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ボッチ感まるだしだ
しおりを挟むクロトとノナは管制室にいた。
「ノナ、準備はいいかい? 連続テレポートしてから、帰還させる。他の刻印者の動きをみたいからね」
「いつでもどうぞ」
同じ場所に1秒以上留まらず、長距離のテレポートを繰り返した。
モニターを確認する限り、他の刻印者に動きは見られないようだ。
3日ほどかけて、毎日数十回ほど、同様のテストを継続したが、他の刻印者が、本拠地から出ることはなかった。
追従してくる烙印者もいない。
クロトは、同じ場所の滞在時間を少しずつ延ばしていった。
滞在時間が、1分をすぎたあたりから、烙印者を見かけるようになった。
ただし、長距離テレポートに追従して来るものは一人もいないようだ。
クロトは、滞在時間を40秒程度に戻し、数日ほどかけて、烙印者の出方を観察した。
いつの間にか烙印者のメンバー構成が変わっていた。
全員が盾をもち、人数も4名から8名に増えていたのだ。
どうやら、7thの動きを完全に封じて、仕留める気のようだ。
他の刻印者の動きはまだなかった。
7thの一番の狙いは刻印者だ。
ノナは、刻印者が出て来た瞬間に殺す準備をしている。
<クロト、刻印者は引きこもったままだね>
<うん。完全に様子見を決め込んでるね、烙印者と交戦しよう、刻印者が出て来るかも知れない。敵の射程を意識して、細心の注意を払ってね>
<了解>
投擲と位置交換の技能は、テレポートが妨害された領域内での命綱だ。
刀身のみを切り離して投げつけることができる。
刀身の存在を消滅させると、刀身が手元に再装填される。
位置交換の技能は、投擲した刀身と、自分自身の位置を入れ変えることができる。
常に安全区域に刀身を存在させれば、多少のテレポート妨害の対策が可能になる。
そうやって相手を牽制しながら、ノナは、極限まで細くしたCAOS結晶で作られたワイヤーを周辺に張り巡らせた。
ワイヤーに敵が触れると、真名を引き出せる。
微小なルーン文字の刻まれた視認できないほど極細のワイヤーは、ノナの触覚の延長になるのだ。
真名さえ収集してしまえば、後の仕事もやりやすい。
ワイヤーの張力は一番緩くしてあるので、相手は存在を知覚することはできない。
しかも、ワイヤーはいつでも存在を消滅できるので、証拠も残らない。
一つ間違えば、確実に死ぬだろうが、今の7thには、これしか手段がない。
しかし、刻印者を引っ張り出して始末できれば、格段に動きやすくなる。
また、迂闊に出て来ると殺されることを知れば、他の刻印者への牽制にもなる。
今は、タイトロープを渡りながら、刻印者をおびき出し確実に殺すしか仮面舞踏会で勝ち残る方法はないのだ。
<いい感じだ、ノナ>
ノナの戦法が大きく変わったため、烙印者たちは、かなり混乱しているのがよくわかった。
<先に真名を確保できたよ>
<了解、略称をよろしく。調べてみる>
クロトは、真名の略称をもとに、烙印者に堕ちた者のリストから、彼女達の能力を調査した。
どうやら、彼女達の能力は麻痺ではなく、秩序や支配、権威といった能力者らしい。
周囲を自分のルールで固めて、領域に入った者の自由を奪うといった感じのようだ。
しかし、この手の能力は、暗殺に特化したノナには、あまり通じない。
武器がそういう領域でも問題なく使用できるように作られているからだ。
彼女達には、ノナの武器に関する詳細情報は伝わっていないようだった。
<大丈夫、彼女達に複雑なことはできないよ。相手のテリトリーに入らないように気を助ければいい>
ノナは、クロトが細かく送ってくれるデータをもとに、自分の体が、秩序のフィールドに捕まらないように、細心の注意を払って、投擲と位置交換駆使して罠を張り巡らせていった。
烙印者たちが、次にこのワイヤーに触れたら、奴らの真名は勝手に両断されるだろう。
<準備OK>
<ノナ、やっちゃって!>
ノナが、ワイヤーの張力を最大まで引き上げると。
8名いた烙印者は、一瞬にして、闇に包まれて消えてしまった。
<全員、闇に飲まれちゃったよ。だれも浄化されてないってことだよね?>
<精鋭でもそんな扱いってことだね。洗脳されて奴隷にでもなっていたのかもしれないね>
少なくとも、消えた烙印者は、奴隷の類だということがよくわかった。精鋭がこの扱いなら、新入りの下っ端など話にならないだろう。
ノナは、全ての罠を全壊させると、闇に飲まれずに残った敵の機材を回収し、帰還した。
クロトに回収した機材を任せると、刻印者や、烙印者がいつ現れても殺せるよう、細心の注意を払いながら、漆黒の獣の解放を再開した。
<ノナ、遅れを取り戻そう>
<わかった>
……
ラプトル本社。
ルディーは、オンロードコースで、ラジコンのタイムアタックに熱中していた。
エレノアがやってきて言う。
「局長、今週に入ってから、刻印者と烙印者の交戦が急増しているようです」
「ほぉ。ついに全面戦争?」
「かなり小規模ですが、本格的に交戦状態にはいったようですね」
「シルバーヘアの褐色グラマーちゃんは?
