上 下
240 / 259
バーバリアン

暗中模索#3

しおりを挟む
────ミユキ(アラクネ種、ニダヴェリール宮廷特務機関、第一補佐官)


 研究本部の転生者の対応が、ひと段落した。
 すでに、かなり前に転生を終えたおカルさんを本部長として、新体制が稼働している。
 研究者の評価に厳しいゼディーさんですら、かなりの高評価だ。
 私だけでなく、長年ゼディーさんから苦情をいわれてきたルフィ姉とルナ姉も、ようやく安心することができたようだ。

 コウメイ以外の研究者は皆、イサナミ自治区のキヨスミ学園の卒業生らしく、後進の育成について、学園の指導方針を取り入れることが検討されている。
 リシアさんは、学園の卒業生の受け入れにも積極的なようだ。
 
 イサナミ自治区は、人材の育成機関として十分すぎる信頼を獲得したらしい。
 イサナミ自治区の最高評議会は、人材の質の向上を中心とした政策を推し進める方針に舵を切ったそうだ。


 私は、ククリンの執務室で、たまった仕事を片付けている。
 アカネとユキナには、ミヅキの応援でニブルヘイムの各種族のコロニーの指導者の育成をお願いした。
 やっぱり、ここが一番落ち着く。


「ミユキ、ブリュンヒルデの噂聞いてる?」

「うん、クーデター起こすのでしょ?」

「なにそれ? 初耳」

「え? じゃ、なんの噂?」

「とりあえず、そっち教えて」

「なんか、派閥のメンバーがすごいらしい。それで種族長が大挙して鞍替えしてるんだって。しかもしっかりサポートしてくれるから、コロニーの情勢も回復してきたってさ。でも、議席が過半数を超えないように引き抜き行為が増えて、伸び悩んでるんらしい。すでに大勢力で、ニーヴェルング鉱床の主導権もあるから、独立でもするんじゃないかって噂されてる」

「あははは。クーデターなんて、ヴェルキエーレ数名で鎮圧できちゃうからありえないよ。ブリュンヒルデ本人が一番わかってる」

「じゃ、ククリンの情報は?」

「似た感じだけど、ちょっとちがうね。
 偶然が重なって、ブリュンヒルデの派閥ができちゃったらしい。
 なぜか派閥もないのに種族長が会いにきて傘下にしてほしいというから、何も考えずにOKだしてたら、大変な数になってヒルデブラントさんに相談したんだって」

「ひどいね。ブリュンヒルデって馬鹿なの?」

「いちおう天才肌の知略家だよ。馬鹿だけど」

「あはは。それでどうなったの?」

「第6席にいたフレドライヒさんが、全部仕切ってくれてる。
 そういうの一番得意な人だからね。
 ただ、数が多いから、派閥と関係ない上位席にいたアースバインダーに声をかけて種族の面倒を見させてるんだって」

「そっか、それで、さらに勢力が増えたのか。待遇もいいならさらに人気が出るよね」

「うん。ただ、引き止めも、勧誘もしないから、今の議席数で均衡してるみたいだけどね」

「クーデターは、敵対勢力が流したデマ?」

「どうかな? ブリュンヒルデは何もせず普段通りだし、フレドライヒさんたちは種族のコロニーの面倒しかみないから、気味が悪くて仕方ないのかも?」

「ある意味、欲のない人たちが一番怖いよね」

「そうだね。しかもフレドライヒさんたちは、ブリュンヒルデの紹介で、ティフォーニアが主催してるイサナギの修練に参加し始めちゃったから、他のアースバインダーは、かなり焦ってるみたい」

「あはは。もう、わけわかんないだろうね。
 ガイゼルヘルの一派はどうしてるの?」

「わけがわからず放心状態みたい。ガイゼルヘルさんに聞いてもわからないだろうし」

「ガイゼルヘルは一派をティフォーニア主催の修練には誘わないの?」

「そういうの気が回らない人だから、相手から求められない限り誘わない」

「エキドナうざいんでしょ? ティフォーニア主催の修練に混ぜちゃえば?」

「エキドナは、すでに参加してる」

「ほんと?」

「ニダヴェリールから正式なクレームを出したら、ティフォーニアが自分で面倒を見ることにしたの。エキドナの特性は水面みなもだし、水面みなもはティフォーニア以外、ブリュンヒルデしかいなかったみたいだから、相手にちょうどいいって思ったらしい」

「それって、ブリュンヒルデに丸投げしただけだよね?
 あとブリュンヒルデの相手が面倒になっただけだよね?」

「うん、そうだろうね。ティフォーニアらしいね」

「じゃ、しばらく静かになりそうだね」

「うん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【第二章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 のんびり、マイペース、気まぐれ。一緒にいると気が抜けるけど超絶イケメン。  俺は桜井渚。高校二年生。趣味は寝ることと読書。夏の海で溺れた幼い弟を助けて死にました。終わったなーと思ったけど目が覚めたらなんか見知らぬ土地にいた。土地?というか水中。あの有名な異世界転生したんだって。ラッキーだね。俺は精霊王に生まれ変わった。  めんどくさいことに精霊王って結構すごい立場らしいんだよね。だけどそんなの関係ない。俺は気まぐれに生きるよ。精霊の一生は長い。だから好きなだけのんびりできるはずだよね。……そのはずだったのになー。  のんびり、マイペース、気まぐれ。ついでに面倒くさがりだけど、心根は優しく仲間思い。これは前世の知識と容姿、性格を引き継いで相変わらずのんびりライフを送ろうとするも、様々なことに巻き込まれて忙しい人生を送ることになる一人の最強な精霊王の物語。 ※誤字脱字などありましたら報告してくださると助かります! ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

処理中です...