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イサナミ自治区

A NAME OF SNOW#2

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────カツラ=アケチ(ヒューマノイド、イサナミ自治区、一刃ひとは・師範)


 ユキナがようやく眠ってくれた。

 相変わらず、イサナミへの熱意が変わらない。
 この子はまだ、清鳴シンメイであり続けようとし、その先までも目指そうとしている。
 イサナミの書には、改訂版であっても刹那せつなの先は記されていない。
 それなのに、確信を超えた自信は、どこから湧いて来るの?
 昔の体ならともかく、いまの体では、まともに動かせるようになったとしても、もうイサナミの扉をくぐることすら無理なのに。

 共有者ユニオンとして生を受けた以上、これから先は、今のユキヒラのための時間だ。
 人間の平均寿命を考えると、あきらかに不公平だけど、でも、それは昔からわかっていたこと。
 そのはずなのに、この子は今、何を見つめているの?
 私には、おかしな幻想に取り憑かれているだけにしか思えない。
 
 この子は、現実を受け入れられないだけなのだ。
 いまの自分をわからせるため、ユキヒラと部屋も交換し、持ち物もすべて交換した。
 何もできない無力な自分を理解させる努力もしてきた。
 それでも、まだ何かを見つめ先へ進もうとしている。
 この子に、イサナミどころか普通の生活すら一人では送れないことを分からせるには、もう少し時間が必要だろう。

 ここに住んでいるからいけないのかな?
 二人でラフィノス公国にでも移住した方がよいのかしら?
 叔父様が戻られたら、相談してみよう。
 思い出がありすぎるこの場所は、今のユキナが、生きるには辛すぎると思う。
 今のユキヒラと一緒に暮らさせるのも、今のユキナに酷すぎる。


 この気配……アカネか。
「おじゃましまーす。ユキナねちゃったの?」

「ようやくさっき寝たところ、絶対起こさないでね?」

「過保護すぎない?」

「足りないくらいよ」

「で、なんの用?」

「ニートのカツラになんか用はないわよ。ユキナと話をしにきたの、どうして寝かせちゃったの? 体調よくなってきたのでしょ?」

「だからよ。最近、体を無理に動かそうとするの。無名相むみょうそうなのに、そんなことしたら死んじゃうでしょ?」

「そうなの? 聴いたことないけど?」

「……。とにかく、ダメ」

「過保護すぎだよ。体が動かせるなら試してみればいいじゃない」

「もし何かあったらどうするのよ?」

「そのためにカツラが側についてるのでしょ?」

「もう、他人事だと気が楽でいいわね」

「おなじ従姉妹どうしでしょ?」

「私は姉よ」

「義理のでしょ? もとは従姉妹じゃない」

「うるさいわね、用がないなら帰ったら?」

「あれ? ユキナのゴーレムどうしたの?」

「あれは、ユキヒラのゴーレム」

「それくらい手元に残しておいてあげなよ。大切なものじゃない」

「使えもしないものあってもしかたないでしょ?」

「ユキヒラだってつかえないじゃない」

「ユキヒラはそのうち使えるようになるわよ。それに欲しがってたし」

「ユキヒラは、ユキナからなんでも取り上げたいだけよ。昔の自分のものを押し付けたいだけでしょ?
 あの子も困ったものよねー。ユキナは貴重な自分の時間の半分以上を提供してあげていたのに、ユキヒラは知らんぷりして放置してるじゃない」

「ユキヒラにユキナの面倒を見る暇なんてないでしょ?
 それにもう共有者ユニオンの時期は終わったのよ?」

「それでも、扱いが酷すぎ。みんな呆れてるわよ?
 ユキナの頃とは大違い」

「それもあるから、移住を考えてた」

「ラフィノス?」

「うん」

「そっか。でも、ゴーレムくらい一緒に持って行ってあげなよ。あれは絶対にユキヒラのじゃないからね」



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