7thっていったけ?
アトロポスちゃんだったよね?」
「これまで通り、漆黒の獣の解放を中心に活動して、刻印者を優先的に狙っています。烙印者とも積極的に交戦しているようです」
「その子だけ、相変わらず誰の味方なのかわからないね」
「全て敵と認識しているのかと」
「ボッチ感まるだしだ」
「それから、刻印者の半数以上はすでに活動報告がありません」
「開始から半年程度で、もう半分に減ったの? 今回の仮面舞踏会は、ほんと飽きないね。
しかし、顔は隠されてるけど、アトロポスちゃん可愛いな。
何か情報あったりしない?」
「カメラの映像解析によると、一年半ほど前に、7thと思われる女性が、とある温泉街で目撃されているようです。宿泊した温泉宿や立ち寄ったお店などに設定されている精密防犯カメラ映像が、こちらです」
「おー!! 想像以上の美人さんだね。これ、まちがいなく本人だ。仕草とか完璧に一致してる、身元は?」
「それが全くわからないのです。同伴していた男性の身元は判明したのですが、一年半以上前に失踪してから、行方が分かっておりません」
「人間のフリをして彼氏とデートってところか、彼氏が失踪したのってこの後?」
「いえ、これより一ヶ月ほど前です」
「じゃ、失踪後の映像? テレポートが使えるから、足取りは追えないか……。
彼氏くん羨ましいね。どんな男の子?」
「過去の資料がこちらです」
「あらら、平凡というか、かなり底辺だね。施設上がりの子か。戸籍変わってるはずだね」
「はい、戸籍変更前の資料がこちらです」
「アヤトくんていうのか。
両親が、不浄の獣と漆黒の獣になってるの?
不憫だね」
「人付き合いも苦手なようで、かなり残念な少年だったそうです」
「でも、温泉街の映像見るとかなりのイケメンだよね?
本当に本人? 別人にしか思えないけど?」
「指紋は一致しております」
「残念だったころの映像とか残ってる?」
「はい、こちらです」
エレノアが端末をルディーに見せる。
「失踪後の温泉街の彼氏とはまるで別人だね。
昔の仕草がのこってないね……って、あれ?」
「どうされました?」
「これ見てよ、アトロポスちゃんの仕草。昔のアヤトくんとそっくり」
「……たしかに。どういうことでしょう?
まるで、体が入れ替わっているみたいですよね」
「うーん、刻印者のやることだし、ありうるかもしれないね。
アヤトくんか……、揺さぶりかけてみようか?」
「といいますと?」
「各地に、強力な指向性のあるスピーカ&マイクを大量に設置して、アトロポスちゃんが出現したら語りかけてみよう。
元アヤトくんだってことを前提にして。
彼の失踪前の私物とかのこってる?」
「はい。失踪直前と思われる日付で、データ類を綺麗に証拠した痕跡があったので復元しておきました」
「なにが復元された?」
「男の子の宝物といいますか、その手のデータのようです」
「あはは。それ、誰にも見られたくなかったのだろうね、そうか、物理破壊する時間まではなかったのか。
そのデータ、転送してくれる?
揺さぶりにつかって反応があったら本人確定だね」
「ただのデータですよ?
それに、もう別人になっていますし」
「映像を見た感じ、かなりの恥ずかしがり屋みたいだから、試して見る価値はあるよ」
「そういうものでしょうか?」
「とりあえず、準備して。僕が対話して見る」
「かしこまりました」
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