけるとは思っても見ませんでした」

「私は審判者アンサラーから、仮面舞踏会マスカレードの統括を任されているジブリール。
 この子はクロト、この子はノナよ。
 あなた達がノナにこだわっているみたいだから、同席させたの。
 こちらの要求は、仮面舞踏会マスカレードの邪魔をする行為一切の全面禁止よ。
 特に烙印者ネフィリムが協力して開発した刻印者エクスシアの観測装置を即時撤廃してくれるかしら?
 それができなければ、ラプトル関係者および関係国の上層部を刻印者エクスシアの敵として粛清対象にするわ。
 今日、無事にお家に帰れるかはあなたたち次第ね」

「あはははは……それは、困りましたね。
 こちらとしてはまるで情報がない中で試行錯誤するしかありませんので、現状は、ネフィリムの協力がとても助かっているのです。
 刻印者エクスシアサイドとは交渉する方法がなかったので、ノナさんの過去を利用させていただいた次第です」

「そちらの目的は?」

「ノナさんに、ラプトルの名前を背負って活動していただきたいのです」

「私たちが、烙印者ネフィリムと敵対しているのはご存知かしら?」

「はい、存じております」

「では、なぜノナを?」

「観測装置で戦闘映像を収集して取りまとめたところ、各方面からの評判が良く、できれば、『ノナさんをラプトルの広告塔として利用させていただけないだろうか?』ということになったのです。
 ネフィリムの協力にも感謝しておりますが、少々華がないのと、かなりの劣勢なようなので、我々としてはノナさんに協力いただける方が、世論の支持を獲得しやすいと判断しております」

「ネフィリムから、私たちのことを何て聞かされているの?」

「世界を滅ぼそうとしている共通の敵である、と聞かされております」

「それでも、ネフィリムと手を切れるの?」

刻印者エクスシアサイドの言い分は伺っておりませんので、正確な判断はまだできないと考えております。
 それに、私は〝終末の執行〟を任されている立場なので、使徒側に協力するのは自然ではないかと考えています、目的は同じはずですよね?」

「それは違うわね。私たちは救済活動を行なっているの。
 終末の執行は、あなた達の上司、ウリエルの担当」

「救済の対象者とは具体的にどのような人間なのでしょうか?」

漆黒の獣ルガルのみ」

「人類の何%が該当しますか?」

「すでに3%を切っているわ」

「確かにそれですと、ほとんどの人類にとって敵とみなされるでしょうね?」

「最初の審判で、ほとんどの人類は救済されているのよ。いまはその後片付けをしているところなの」

「罪人には救済はありえないのでしょうか?」

「罪を浄化すれば死後の苦悩からは解放されるわ」

「全人類を浄化することは可能ですか?」

「不可能。浄化するチャンスもほんの一握りにしか与えられないわ。ノドにいる人類は、すでに見放された生命体なのよ」

「なるほど。審判者アンサラーの使徒は、やはりあなた方なのですね。罪深い人類はすでに終焉を待つしかないということですか……」

「そういうこと。どうする? ここで人生を終える?」

「まさか、人類に残された時間は十分すぎますよ」

「確かに、人類の時間軸で見たら、かなりの猶予があるのかもね」

「ネフィリムから乗り換えたら、協力していただけますか?」

「いいの? あなたも含めた各国の上層部が殺される可能性が高いわよ?」

「問題ありません。暗殺を理由にラプトルの収益をあげるチャンスですから。
 上層部の椅子を狙っている人間はたくさおりますので、むしろ喜ばれるでしょうね。
 ただ……、私自身が殺されるのは個人的に困りますね、対策法方法をアドバイスいただけると助かります」

「そちらと接触してるネフィリムの名前わかる?
 その内容によっては対処法が変わるわ」

「……重要な取引材料のような気がしますが?」

「ラプトルの執行局長を誰かに譲りたいならご自由にどうぞ」

「それは困ります。
 ネフィリム側の窓口は、主にキルケーという女性です。
 護衛1名はムネーメーで固定ですが、他の2名での組み合わせはランダムのようです。アレークトー、ティーシポネー、メガイラ、エンプーサ、モルモー、パイアという名前までは確認できています。
 そのほかにも数名いるようですが、護衛同士で名前を呼び合っていたときの情報ですので全員の名前まではわかりません」

