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イサナギの書

蒼月#1

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────リエル(人狼ルガルアルビオン・ルーノ種、アストレア宮廷正室、アースバインダー、筆頭秘書官)


 イサナギの書の初版が、指導者候補向けに先行公開された。

 私も手伝いをしていたが、断片的な情報だけで、全容は把握していなかった。
 初めてイサナギの書を手にした時は、嬉しくて仕方がなかった。
 許可されていなかった修練がようやく解禁になったからだ。

 私は、時間を調整し修練時間を捻出しながら、一刃ひとはの第一人者となるべく、イサナギの道を歩み始めた。

 しかし、イサナギの書の初版は、最低必要条件のレベルが高すぎるため、ほとんどの指導者候補は、まずそのレベルに到達することからはじめないといけなかった。

 最も期待していたエリューデイルは、すぐに最重要技能に位置付け、入門の必須レベルに到達する人材を増やすことに注力していた。

 しかし、イサナギの真価を知らない各方面からは、ただの心の修練のために、優秀な人材の貴重な時間を割くことに疑念の声が上がっていた。

 アストレア内の両者の温度差は両極端だった。
 大歓迎していたエリューデイルと私と異なり、ガイゼルヘルとブリュンヒルデはとても懐疑的だったのだ。

 ニダヴェリールとの格差を危惧したティフォーニアは、アースバインダー達に上級者レベルまで到達し〝師範〟の称号を獲得するよう勅命を出した。アースバインダー達と私は、ティフォーニアの指導の元で修練を開始したのだ。

 エリューデイルとガイゼルヘルは私とおなじ一刃ひとはで、ブリュンヒルデはティフォーニアと同じ水面みなもだった。

 そのため、誰かと一緒に修練を進められたので、比較的順調に修練が進んだ。

 ティフォーニアは、師範の獲得が最も困難といわれる月影つきかげがいなかったのはよかったと言っていた。ティフォーニアは月影つきかげの難解さは困りものだと嘆いていた。ティフォーニアでも月影つきかげの師範の取得は苦労したようだ。だが、苦労するだけの価値があると、とても満足げに語っていた。

 最初は懐疑的だったガイゼルヘルとブリュンヒルデは、入門の必須レベルに到達するまでは、勅命なので仕方なくやっていた感じが伝わってきたが、イサナギの扉を開いたあとは、人が変わったように打ち込み始めた。

 本人達は、すぐに自分の腹心たちを入門させたくてしかたがなかったらしいが、師範にならない限り、他者への指導は禁忌とされていたため、かなり焦りはじめた。

 エリューデイルに師範の称号を一足先に獲得された2人は本当に悔しそうだった。
 私にも先を越されてしまったので、さらにショックを受けたようだ。

 しかし、忙しい中でも時間を捻出し、誰1人として毎日の修練を欠かすことはなかった。


 ようやくアストレアに、イサナギが根付き始めた。
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