終末を執行します

キクイチ

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次はサクッと殺すから安心していいよ

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 ラプトルは烙印者ネフィリムとの接触に成功した。
 ラプトル側の交渉人ネゴシエーターは、リカルドという名の諜報部隊ストリクスの元隊員だ。
 烙印者ネフィリム側は、キルケーというの名の〝魔女〟だった。

 ラプトルは世界各地に、烙印者ネフィリムのアジトを提供した。
 その返礼として、烙印者ネフィリムには漆黒の獣ルガル 対策を担ってもらうことで合意した。


 ……


 管制室のクロトがため息交じりに呟いた。
<まるで、他の刻印者エクスシアを守るような行動だね……>

 数日前から、烙印者ネフィリムが、仮面舞踏会マスカレードに介入している。

 烙印者ネフィリムは、7thセブンスの手の内を知っているようで、遠・中距離系の能力を持った相手が数人でチームを組んで執拗にノナだけを付け回して来る。

 しかも、他の刻印者エクスシアには護衛のように付きまとい、近づこうとするとノナを牽制しているという徹底ぶりだ。


<やばい! 撤収しよう>

 クロトがそういった途端、ノナは管制室に転送された。

 クロトは、烙印者ネフィリム達の行動データを分析していたようだ。

「どうしたの? 何かわかった?」

「行動データを分析してみたら、烙印者ネフィリム側に、千里眼みたいな能力をもった子がいる感じだね」

「それ、どの範囲まで有効なのかな?」

「全周囲探索の場合は、かなり狭い範囲のはず」

「でも、奴ら遠くに転移してもついてくるよ?」

「それは情報流出か、指向性を持たせた長距離探索だろうね。その時だけ、遅延時間レイテンシーが長い」

「俺たち以外、皆んなグルってこと?」

「殺しに特化したノナを始末するまで、烙印者ネフィリムと協定でも結んだのかも。双方にとってメリットしかないからね」

「だいたい、あいつらは、どうやって転移してるの?」

「同じ転移装置だと思う。人格が入れ替わっても、昔の記憶は引き出せるから、高度な技術知識をもった烙印者ネフィリムがいるのだろうね」

「なるほどね。でも、千里眼はどこにいるのかな?」

「多分、それほど離れてないと思うよ。場所の割り出し方法をいろいろと試してみたんだ」

「見つけられそう?」

「うん。うまく位置を変えて隠しているようだけど、揺さぶりをかければ簡単に割り出せる」

「じゃ、そいつを狙う?」

「揺さぶりをかけるだけで手は出さない。その子の護衛、かなりの手練れのはずだからね。そこに一番相性が悪い相手がいる可能性が高い」

「弱点と思わせて、罠を張ってるのか。たしかにその可能性が高そうだね」

「あとね、それ以上に心配なことがあるんだ」

「なに?」

「空間転移できない時があったから調べてみたら、烙印者ネフィリムの何人かが、空間転移を妨害できるみたいなんだよ」

「えええ? そんな能力まであるの?」

「いあ、多分そういう装置を持っているのだと思う。同時に別の能力を使っていたからね。空間転移を妨害していたのは、皆んな重装備で盾を持ってる子だった。妨害範囲は中距離って感じ。離脱を阻止したり、近くに転移できなくしたり、いろいろと調節できるみたい。でも、自分たちが転移するときは完全に無効化する必要がある感じだね」

「盾持ち? あー! 近づくと麻痺パラライズみたいな、動きを止める系の状態異常の能力を使ってくるやつらか。あれ全周囲バリアみたいな感じで常時でてるよね?」

「うん、千里眼は、おそらくその手の子が、複数で守ってるとおもう」

「どうしよう?」

「かなり危険だったね。その連中に集団で空間転移で近づかれたら、いつ殺されていてもおかしくなかった」

「それで、撤収したのか」

「うん、早めに気づけてよかった。烙印者ネフィリムが、その気だったら介入直後に殺されていたよ」

「でも、これじゃ、仮面舞踏会マスカレードどころじゃないよね? 他の子だって烙印者ネフィリムの言いなり状態ってことでしょ?」

「このままだと勝者なしで終わるだろうね。他の子は、浄化の欠片ウルズで買収されてる可能性が高いね」

「諦めないといけないのかな……」

「……2週間ほど、何もしないで様子を見よう。その間に対策を練る。他の刻印者エクスシアがどう動くかも気になるしね。大変だと思うけど、ノナは、ワイヤー系と投擲スロウ系の技能を完璧にマスターしておいて。諦めるのは、やれるだけのことをやってからだよ」

「わかった」


 ……


 ラプトル本部。今日も仕事に勤しむルディーにエレノアが言う。
「局長、獣化の被害の大幅低減を、ラプトルの功績として発表したところ、各国から資金提供が増えております」

「うれしい、悲鳴だ。しかし、烙印者ネフィリムはすごいね、もう刻印者エクスシア陣営は何もできないんじゃない?」

「1週間ほどまえから、刻印者エクスシアは目撃されておりませんね」

「アジトに引きこもっちゃったのかな?」

「全滅してくれていると助かりますが」

「まぁ、刻印者エクスシアより烙印者ネフィリムのほうが、人類にとっては、ありがたいからね」

「テロ活動も堅調なようです。すでにいくつかの案件において目標値に到達しております」

「順調でなにより」


 ……
 

 烙印者ネフィリムのアジト。

 アルゴスが、ネケシタスに話しかける
「ネケシタス。あいつら、引きこもっちゃったよ?」

「だから、最初に殺すべきだったんだ! 介入後、2人も刻印者エクスシアを殺されてる」

「でも、最初だけでしょ? もう何もできないってわかったから引きこもったわけだしね。あの程度の使い手なら、いつでも殺せるよ。気にするような相手じゃない。でも、他の刻印者エクスシアまで引きこもっちゃったね。あれー? 仮面舞踏会マスカレードは終わっちゃったのかなー?」

「やばいな、やりすぎたかも?」

「君は審判者アンサラーにビビりすぎだよ。ここまでやって大丈夫なら、やっていいってことだよ。これもご意志だよ、ご意志。しかし、期待はずれだね。もっと楽しませてくれると思ったのにー」

「暗殺に特化してるから、位置が筒抜けならそんなものだ。でも、全ての能力を引き出せてたらどうなっていたか……」

「本当に心配性だね。迷信、迷信、カマエルの直属って噂も嘘かもしれないよ?」

「とにかく、今度出て来たら、確実に全力で始末してくれ」

「わかったよ、うるさいなー。でも、なんだかんだで、4人もほふったのだから、褒めてあげないとね。仮面舞踏会マスカレードでは新記録でしょ? たいしたものだ」

「暗殺系の能力者を甘く見ると、痛い目にあうぞ」

「わかってる。次はサクッと殺すから安心していいよ」
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