「あなたが直接接触しているのはだれ?」

「危険なので私の存在は秘匿させています。交渉人ネゴシエーターを立てて対応させてます」

「あなたは、その交渉人ネゴシエーターと接点があるの?」

「それも危険そうなので、さらに特務部隊ホークアイに専任者を立ててから、エレノアに対応されています」

「上出来じゃない。所在も秘匿してれば安全ね」

「よかった、やはりそうでしたか。
 ラプトル本社の各セクションは分散されておりますので、私の所在は、エレノアしか把握しておりません。
 エレノアにも数名の仲介者を立てさせておりますので、彼女が何者なのかを知る者はほとんどいないでしょう」

「各国上層部には顔バレしているのでしょ?」

「いいえ、全て仲介を通しています。外部との接触はすべて断っています」

「引きこもり生活でもしているの?」

「その通りです。各国の上層部も、我々にとっては敵のようなものですから。
 迂闊に所在なんて明かせません」

 ジブリールは少し考えながら言う。
「……ムネーメーは、記憶に関する能力者。
 改ざんや消去まではできないけれど、数m程度まで近づけば、記憶をよみとることができる。
 他の護衛は戦闘向きね。とはいっても、一番危険なのはキルケー本人。
 強力な魔術を行使できるわ。超万能型ね。
 キルケーと交渉人ネゴシエーター接触場所は、ラプトルで指定できる?」

「はい、我々は危険視されていないようです。
 まさか、暗殺でも企ててるのですか?」

「手引きしてくれるかしら?」

「そんなことしたら、完全にネフィリムと決裂しますが?」

「一人でも消せればこちらは大収穫。
 最近、エンプーサとモルモーは姿を現してる?」

「いえ、ローテーションから外されたようですね。
 一切、見かけなくなったそうです」

 ジブリールは、少し考え込む。

「……では、こうしましょう。
 ネフィリムをおびき寄せる手引きをしてくれたら、次の交渉の席を用意するわ。
 装置の撤去はまだしないでね。設備の拡充予定はあるのかしら?
 できれば、そこに罠を仕掛けたいわ」

「アヤトくん……ではなかった、ノナさんの件を確約いただけるなら喜んで」

「ノナの情報は漏らしたくないの」

「では、他の刻印者エクスシアならば可能ですか?」
 
「そうねー……。他の子はもっとダメ」

「ならば、アヤトくん……ではなかった、ノナさんでご検討いただけませんか?」

「こちらが検閲した映像素材なら提供してあげてもいいわよ。
 ただし、こちらに実害が出た場合は、ラプトル関係者を一人残らず粛清するけれど?」

「人類に対して、ラプトルの功績をアピールするだけです。資金調達の効率さえ上がれば問題ございません」

「覚悟ができているなら様子見してあげましょう。
 過度な行為は命取りになわよ?」

「はい! おまかせください。ありがとうございます」
 ルディーは大喜びした。

「こちらからの情報や指示はあなたのところに直接転送する。
 この端末を持って行きなさい。
 これでこちらと連絡できるようになるわ。
 これからの窓口は、クロトが担当するから彼の機嫌を損ねないように注意することね」

「はい! かしこまりました。精一杯ご協力いたします」

 エレノアが、心配そうに口を開いた。
「できれば、こちらが公開する情報を事前に検閲していただけると安心できるのですが……」

「いいわよ。それもクロトに送っておいて。
 検閲は他のものにやらせるけど、窓口は一人にしておきましょう。
 いいわね、クロト?」

 クロトが答える。
「うん。で、ノナのどんな情報を提供すればいいの?」

「見られちゃまずいもの以外なら、提供していいわ」

「わかった。魅力的なやつだけ見繕ってだしておく」

 エレノアが言う。
「あの、できれば、漆黒の獣ルガルを退治している時の映像をご提供いただけると助かります、前後の情報は必要ありませんので」

 ジブリールが返す。
「いいわ、提供してあげて」

 クロトが答える。
「了解」

 ジブリールが返す。
「では、ネフィリムの暗殺計画について、詳細を調整しましょうか。ノナ、お茶のお代わり、よろしく」

 ノナが答える。
「はい……」

 ノナは思う。
<俺、どうなっちゃうの?>
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